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『トレース~科捜研の男~』船越英一郎の“熱血演技”に隠された意図 新章で錦戸亮との関係も変化?

2019年02月11日 15:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ”2時間ドラマの帝王”や“サスペンスドラマの帝王“の異名を持つ船越英一郎が、初の月9ドラマとなる『トレース~科捜研の男~』(フジテレビ)で堅物のベテラン刑事役で出演している。その乱暴な振る舞いや出で立ちの演技で話題となっているが、それには演出における深い理由があった。


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 このドラマは、関ジャニ∞の錦戸亮演じる法医研究員・真野礼二が、「鑑定結果こそ真実だ」という信念のもと、他人とは違う視点で、事件の真実に迫っていく物語。そんな事件を科学的に理詰めていく真野の対照的な存在なのが、船越演じる警視庁捜査一課の刑事・虎丸良平だ。定年間近の、いわゆる昔気質の堅物なベテラン刑事で、長年培ってきた”刑事の勘”に自負があり、直感的に行動に移すタイプ。故に、冷静な真野の推測には「小僧!」と言って聞く耳を持たない。虎丸がいるからこそ、真野の洞察力の鋭さから真相へ導く構造が出来上がり、物語を面白くしていくのだ。


 2時間ドラマの帝王である船越が「これまで僕が演じてきた”熱血漢”という系譜の集大成」と自負するほど、本作ではその怒鳴り散らす熱い演技がさらに加速しているのだ。


 この虎丸の反響について『トレース~科捜研の男~』の監督である松山博昭がスポニチのインタビュー(2019年1月21日)(参照:https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2019/01/21/kiji/20190120s00041000510000c.html)で「狙い通りと言えるのではないでしょうか。虎丸は自分がパワハラをしているという感覚が欠如し、実は繊細で弱くて人にナメられたくないから、声を荒らげて自分の弱さをごまかしたいという人なんです。科捜研に対するアンチという存在で、誰だろうとオレの言うことを聞けという理不尽さも。だから、もし船越さんの演技がそのように議論を巻き起こしているということでしたら、それはまさに狙い通りなのです」と語っている。


 船越は虎丸について「自分の未来がしっかり見えた中で、そこまでキャリアを積んできた刑事はいったい何を考え、何を感じ、何を思うだろうと、同世代の方に感じられるような、そういう匂いを出せるような刑事像を作っていきたい」と公式動画インタビューで語っていたが、その演技には、定年間近の焦りを隠そうと高圧になる、その余裕のなさが表現されている。おそらく真野たちの意見を認めてしまうと、長年培ってきた刑事としてプライドが崩壊してしまうのではないか。船越は、そういった虎丸という人物を作品を通して導き出したのかもしれない。


 しかしそれは、こらから物語が展開していくための、前振りでもある。 松山監督はインタビューで「真野(錦戸)と虎丸(船越)のラブストーリーにしたかったんです」と語っている。最初はいがみ合いから始まり、気が付いたら気になり始めて恋に落ちるという関係性を男で描きたかったという。それだけに最初は、主人公の真野とは真逆の立ち位置にして、真野だけでなく視聴者をもイラつかせたいと船越と相談。「少しでも優しい表情は見せないでくださいと(船越に)お願い」「優しい顔に映った部分はすべてカット」といった演出で、1話では虎丸が“良い人”を垣間見せないことに徹底したいう。それを可能にしたのは、船越の計画的な演技のうまさに他ならない。


 そしてドラマは、2月11日放送回から”新章突入”と銘打って、真野の家族が殺された『武蔵野一家殺人事件』の真相に迫って行く話となっていく。ここにきて、組織ぐるみで真野が追い込まれて行く中で、いよいよ虎丸のベテラン刑事の本領発揮となりそうな展開を迎える。ここまで意図的にある種の“悪役”として注目を集めてきた分、その反動で、真野側に寄り添って味方になった時に、一気に虎丸の評価が変わる可能性もある。ベテランが若手を認め、相思相愛になった時がこの手のドラマが一番面白くなるポイントなのだ。


 監督と船越が意図している、真野と視聴者の感情が重ねていく演出ならば、真野が虎丸を頼りにする展開では視聴者も同様に虎丸を頼りにしたくなるはず。ここにきて今までの船越の過剰な熱血演技が活きてくる。これから船越がどんな虎丸像を表現していくのか、ドラマの内容と共に注目したい。  (文=本 手)