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『七つの会議』は芸能のオールスターが揃った壮大な現代劇に 野村萬斎の“観察眼”が冴え渡る

2019年02月13日 10:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 能楽、歌舞伎、落語、音楽、漫才。一括りに「芸能」と言ってもその分野は実に様々である。様式も歴史もそれぞれ異なるわけであるが、映画という一ジャンルにおいて、これほどまでに多様な分野から演者が集結することは、なかなかない。野村萬斎、香川照之、片岡愛之助、春風亭昇太、立川談春、世良公則、藤森慎吾、等々。出演する役者陣を見てまず感じられるのは、その顔ぶれの“広さ”である。


 映像以外のフィールドでも活躍する出演者だからこそ醸し出せる空気感、貫禄といったものがある。着物で身を包み、高座から噺を聞かせたり、あるいは隈取をして、外連を披露したりする人物が、背広という現代的な衣装を身にまとい、今の日本のリアルを演じている様には、独特の味わいが漂う。映像作品であれ、歌舞伎であれ、落語であれ、「表現する」「演じる」という点において、どこかで通じているところがあるはずだ。映画『七つの会議』は、様々なジャンルのプロが織りなす、オーケストラのような作品であり、圧巻のクオリティーが感じられる。もちろん、先に述べた出演者以外にも、テレビドラマや映画で常連の音尾琢真、吉田羊、小泉孝太郎、土屋太鳳、木下ほうかといった役者陣も出演しており、壮大な現代劇が繰り広げられる。昨今のTBS系列の「日曜劇場」を振り返ってみても、歌舞伎を始めとする多くの領域からのキャスト起用が見受けられるわけであるが、『七つの会議』はひときわその“広さ”が印象に残る。


 その中でも、当然と言うべきか、主演の野村萬斎の存在感はやはり大きい。


 代表作を見ればわかるように、野村の演技が光る作品のジャンルは実に多彩だ。『陰陽師』『のぼうの城』『花戦さ』等でも、もちろん野村萬斎らしさがふんだんに生かされているのだが、例えば、三谷幸喜が脚本を務めた特別ドラマ『オリエント急行殺人事件』『黒井戸殺し』(いずれも、フジテレビ系)での勝呂武尊も秀逸だった。エルキュール・ポアロの日本人版である勝呂の独特な喋り方や、声のトーンには驚かされ、また細かな所作に至るまで実によく作り込まれていた。先日、『アウト×デラックス』(フジテレビ系)に野村がゲスト出演した際、「マツコ・デラックスが衣装を直す癖が気になる」と話していたが(「確かに」と思ったものだ)、野村は普段から人の観察をすることが多く、細かな動きに目が行ってしまうのだとか。能楽でも、映像作品でも、それこそ首の動き一つにも意識を配るその姿勢が、存分に演技で生かされているのだろう。今回の『七つの会議』でも、ストーリーはもちろん、野村の声の出し方、立ち方、歩き方といった細部の演技にもぜひ注目してみてほしい。


 TBS系列では、これまでに『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』『下町ロケット』『陸王』といった池井戸潤原作の作品が放送され、作品ごとに異なるテーマが設けられていた。『七つの会議』のポスターには「正義を、語れ。」とあるように、“正義”が本作のテーマであることは間違いないだろう。ここで言う、“正義”とは何か、“語る”とは一体どういうことなのか? 今、テレビをつければ様々なニュースが飛び交っているわけであるが、ひょっとすると現代の私たちがそうしたニュースを考えるに際して、ヒントとなるような視点が本作からは得られるかもしれない。


  『七つの会議』は、TBS系ドラマ『南極大陸』『半沢直樹』『LEADERS リーダーズ』『下町ロケット』『小さな巨人』『陸王』という名だたる作品で演出を手がけた福澤克雄が監督を務めたほか、NHK大河ドラマ『真田丸』など、その担当作品を挙げればキリがないほどの名作を生み出してきた服部隆之が音楽を担当。キャストから、制作陣にいたるまでまさしく“オールスター”が集結した本作は必見の映画である。(文=國重駿平)