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2018年は実りの多い年だったーーアイドル評論家4氏が語る、インディーズシーンに芽吹く新たな文化

2019年02月10日 12:01  リアルサウンド

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 ピロスエ氏、岡島紳士氏、宗像明将氏、ガリバー氏による、5年連続となる『アイドル楽曲大賞アフタートーク』と題した座談会の後編。前編ではメジャーアイドルのランキングからシーンの現在について語ってもらったが、後編ではインディーズアイドル部門の結果から、2018年、そして2019年のアイドルシーンについて話を聞いた。(渡辺彰浩)


参考:欅坂46、BiSH、エビ中……『アイドル楽曲大賞』はメジャーアイドルシーンの何を写したか?


ーーインディーズは、フィロソフィーのダンスが1位「ライブ・ライフ」、3位「イッツ・マイ・ターン」、9位「ダンス・ファウンダー (リ・ボーカル & シングル・ミックス)」と上位を席巻する形となりました。


宗像:フィロのスは、2018年の夏を駆け抜けたわけですよ。6月のLIQUIDROOMワンマンは初の生バンドを従えて、フロアも満員で。「ライブ・ライフ」と「イッツ・マイ・ターン」は両A面のシングルで、初めてたくさんの予約会を開催。それにはアイドルシーンへのメタ的なものもあったと思うんですけど、結果オリコンランキングでデイリー1位(2018年08月30日付)、ウィークリー7位(2018年09月10日付)という結果を出した。「イッツ・マイ・ターン」は90年代のアシッドジャズ、90’sソウルといった文脈で、「ライブ・ライフ」はさらにソウル寄りなんです。


ーー1位が「ライブ・ライフ」、3位が「イッツ・マイ・ターン」という結果についてはどう見ていますか?


宗像:「イッツ・マイ・ターン」はレトロチックなネタ的な要素があるMVなんです。一方、「ライブ・ライフ」はLIQUIDROOM公演で撮影されたドキュメンタリーなんですよ。


ガリバー:曲が始まる前にメンバーへのインタビューがある。


宗像:そこで十束おとはが、「(ほかの)3人だけでフィロソフィーのダンスが完成されているんだと思って、自分の必要のなさがつらい時期があった」って発言をするんです。フィロソフィーのダンスの結成当初、十束おとは、佐藤まりあの2人はサビ以外の歌割りが与えられなかったメンバーで、フィロのスは奥津マリリと日向ハルのツートップのボーカルグループだったんですね。


 今は成長して歌割りも均等ぐらいになっているんですけど、それがグループのストーリーになっていて。MVでは、十束おとはが「あなたにとってフィロソフィーのダンスとはなんですか?」という問いに「人生」って言うんですね。まさに「ライブ・ライフ」というタイトルにかけていて。「イッツ・マイ・ターン」も、「ライブ・ライフ」と同じくらいライブで歌われているんですけど、なぜこの差がついたかというのは、MVで生身だった「ライブ・ライフ」がみんなの心を打って1位に来たのかなと思っています。


ピロスエ:24位の「ラブ・バリエーション」は、2018年5月の発売時に「モー娘。にオマージュを捧げる」というリリース記事が出ていて、確かにディスコファンク要素のある曲ではあったんですが、残念ながらハロヲタの間ではほとんど話題にならなかったですね。同時期のDA PUMP「U.S.A.」と被っちゃったというのもあるかもしれませんが……。


宗像:そもそも日本人はファンクミュージックに対して敷居が高いというイメージが昔からあるんです。


ピロスエ:日本人と欧米人では、音楽のグルーヴに対するノリ方が根本的に違う、みたいな話は以前からよく言われてますね。


宗像:そこをなぜ越えていくのかというのと、フィロのスは必ずしもファンクだけではない曲を持っている。ブラックミュージックに対する幅広さがあって、そこにハロプロであったり、様々な人の思い入れなり、新しい探究心なり、間口が開いている。


ガリバー:2017年に解散したEspeciaがポジション的には近しいところだと思っているんですけど、フィロのスの方が圧倒的にボーカル力が上なんですよ。奥津マリリと日向ハルを中心とした歌声が、純粋にポップスというものに変換されている。


宗像:前提としてファンクを歌いこなすグループを作るというコンセプトがフィロのスにはあって、その上で4人が歌っていると。十束おとは、佐藤まりあのボーカルもメキメキ上がっている。4人がキャラクター的にも立っていって、人間的な成長が出ているんですよね。ソウルミュージックは人間が成長していないと、歌っても説得力がないんですよ。短期間で葛藤したり、試行錯誤してきた4人だから歌いこなせる。「ライブ・ライフ」も4人の成長が多くの人に訴えるものがあったんだろうと思いますね。


