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中村倫也が深田恭子に投げかけた“現代文”の問題 『はじこい』交錯するそれぞれの想い

2019年02月13日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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「問題です。高3男子が毎日毎日、33歳女性担当講師の写真を持ち歩き、勉強していました。さて、このときの高3男子の心情をわかりやすく説明しなさい。現代文の先生?」


参考:『はじこい』横浜流星×永山絢斗×中村倫也、理想の男性は誰? 深田恭子を悩ませる三者三様の魅力


 『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)第5話。いよいよ、しくじりアラサー塾講師・春見順子(深田恭子)への本格的なアプローチを開始した、元ヤン高校教師の山下一真(中村倫也)。18歳の誕生日まで自分の想いを告げることはできないと我慢し続ける由利匡平(横浜流星)、そして誰よりもそばにいながら想いをうまく伝えきれずにいるイトコの八雲雅志(永山絢斗)を横目に、さっそうと順子の部屋へ上がり込む。そして、「そこにパイがあったから」と、シャツの下にまで手を潜らせる手練っぷりを披露した。


 思い返せば山下は、この超がつくほど鈍感な順子が、唯一“告白された”と認識した人物。しかも、高校時代の順子は今よりもさらにガリ勉モードだったと考えると、告白を告白だとわかってもらうのも相当難解だったはず。そんな山下だからこそ、匡平や雅志が苦悩する恋に対する鈍感さを、現代文の問題という勉強フィールドで解説してみせる。


 匡平に朝帰りを目撃されたことに慌て、追いかけて誤解を解こうとする順子を引き止めようと、冒頭の「問題」を出した山下。現代文の問題は、回答者の主観はいらない。個人の感想には正解がないため、採点できないからだ。答えは、作者の意図ただひとつ。「あいつがここに来たのは、たぶん毎朝、チャリでお前んちの前を通るためだ。俺も高校のころ、そうだったからよく分かる」。


 山下も匡平と同じく、勉強を教えてもらう中で想いを募らせていった。そして、同じように毎日、家の前を通った。「もし笑ってる顔が見られれば、少しでも声が聞こえれば、それだけで元気出るんだよ。好きだから」と核心を突き、ようやく順子の中にあった山下に“告白された”=“自分を好きになってくれる人がいる”という過去の記憶と、現在の匡平が自分に抱く特別な想いとが結びつく。


 きっと山下の口からは、「今、またお前のこと……」と、現在の自分もまた、あのころと同じ気持ちで順子に想いを寄せているのだと、強調する言葉が続くはずだった。だが、順子は自分がしてきた匡平への言動で「私0点だー!」とパニック状態。“俺の解答は聞く気ねぇのか。なんで現代文の先生やってんだ。このガリ勉鈍感女”と、心の中で悪態をつき、その場を後にするしかなかった。


 雅志と同じく、山下の気持ちも、順子には伝わらず仕舞い。そして、雅志のバックハグ告白に続いて、山下の大胆なアプローチも目撃することになった匡平の悔しさたるや。何の問題もなく告白できる雅志に「死ぬほど羨ましい」と言った姿を思い出すと、一層切なさが増す。だが、こうした悔しさや挫折が身の丈を知り、さらに成長スピードを上げる起爆剤になる。レベルの高い授業に触れ、模試を経験し、実力のなさを痛感したように、匡平は大人の男たちを前に、まだまだ未熟な自分を突きつけられているところなのだ。


 だが、落ち込んでいる暇はない。匡平にとって東大受験が普通のやり方では合格できないように、男子高校生と33歳の鈍感塾講師との恋だって普通のやり方ではうまくいくわけがないのだ。33歳の東大卒のエリート商社マン・雅志と、33歳の元ヤン教師・山下というライバルに勝つためには、“とりあえず”でも、“がむしゃら”でも勝ち目はない。だが、匡平は雅志の受験ノウハウを頼りに勉強し、そして山下と同じように毎朝チャリで通って元気をチャージするしかなかった。そんな自分に苛立ちを隠せなかったのだ。このまま同じことをしていてはダメだという気づきが、ここから匡平をどう変えていくのか。


 また一方で、この物語で注目したいのは、順子と母親・しのぶ(檀ふみ)との関係性だ。勉強のできる自慢の娘に対して、“こうであってほしい”という期待が、やがて“こうあらねばならない”という呪いとなってしまった母親。期待が大きかったからこそ、順子が東大受験に失敗したことを順子以上に落胆し、その事実を何年も受け入れられずにいた。第5話では、匡平の東大合格を願ってやまない順子に、当時の自分を重ねて、万が一匡平が不合格になったときのことを心配するシーンも。


「相手の心情を先入観なく正確に理解しないと、主張の押し付け合いになっちゃうでしょ。人間関係と一緒」


 そう説く順子自身、恋愛や親の心情を理解するのが難しいのは、そこにどうしても主観が入ってしまうからだ。そして、主観には正解がないように、一概にはどれが正しくて、どれが間違っているとは言い切れない。それぞれが、それぞれの正義を持って行動しているからだ。自分の人生も、ドラマの視聴者のように客観的に見られたら、どんなにわかりやすいだろう。しかし、だからこそ人生は面白いのだと思いたい。ドラマという参考書を照らし合わせながら、交錯するそれぞれの心情を正しく理解する練習問題を、次回も問いていこうではないか。(佐藤結衣)