2019年02月14日 09:51 弁護士ドットコム
セクハラに笑顔で対応したら、同意していたとみなされるーー。こんな裁判所の判断が最高裁でひっくり返った。
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セクハラ行為が原因で受けた停職6カ月の懲戒処分が重すぎるとして、50代の男性職員が市を訴えた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷は11月6日、「著しく妥当を欠くものであるとまではいえない」と判断し、男性側の請求を退けた。
1審・神戸地裁と2審・大阪高裁は「女性は終始笑顔で行動しており、渋々ながらも同意していたと認められる」などとし、男性の処分が重すぎると判断していた。
これについてネットでは「地裁高裁やばすぎる」「これは笑顔じゃなくて引きつり笑いやろ」などといったコメントが相次ぎ、原審の判断に驚きの声が集まっていた。
セクハラに笑顔で対応したら、裁判で「渋々ながらも同意」とみなされてしまうのだろうか。セクハラ問題に詳しい新村響子弁護士に聞いた。
ーー今回の最高裁の判断について、評価をお願いします。
最高裁は、男性職員と被害女性は、コンビニエンスストアの客と店員の関係であることを踏まえ、女性が終始笑顔で行動し、男性職員による身体的接触に抵抗を示さなかったとしても、それは客とのトラブルを避けるためのものであったとみる余地があると指摘しています。
そのため、「身体的接触についての同意があった」として、これを男性職員に有利に評価することは相当でないと判断しました。
これは、セクハラを受けて内心では嫌だと思っていても、店員という立場上、客である加害男性に、明確に拒否反応を示すことが難しいという被害女性の心理状態を踏まえた妥当な判断であると思います。
ーー神戸地裁判決のような判断は、よくあるのでしょうか。
セクハラ事件では、被害女性が明確に拒否や抵抗をしていなかったり、逆に迎合的ともとれるような行動をしているとして、「同意があった」と評価されてしまうことは多々あります。
例えば、上司と二人で食事中に太ももを触られるなどのセクハラを受けた女性が、すぐに席を立たなかったこと、同一ルートで帰宅したこと、事後にお礼のメールを送っていることなどから、「セクハラ被害を受けたという申告は不自然である」とした地裁判決が高裁で覆った事案があります(P大学セクハラ事件・大阪高裁平成24年2月28日判決)。
また、管理職の男性が女性派遣社員に「俺のん、でかくて太いらしいねん」などと卑猥な言動を繰り返していたにもかかわらず、女性が明白な拒否の態度を示していなかったことについて、高裁が「男性は女性から許されていると勘違いをした」として男性の処分を重すぎると判断した例もあります。
この事案でも、最高裁は「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられる」として、判断を覆しました。(L館最高裁判決・最高裁平成27年2月26日判決)。
ーー性被害にあった人の心理状態について、どう考えたらいいのでしょうか 。
セクハラは、顧客から店員、上司から部下というように、上下関係や強い立場を利用して行われることが多いです。そのため、逆に被害女性は、自分の立場や人間関係の悪化などを懸念して、明確に抗議したり抵抗したりできないことが多々あります。
また、強姦や強制わいせつのような深刻な被害を受けている場合でも、身体的抵抗をする被害者は一部です。被害を受けて、身体と心が麻痺して動けなかったり、加害者を落ち着かせるために冷静に説得しようと試みたりする人がいます。
また、被害者の心理的な後遺症として、加害者に病的な憎悪を向ける人もいれば、逆に愛情や感謝の念を抱く人もいるという研究結果も知られています。
そのため、セクハラ問題を考えるときには、「拒否していないから、嫌がっていないだろう」「同意しているのだろう」という安易な捉え方は絶対にしてはならないといえます。
判決によると、50代の男性職員は加古川市環境部でゴミの運搬を担当していた。2010年ごろから勤務時間中にコンビニを頻繁に利用するようになり、女性従業員に対し、手を握る、胸を触る、男性の裸の写真を見せる、胸元をのぞき込むといった行動をとったり、「乳硬いのう」「乳小さいのう」「制服の下、何つけとん」「胸が揺れとる。何カップや」といった発言をしたりしていた。
こうした言動を理由の一つとして、退職した別の女性従業員もいた。オーナーは頻繁に報告を受けていたが、商売に差しさわりがないよう、問題にすることは控えていた。
2014年9月30日、飲み物を買ってやるので選ぶように指示し、手を絡ませた。そして、指先を股間に軽く接触させた。女性はオーナーに報告し、オーナーは市に対して苦情を送信。市はオーナーから事情を聴き「処分を求めない」という意向を示されたことを理由に、男性職員への処分を見送っていたが、新聞などに報じられ、懲戒処分を行った。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
新村 響子(にいむら・きょうこ)弁護士
東京弁護士会所属。日本労働弁護団事務局次長、東京都労働相談情報センター民間労働相談員。労働者側専門で労働事件を取り扱っており、マタハラ案件のほか解雇、残業代請求、降格、労災、セクハラなど多数の担当実績がある。
事務所名:旬報法律事務所
事務所URL:http://junpo.org/