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大橋トリオ、なぜサブスクで人気? 時代やシチュエーションを問わない挑戦的なサウンドプロダクト

2019年02月15日 19:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 大橋トリオが活動12周年を迎え、新たな道を歩み出している。作曲やアレンジなど、ほぼ全ての演奏を自ら奏でるマルチプレイヤーである彼。自らのスタジオで制作する“こだわりの”音楽探求から生み出された、2月13日にリリースしたばかりの最新アルバム『THUNDERBIRD』が素晴らしい。


参考:Aimer、さユり、清原果耶……野田洋次郎、提供曲から感じる歌い手への“愛情とリスペクト”


 アナログ時代のサウンドと質感を追求し、70~80年代の空気感をいまの時代に再構築した音作り。アルバム『THUNDERBIRD』では、シャッフルビートが気持ちの良いTikTokのCMソング「S・M・I・L・E・S」、柔らかに歌い上げていく日本メナード化粧品の60周年キャンペーンソング「Natural Woman」、大橋トリオによるプロデュースで1月にメジャーデビューした姉妹ユニットKitriのモナをフィーチャーした没入感高いシリアスにポップな「kite feat. Mona(Kitri)」など、全10曲を収録している。


■スタジオワークによる、変化を醸し出すサウンドチャレンジ


 注目すべきは良質なサウンドの深化だ。前作『STEREO』以降、いわゆるフォーキーな魅力を放つ大橋トリオらしさから逸脱した、スタジオワークによる芳醇な変化を醸し出す、品の良い“進化系AOR歌謡”(言葉にするが難しい……)ライクなチャレンジに耳が惹かれる。


 最新アルバム『THUNDERBIRD』で注目すべきは、アナログなシンセサイザーと暖かみのあるメロディの優しき沸点。80’sテクノ歌謡風味のイントロダクションが気持ちいい「テレパシー」から幕を開ける。いまや、数年単位で流行り廃りの音の質感が変化する時代。本作は、5年ほど前だったら違和感を覚える音使いだったかもしれない。しかし、2019年のいま、ジャストな音が鳴っているのが面白い。さりげなく鳴り響くシンセサウンドのユニークさ。英語詞による「Fragments」しかり、大橋トリオは、そんな音や質感の移りゆく様を楽しんでいるのだろう。本人の“ニヤッとした微笑み”が伝わってくるかのようなサウンドセンスだ。


 芳醇な印象を与える、隙間を活かしたスローナンバーの数々。制作スタイルのテーマは、ストレートに“アナログ”だという。アナログレコードの質感や、それを聴くまでにかかる手間を愛するかのような設えのこだわり=極上の音の響きに着目したい。


 アルバムタイトルにもなった70’sアメリカンロックの風合いを感じる2曲目「THUNDERBIRD」は、大味なセンスから、もしかしたら同名のアメ車が由来するのかもしれない。そんな大橋トリオ自身が好きだった洋楽サウンドが1周して、より円熟味をましてサイクルが巡ってきた感がある。それを、エロティックなグルーヴを効かせることで今の時代のサウンド感にアップデートしようと試みているのが彼らしさだ。それこそ、細野晴臣、山下達郎、鈴木慶一、KIRINJI、冨田ラボなど、音にこだわるジャパニーズポップカルチャーの系譜を継承するこだわりのサウンドクリエイションだと思う。願わくばじっくりとレコードで楽しみたい、そんな無駄を削ぎ落とした魔法めいたサウンドが鳴っている。


 心に優しく染み渡るちょっと苦い珈琲の香りが漂う「三日月ララバイ」や、孤独と肯定感を唄う大名曲「サニーデー」で鳴り響く、耳あたりのいいファンタスティックな高揚感も忘れずに体感してほしい。最上の時間を味わえることだろう。


■音楽ストリーミング時代にフィットする活動スタイル


 また、大橋トリオは、Spotify、Apple Music、YouTube Musicなど音楽ストリーミング界隈での評価も高い。柔らかな音使いもあってか、シチュエーションを問わず数々の人気プレイリストにリストインされている。いわゆる、流しっぱなしで居住空間の空気感を変えてくれる洗練された音楽センスだ。さらに、オーガニックな雰囲気によって、屋外行動するシチュエーションにもマッチしている。ゆえに常に、安定した再生回数を記録し続けているのだ。


