2019年02月13日 10:41 弁護士ドットコム
2人の男性が2月4日、三豊市役所(香川県)を訪れた。2人は婚姻届を提出しようとしたが、担当者は「男性同士の婚姻届は受理できない」として、不受理となった。
【関連記事:「童貞」といじられ続けた広告代理店の男性 「僕も #MeToo と声を上げてもよいでしょうか?」】
男性の名前は、田中昭全さんと川田有希さん。2人は2月14日、同性同士で婚姻できないことは「法の下の平等」を定めた憲法14条に反するなどとして、国に慰謝料を求めて提訴する予定だ。
現在、地方都市で暮らすLGBTは、どんなことを考えているのか。田中さんに話を聞いた。(ライター・岡安早和)
2020年に開催される東京オリンピック。そのコンセプトのひとつには「多様性と調和」が掲げられ、国籍、宗教、性的指向など、あらゆる違いを互いに認め合う共生社会の実現が期待されている。
その一方で、地方はどうだろうか。もしかすると、こと「多様性」というテーマに関しては、自分の住む町に置き換えるのが難しい人も多いのかもしれない。
香川県では昨年、LGBTをめぐる大きな動きがあった。丸亀市で、昨年4月にパートナーシップ制度の導入を試みていたが、一部の市議会議員の反発によって先送りされることとなったのだ。
この時、議題のひとつに挙げられたのが、「パートナーシップ制度を必要としている人が、丸亀市に一体何人いるのか」という点だ。
田中さんは、これに「パートナーシップ制度は、存在自体に意味があるんです」と異を唱える。パートナーシップ制度の利用希望者の数よりも、その選択肢があること自体に重要性を見出しているからだ。
「LGBTの当事者にはカミングアウトの壁があるので、顔と名前を出して堂々と、『私達にはパートナーシップ制度が必要なんです』と名乗りを挙げられる人は、そうたくさんいません。保守的な考えが根強い地方では尚更なのかもしれません。
けれど、『それなら、今は必要ないじゃないか』ではなく、パートナーシップ制度があるだけで未来を明るく捉えられる人もいる、ということを想像してほしいんです」
パートナーシップ制度を利用するかどうかは、カミングアウトはもちろん、パートナーとの関係性や職場環境など、あらゆる事情に左右される。そのため、導入されたからといって、すぐに利用するカップルがいるとは限らない。
実際、導入から2年が経過して、ようやく利用するカップルが現れたという兵庫県宝塚市の例もある。
「僕のところには、地方に暮らしている当事者たちから時折相談のメッセージが届きますが、匿名である場合も少なくない。たとえ顔と名前が明かせなくても、どの町にも当事者はいるということでもあると思うんです。
そういった、潜在的に存在する人達が、『今は無理でもいつかは…』と希望を抱けるだけでも大きなことではないでしょうか」
田中さんの元には、学生からもメッセージが送られてくる。田中さんは、悩んでいる彼らの姿が、かつての自分と重なるのだという。
「僕もそうでしたが、当事者は、学生時代に自分のセクシュアリティに自信が持てず、誰にも相談できない場合が多い。
また、LGBT当事者の思春期の自殺率は、そうでない人達の自殺率に比べて高いという統計もあります。そんな時期に、地方自治体が主導するパートナーシップ制度のような条例や法律があったら、僕もあんなに苦しまなくて済んだかもって思うんです。
『自分の住む町が、自分の存在を肯定してくれてる』。そういう希望は、多感な思春期を過ごす学生たちにとっても、重要な意味を持つはずです」
「丸亀市ではパートナーシップ制度の導入が見送りになりましたが、市の担当職員さん達は本当に熱心に取り組んでくださっています」と話す田中さん。
田中さんもいちメンバーとして所属する、LGBTの自助グループ「プラウド香川」は、丸亀市と連携を取り、市の職員との意見交換会や当事者の交流会、市民相談会など、様々な取り組みを進めている。
「プラウド香川は、これまで20年近くにわたって、当事者の悩みや情報を共有する場を作ってきました。最近は、そういった内向きの活動と並行して、丸亀市との連携のような外向きの活動も増えてきています。
行政職員や議員、教職員、市民、あらゆる人達に理解を促して、風向きが変わってくれたらと願っています」
「OUT IN JAPAN」(NPO法人グッド・エイジング・エールズ主催)というプロジェクトをご存じだろうか。
「OUT IN JAPAN」は、レスリー・キーをはじめとする著名なフォトグラファーが、日本中のLGBTの当事者達のポートレートを撮影し、5年間で1万人のギャラリーを目指すプロジェクトだ。キャッチコピーには、「あなたの輝く姿が、つぎの誰かの勇気となる」を掲げ、これを機にカミングアウトする人も少なくない。
香川県では、「OUT IN JAPAN」実施に向けて、当事者と支援者による団体「瀬戸内LGBTプロジェクト実行委員会」が発足。昨年10月には「OUT IN JAPAN SETOUCHI」として、高松市での撮影会と写真の展覧会を実現させた。田中さんも、瀬戸内LGBTプロジェクト実行委員会の一員だ。
「撮影会には、県内外から57名のLGBT当事者が参加してくれて、展覧会も500 人近い方に見ていただけました。
僕もこれまでたくさんの当事者と出会ってきたつもりだったんですけど、それでも今回の撮影会を通して、『出会ったことのない当事者がまだこんなにいるんだ』って驚かされたんです」
田中さんは、さらにこう続ける。
「撮影会では、高松市の大西秀人市長にレインボーフラッグを持ってもらい、応援フォトを撮影する一幕もありました。
他にも、香川県の浜田恵造県知事と5市の市長からは応援コメントをいただいて、こちらも展覧会場に掲示しました。少なくとも、いくつかの自治体のトップには僕たちの声が届いているということ、そして、それを可視化できたということは、大きな進歩だったと思います」
最後に、田中さんに今後の活動や目標を聞いてみた。
「当事者以外の方達へ向けた情報発信をこれからも継続していきたいです。
パートナーシップ制度は、もちろん、ないよりある方が良いです。しかし、法的な保護という観点から考えると、婚姻制度には遠く及びません。
例えば、同性パートナーへの遺産相続や国際カップルの配偶者ビザ、病院での面会や治療の同意、パートナーと育てている子どもの親権、そういった権利はパートナーシップ制度では保証されないんです。
同性カップルの高齢化も顕著になっている今、こういった問題を解決する方法は、やっぱり、婚姻制度が同性にも適用されることだと思います。
微力ではありますが、僕とパートナーも同性婚実現に向けて、できるだけのことはしていくつもりです」
【取材協力】
田中昭全(たなか・あきよし)さん。パートナーの川田有希さんと共に香川県三豊市に在住。LGBTに関する理解を深めるべく、講演や交流会、メディアへの出演など、様々な活動を続ける。2015年には、全国のLGBT当事者455人と共に日本弁護士連合会に対して、同性婚人権救済申し立てを行った。アーティストとしての一面も持ち、DJやデザイナーの活動も行っている。
【ライタープロフィール】岡安早和。大学卒業後、企業の法務部にて勤務し、転勤族の夫との結婚を機にライターに転身。2017年から香川県高松市在住。
(弁護士ドットコムニュース)