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急成長中のYouTubeチャンネル「in living.」が提示する“自然体な暮らし”

2019年02月13日 08:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ファッション雑誌や映画、ドラマを見て、「わたしもこんな服を着て、ごはんを食べて、素敵な暮らしがしたい」と夢想することがあるあなたへ。自然体で丁寧な暮らしを送り、その生活の一部を動画として公開している「in living.」というYouTubeチャンネルを紹介したい。このところチャンネル登録者数が急激に伸びていることでも話題を呼んでいるチャンネルだ。


(参考:“カップルではない”男女ふたり組YouTuber「パオパオチャンネル」が愛される理由とは?


in living.はどこから来て、どこへ向かうのか
 まずは、「in living.」がどんなチャンネルなのかを知ってもらうために作品をひとつピックアップ。「日帰り帰省と、おばあちゃんに持たせられるものあるある。What is this?present from grandma.」というタイトルの動画だ。


 もう見てもらえればわかるだろうけど、驚くほどのんびりしている。ユーチューバーの鉄板である「商品紹介」の形式を取りながらも、その内容は「帰省の際におばあちゃんに持たせられたもの」であるというのが全く大げさでなく、“その日のこの人”しか撮れない内容になっているのが特異な点。撮影は、ジャンプカットを多用して余白を削り、おもしろい点だけをつないでいくよくあるYouTube動画の形式とはまるで正反対で、動画ごとに違うBGMもその日の気分を表しているよう。そんなある意味日記のような動画たちは、すっと心に染み入るようなものばかりだ。


 ところでin living.の動画に出ているこの女性はいったい何者なのか、というのは気になるところだろう。ririkaと名乗る彼女は、3年ほど前から女優の仕事をはじめ、映画やドラマに出演してきたのだという。しかし、芸能活動は2018年末に終了。チャンネル登録者数1.6万人突破の際にチャンネルのコミュニティに投稿された文章には「女優やモデルという仕事は素敵なものですが、わたしには合わなかったようです。今は一般人に戻り、Vlogger(YouTuber)として動画をつくるこの感じがとてもしっくりきています。」と思いの丈が述べられている。動画でも何度か語られているが、悲しくないときに泣いたり、楽しくないのに笑ったりする必要がある女優からは離れ、自然体に生きている姿を動画に収めていきたいという、彼女の思いがそこには感じとることができる。とは言っても女優ririkaの演技もとても魅力的なので、気になる人は漁ってみてほしい。


 2018年10月に動画投稿を開始したもののはじめは全く声を発さず、より“日常のだだ漏らし感”が強かったin living.。2019年の年明けの動画で初めて声を出すようになり、今に至っている。その際にも彼女が話しているのは、今後は普通に暮らしながら、in living.として動画や写真、ブログなどの「作品」を作っていきたいということ。こうして明確に「作品」と定義しているのも注目すべきところで、彼女の動画は自己完結する日記などとはまた違う、明確に視聴者(他者)へ向けて作られたものであるということがうかがえる。今までにも料理や日常の様子をおさめたユーチューバーは存在していたが、自分の”暮らし”を作品とするような、そこまで振り切った人はいなかったのではないだろうか。自分自身がコンテンツとして消費されることを恐れず、むしろそうしてできた視聴者とのつながりにわくわくしているように見える。


コンセプトがある(ように見える)暮らし
 「今度引っ越しするときは、キッチンは大きめで、色は寒色で統一して……」と夢想しても、家具や家電を買い換えるわけにはいかず、結局同じような部屋になって…という経験はないだろうか。そういった「コンセプトのある生活」を仰ぎ見ながらも中々「自分」という枠組みから抜け出すのが難しいなか、決して無理をせず自分の好きな暮らしを送るin living.の姿にはどうしたって憧れてしまう。


 「真似してみたいけどなかなかできない」。YouTube論的な観点からするとこれは、動画視聴数が伸びる典型的なパターンと言えるかもしれない。それは、「やってみた系」の動画から「ドッキリ系」、はたまた「大食い系」まで、私たち視聴者は、自分ができないことに対する興味から動画の再生ボタンを押すことが多いと思うからだ。彼女がコンセプトを明確に定めて生活しているかどうかはわからないが、ミニマルで清潔感があり、 無印良品を好むといったような統一感のある暮らしを実現している姿は、「真似してみたいけどなかなかできない」という私たちの欲を満たしてくれるものである。また、同じような生活を送る人が見ても、それは“共感”として刺さっていることだろう。


 作り笑いではなく、例えば祖母からもらったパプリカを見たときにあらわれる、“滲み出るような笑み”が印象的なinliving./ririka。今までにはなかったこの自然体な動画に、私たちは新たなるカルチャーの誕生を見ているのかもしれない。


(原航平)