ーーその「ライブ・ライフ」に僅差まで詰めていたのが、2位の桜エビ~ず「リンドバーグ」です。


宗像:Have a Nice Day!の浅見北斗が作詞、作曲しています。ハバナイと新宿LOFTで対バンをした時に、「リンドバーグ」の時だけ動画撮影OKになったので、当時のライブ動画がYouTubeなどでたくさん上がっているんですよね。MVを撮っていた森岡千織さんがライブ動画も撮っていて、それが公式として上がっています。「リンドバーグ」を歌っている時に、延々とオタクがクラウドサーフされてきて、中にはそれを見てドン引きしているメンバーもいる。でも、水春さんはそんなことを構わずに、「私がこのグループを仕切っているんだ」ぐらいで歌っていて「すげぇ!」と思って。人がゴミのように見えるぐらいのライブで、水春さんの真の凄さが発揮されるんだと。


岡島:水春さんは以前からソロでネット配信番組に出演し続けているんですよね。モノマネが上手かったり、芸達者で。かつ、MCだったり現場の対応力がとびきり高い。


宗像:なぜ、藤井(ユーイチ)さんが浅見北斗に曲を頼んだのかというのにも興味があって。


岡島:誰が依頼したのかは分かりませんけど、エビ中や桜エビの運営陣って、音楽がすごい好きな人たちなんだと思います。それこそネットレーベルの曲だったり、いろんなジャンルをチェックしていて、誰に曲を依頼するかを常に考えているんだと思うんですよね。だからこそ、エビ中にしろ、桜エビにしろ、いろんな人を起用できるんだろうなと。


宗像:浅見北斗がちゃんといい曲を書いたっていうのが嬉しかったですね。楽曲構造的にはハバナイにもこういった曲はあるんですけど、ちゃんとサビがあるアイドルポップスを作って、フロアにフックしていく過程を見ることができたのは、東京アンダーグラウンドがスターダストに受け入れられたのを感じました。


ガリバー:スターダストがスターダスト以外のアイドルのインディーズシーンでも、高い機動力で動き回れるというのを桜エビで実践した。


宗像:ところで、7位の「灼熱とアイスクリーム」という、いかにもシティポップな曲を書いたピオーネって誰なの? スリーピースバンドが演奏しているような音だよね。


岡島:配信シングルのジャケットはイラストを使っていたり、メンバーのビジュアルを推していないのが面白いですね。


ガリバー:スターダストの配信解禁というのは、トピックとして重要だと思っていて、結果それを12カ月連続配信という企画と楽曲のクオリティの高さでアドバンテージに変えていたのが、桜エビだったのは面白い現象だなと。


岡島:水春さんがインフルエンザでライブを休んでいた時があったんですけど、それでもライブは成立していて。要はパートを均等に分けているからで、そのバランス感覚はエビ中と同じではある気がします。でも、やっぱり水春さんは強いので。彼女を中心にした曲で勝負に出たら面白いと思います。あとは、桜エビはエビ中の研究生ユニットとして結成された妹分なので、客観的に見たら彼女たちがエビ中に入るという期待もあるのかなと。


ガリバー:本当に!? それはないでしょ。


岡島:水春さんってもともとエビ中がすごい好きで、エビ中のオタだったんですよね。でんぱ組.incのねむきゅん(夢眠ねむ)と根本(凪)さんみたいなところがあって。エビ中のドキュメンタリー映画(『EVERYTHING POINT』)で一人だけファンの視点でインタビューされているんですよ。もしも、エビ中に入ったとしたら桜エビは変わっていくことになりますけど、ファンは受け入れるんだろうな、という気がします。それをネガティブに捉える人もいるだろうけど、僕はポジティブに受け止められる方です。もちろん、このまま桜エビ~ずとして続けて行く方向性も良いなと思います。


ーー去年「3WD」で1位だったTask have Funは「キミなんだから」が4位。以前と同じGUCCHOの作曲です。


宗像:「3WD」はチープなシンセのような、スパイ映画で流れてきそうな曲だった。同じ作曲家でもずいぶん雰囲気が違う曲を作るんだなと。


岡島:熊澤(風花)さんのグラビア活動は評価高いです。他の層にアプローチできますし。


宗像:タイアップでオサカナが楽曲を届けたように、Task have Funはタイアップがなかったとしても、グラビアによって回路を作っていくわけですよ。「熊澤風花は誰だろう?」と。例えば「制コレ18」(『週刊ヤングジャンプ』誌面開催のオーディション)でニジマス(26時のマスカレイド)の来栖りんちゃんがグランプリを取って、インタビューが載っていたり。


ガリバー:『ももいろクリスマス2018』の外ステージにタスクが出ていて、「3WD」を歌った時にモノノフも含めてファンの振り付けが揃っていて不思議だったんですよね。でも、今の話を聞いてそういったメディア露出から浸透していたのかなとも思いました。


ーータスクはメジャーに行けそうな気がしますけどね。


宗像:僕は早く行った方がいいと思っている。神宿ももっと早くて良かったと思ってるし、アプガ(アップアップガールズ(仮))も行って欲しかった。


岡島:タスクはモデルやグラビアなど、個人での活動を強めた方がいいと思います。インディーズの場合、ここまで行ったらアイドルファン層だけで規模を上げて行くのは無理、というところが決まっているから、そこまで行ったなら外にアプローチしていった方が。


