2018年、MotoGPクラスにステップアップした“タカ”こと中上貴晶は、大雨のサバイバルレースとなった最終戦での6位を最高位に33ポイントを獲得しランキング20位という成績だった。シーズンを戦ったマシンは型落ちの2017年型ホンダRC213Vとはいえ、このリザルトは物足りない部分もあった。
2018年シーズン開幕前のセパンテストでは、MotoGPマシンをライディングするための身体作りが不十分だったことが分かり、フィジカル面を見直した中上。レースをこなしていく度に成長していったものの、シーズン後半は、なぜ、もっと速く走ることができないのか? という自問自答が続いていた。
そんな中上だが、2018年シーズン終了後、11月にヘレスサーキットで行われたオフィシャルテストでトップタイムを記録した。周りは、2019年シーズンに向けたマシンの仕様を決めるテストを行っているなか、中上は仕上がっている2018年型RC213Vを走らせていた。さらにヘレスを得意としている部分を差し引いても、MotoGPでトップタイムということは、評価できるはずだ。
その真価が見えて来るのが、今回のセパンテストだった。2019年シーズンで中上が使用するマシンは、型落ちの2018年型RC213Vだが、2018年シーズン後半には、ライディング面で、どう頑張っても他に追いつけなかったという悩みから解放されたようだ。
「昨年乗っていたマシンに比べると、エンジンのパワーデリバリーがすごくいいですね。ウイングタイプのカウルもハンドリングが重たくなる部分がありますが、ブレーキング時に安定するのがメリットです」と中上は2018年型RC213Vについてコメントする。
2018年に中上のチーフメカニックを担当したラモン・アウリンがホルヘ・ロレンソを担当することになったため、最終戦後のバレンシアテストから、ダニ・ペドロサを担当していたジャコモ・グイドッティが2019年シーズンの中上の担当チーフメカニックとなった。グイドッティについては「昨年までのラモンもいい人でしたが、ジャコモは、すごく冷静ですし、ひとつひとつ丁寧に物事を進めてくれるので、すごくやりやすいですね」と関係は良好のようだ。
中上はセパンオフィシャルテストで、初日、2日目、そして最終日と着実なステップを見せ、マシンを仕上げて行き、自己ベストを大幅に更新。アベレージでも1秒以上速く走れるようになっていた。
最終的に1分59秒148までタイムを縮めセパンテストは9番手となった中上だが、数字以上に手応えのあったテストになったようだ。
「トップからコンマ9秒という差は大きいと思います。ただ、アタックした周にコースアウトしてしまったので、その周がうまく行っていたとしても1分58秒台にギリギリ入ったか入らないかというくらいでした。そのなかで限界を探りながらのアタックでしたし、課題は残りましたけれど、いいテストになったと思います」
「ユーズドタイヤでも、安定したラップタイムを刻めましたし、1分59秒台を並べることができた周回も何回かありましたし、ロングランはできませんでしたが、レースは20周ですが、フロント・リア共に25、26周したタイヤでも、2分00秒中盤で、うまく走ることができたので非常に収穫のあったテストになりました」と成果を強調。
HRCレース室の桒田哲宏室長は中上について「昨年マルクが9勝を挙げてチャンピオンになったマシンですから、十分に戦える性能があると思いますし、タカにはマシン側で余計な面倒をかけたくないので、自分自身を高めていってもらえればいいと思っています」と太鼓判を押す。
2019年シーズン、MotoGPクラスでのホンダのシートは6から4に減った。KTMが4台に増え、MotoGPをプロモーションしているドルナは、1メーカー4台という構想を練っていると言われる。レプソル・ホンダにマルケスとホルヘ・ロレンソ、LCRホンダのチームメイトにカル・クラッチローとホンダだけに限って言っても蒼々たるメンバー。成績を残して行かなければ日本人ライダーだからと言って残ることはできない世界。中上にとってMotoGPでの生き残りをかけたシーズンが間もなく始まる。