トップへ

「ボカロで覚える」はなぜ人気シリーズに? みきとP書き下ろし楽曲から考察

2019年02月13日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

  初音ミクなどのボーカロイドが歌うボーカロイド曲で勉強ができる学習参考書「MUSIC STUDY PROJECT ボカロで覚える」の高校生版(英単語・日本史・世界史)が2月22日に発売される。


(関連:『初音ミクシンフォニー2018-2019』大阪公演写真


 2016年に発売された中学生版(歴史・理科・英単語・数学)では、1年でシリーズ10万部を突破。“私の時代にもこんな参考書があればよかった”などといった読者からの強い要望に応えるかたちで、今回高校生版の発売が決まったそうだ。各々1冊には、ボカロ原曲の替え歌や豪華ボカロP陣による書下ろし楽曲含めた12曲が収録されている。1曲をもって、ひとつの単元を習得することが可能。CD音源を聴くあるいは指定されたMVを視聴した後に、曲中にでてくる言葉の意味や重要単語を解説するページを読み、最後に穴埋め問題を解答……といった要領で進めていく。それにしても、「ボカロで覚える」シリーズが、学習参考書としては異例のヒットを記録するほどの好評ぶりを見せるのはなぜか。


 まずは、既にYouTubeにて公開されている、みきとPが手がけた「アンキ厨はアンキ中~To the next ERA!~」を視聴していただきたい。


 注目すべきはMVで表示される語呂合わせで覚える年号だ。このシリーズでは、全曲MVをがついてくる。そのため、年号のみならず、イラストによる時代背景の把握も可能なのだ。例えば、〈異論(160)は認(3)めぬ 徳川家康 大江戸幕府盛大にGo!〉では、映像に1603と徳川家康が登場するため、その二つをセットで暗記することができる。耳だけでなく目でも覚えさせることでより暗記しやすくさせているのだ。


 また、曲自体も抜かりがない。「アンキ厨はアンキ中~To the next ERA!~」は、語呂合わせで覚える年号と重要用語をモチーフにした楽曲になっている。ラップ調スタイルで比較的単調に進み、〈ア・ア・ア・暗記厨 ア・ア・ア・暗記中…〉の繰り返しや、韻を踏むことで親しみやすさが生まれている。大正ロマンの時代に入ると一気にトーンダウン。その時代に合せた雰囲気作りでリスナーを引き込んでいく。さらに、「現代」へ進むまでのスピードアップする曲展開や、最後に〈おまけに覚えてね 時代順文化(Ready go!)〉と次々と年号をおさらいしていく点など……自然と単語がインプットされるように、遊び心ある仕掛けが施されているところも見逃せない。


 また、同シリーズのひとつ「英単語」では、通常ボーカロイドに発音させるのは困難であるという英語を発音させていることも興味深い。調声が十二分に施されていることでスムーズに英語を聴くことができるのだ。また、歌詞を覚えるだけで、自然と単語も覚えられるという点も嬉しい。


 そもそも、参考書になぜボーカロイドを使うのか。まずは、ボーカロイド文化を支えている大方の年齢層が中高生であることが挙げられるだろう。それは、歌い手やボカロPのライブに足を運べば一目瞭然だが、「2018年 年代別カラオケ年間ランキング」を見ても明瞭だ(参照:https://www.joysound.com/web/s/karaoke/feature/annual_age_2018)。また、ボカロP本人が同シリーズをSNSで告知もしている。その拡散力や話題性も参考書として起用された理由のひとつかもしれない(日本史の平安時代を担当するピノキオピーも、同シリーズを担当した旨をツイートしている。参照:https://twitter.com/pinocchiop/status/1084027295717715969)。


 しかし、「ボカロで覚える」が人気シリーズになったのは、話題性や単なるボカロ人気だけでなく、その内容にある。同シリーズがボカロファン以外からも注目を集める参考書になっているのは、先述したような「耳と目で覚えさせること」や「遊び心ある仕掛け」といった、他の参考書とは違う“特異性”があったからこそだ。


 また、「ボカロで覚える」シリーズの最大のポイントは、“なにをするにも楽しめなければ続かない”ということを意識して、“楽しむ”要素を一杯に詰め込んだ点だろう。勉強に苦手意識を持っている学生が、一心不乱に勉強にだけ集中し続けるのは困難であったとしても、そのなかに楽しいと思えることが付加されるとどうだろうか。“勉強”に対して意気込まずに取り組むことができる。同シリーズは、“楽しむ”を大前提とした参考書なのだ。


 「ボカロで覚える」は重要単語を大まかに覚えることができる参考書だ。MVを視聴し、楽しみながら学習することで、自然と勉強への興味や意欲が湧くことだろう。(小町 碧音)