 Spotifyに顕著だが、ストリーミングサービスは、旧来のダウンロード配信サービスのストリーミング化を志したのではなく、体系化した音楽カタログを気軽にリスニングできるように再構築したメディア的サービスである。ゆえに、次世代ヒットを生み出すインキュベーション機能を持ち、かつて80年代~90年代に全盛期を迎えたジャンルを横断した音楽雑誌的存在になりつつある。


 音楽ストリーミング時代の到来によって、音楽そのものの楽しみ方や新しいアーティストを発見するきっかけも多様化している昨今、メディアによるパワーゲームは音楽プロモーションの有効な手段ではなくなりつつある。それこそ、SNSによる“クチコミ”拡散が重視され、作品力が問われる時代となった。いわば、作品をリリースすること自体がプロモーションとなる時代だ。ミュージシャンズ・ミュージシャンであり、派手な宣伝活動が一切ない、大橋トリオによる音楽ありきの活動スタンスは、テン年代以降の音楽ストリーミング時代の理にかなっている。


 時代を超えていく音楽カルチャーを、自らのフィルターによって切り取り表現する大橋トリオ。音楽ストリーミングが普及して以降、時代やジャンルにとらわれることなく様々なアーティストの楽曲にインスパイアされ、そこから得た影響を現代風にアップデートするアーティストは徐々に増えているが、そのスタイルの先駆者が大橋トリオと言えるのではないだろうか。


 以下、本人によるアルバム解説をチェックしながら音楽ストリーミングサービスで、この大傑作アルバム作品を堪能してほしい(これぞいまの時代の音楽の楽しみ方!)。気に入ったらCDをチェックして、インタビュー記事を探って、クレジットや歌詞と向き合いながら音楽を楽しむのも一興だ。


【大橋トリオ『THUNDERBIRD』本人全曲解説】


『THUNDERBIRD』
M1. テレパシー
アルバム1曲めということでかなりエッジを効かせたサウンドに仕上がったかと思います。
アナログ機材が充実してきた頃のシンセサイザーとリズムがポイントかと思います。
ださかっこ良いシンセのソロに注目です!


M2. THUNDERBIRD
このアルバムを作るにあたり最初にできた曲でこのアルバムの象徴とも言えるリード曲になります。
一昨年からアナログレコードの時代のサウンドとグルーヴに惚れ直し、聴き込み、 どうにかその質感を再現できないものかとただただ追求してみました。
この雰囲気にきっとあなたも虜になるはず!


M3. 三日月ララバイ
リズムがありながらも落ち着いて聴ける曲をと思って作ってみました。
録音ではエレキギターの敢えてのエアー感にこだわってみました。
こちらもシンセのソロの注目です。
ライブではメンバーが自慢の腕前を惜しげも無く披露するソロ回しの曲になるのかも?


M4. S・M・I・L・E・S
TikTokのCMに向けて書いた曲。CM監督からきたイメージが70年代のテンポ感のある曲で、テンポがありつつそれぞれの楽器の持ち味がシンプルにでるようにしました。


M5. Fragments
アメリカの黄金期の王道バラードがイメージです。
チャームくんに英詞をお願いしたらサビ以外の部分に過去曲のタイトルを使って歌詞を書いてくれました。
大橋トリオ愛を感じる内容に感慨です。


M6.kite feat. Mona (Kitri) ​
プロデュースをさせてもらったたKitriのMonaちゃんとコラボしました。
曲が素晴らしく自分も歌いたいと思った数少ない創り手の一人です。
デモ音源が送られてきて、彼女の仮歌に合わせてオクターブ下で歌ってみたら
これはただの曲提供ではなくデュエットにするべき!と


M7. Wildflower
休日の午後にアナログ盤をゆったりを聴くようなゆったり感にひたって出来た曲です。
miccaさんとチャーム君での共作での英詞曲です。
おなじみ神谷氏の思いつきによりホースを振り回した音が無駄に効果的に入っています、
皆さん聞き取れるでしょうか?


M8. Natural Woman
メナードの60周年CMに書き下ろした曲で80年代的なリバーブドラム、シンセサイザー、大きなメロディーをイメージしました。


M9. サニーデー
S・M・I・ L・E・Sを作っている頃に出来た曲で、いわゆる大橋トリオ的な曲といったところでしょうか?(ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) )