ガリバー:それこそ、ニジマスとかamiinAはメジャー候補ですよね。


岡島:ニジマスは、ほかのインディーズグループとは違った華やかさがありますよね。


ーーそんなニジマスの「チャプチャパ」は5位。


宗像:オールディーズっぽくていいですね。やっぱり、フロアアンセムが大事なんでしょうね。この曲もサビが強力にキャッチーじゃないですか。


ーー先ほど話題にも挙がったamiinAの「Jubilee」は6位です。


岡島:GOING UNDER GROUNDの松本素生さんが作った楽曲で、amiinAのイベントにも出ていました。


宗像:amiinAは、これまでアイリッシュ色が強かったんですけど、この曲に関しては松本さんがスケールのデカいフェスで聴かせられる曲を書いたというのが大きいですね。


ガリバー:2017年は「Canvas」がアンセムとしてありましたけど、2018年はこの「Jubilee」だった。運営は毎年きちんと新しいアンセムを作ろうとしている。


宗像:小林清美先生が書いている「eve」もめっちゃいいんですよ。それでも、6位に「Jubilee」が入って来るというのはフェスアンセムというのが強いんだと思う。


ーー「blue moon.」が8位に入ったtipToe.は、初めて上位にランクインしたグループです。


宗像:『TIF』(『TOKYO IDOL FESTIVAL』)のオーディション「アザーレコメンドLIVE」で1位になって、去年初出演を果たしたんですよね。ライブも世界観の作り込みとかクオリティが高いし、上位に入って来るのは必然かな。


ガリバー:「一緒に青春しませんか?」をコンセプトに、3年間しか活動できないんですよ。だから、今年初期メンバー3人が卒業なんです。


ーーシステムはさくら学院と一緒ですね。


ガリバー:最初から終わることが決まった上で、全力で走り抜けるとどうなるのかというのをやってみたかったという。新メンバーが加入すると思うので、メンバーが卒業してもグループ自体は続いていきます。曲はセンチメンタルな感じで、青春を想起させる甘酸っぱいサウンド。アイドルネッサンスとかハコイリムスメのファンを取り込んでいったのが2018年ですかね。


岡島:アイドルネッサンスは、「changes」が14位でそんなに高くなかったですもんね。


ガリバー:ルネは2月に解散しちゃって、時間も経ってしまっていたし、メンバー個人のセカンドキャリアも動き出していました。


宗像:原田珠々華さんの「Fifteen」がもう少し上がってきてもよかったんじゃないかなと。


ガリバー:運営の照井(紀臣)さんがメンバー1人ずつを卒業後までしっかり面倒みていたのが印象的です。原田さんはまだ1年目ですし、活動ジャンルをアイドルと限定していないという事もあり、この順位に落ち着いているのかなとも思います。


ーー10位以下はどうでしょう。12位は「終わりから」で、SAKA-SAMAが入っています。


宗像:12位の「終わりから」は4人体制の曲で、この後にメンバーが脱退、加入となり、7人になる流れの中で、4人時代の美しい記憶だったなと。SAKA-SAMAは、「Lo-Fiドリームポップアイドル」というコンセプトなんですけど、今はそこまでローファイでもなく、雰囲気が若返っている印象です。「終わりから」は、そういった感触を音に残していた時代の美しい記憶ですね。


ガリバー:アルバムジャケットの白の衣装もすごいいいですよね。


宗像:尖ったクリエイターを揃えてきているので、そういったところで面白さはあると思うし、雑誌の『TRASH-UP!!』の嗅覚をそのまま持ち込んでいるんですよ。エディトリアル的な感覚、センスがアイドルの運営に持ち込まれると、こうなるのかという。


ーー『ゴッドタン』(テレビ東京)でも話題の眉村ちあきさんは「ピッコロ虫」で15位です。


ガリバー:この間、大阪のゲリラライブで観たんですけど、曲はもちろんいいと思ったし、それに彼女の言動が面白いですよね。カリスマ性がずば抜けている。眉村さんに関しては新人というわけでもないんですけど、ソロだからこそ、こういった才能って出てくるんだなと見せつけられました。


ーーRYUTistは、10位「黄昏のダイアリー」、11位「無重力ファンタジア」、16位「青空シグナル」、20位「心配性」と続きます。


ガリバー:作家はいつもの顔ぶれなんですけど、11位の「無重力ファンタジア」は作曲にikkubaruを起用した冒険だったんですよ。


宗像:新潟アイドルは、NegiccoもNGT48もアコースティックな音を使ったサウンドアイコンがあるので、そういったものからどこまで飛び出せるかですね。


ーー2019年のアイドルシーンに期待することはありますか。


岡島:2019年はオサカナがどうなっていくのか、展開が楽しみだなと思います。しっかり地盤を固めて活動しているので、楽曲がどこまで一般層に受け入られていくのか、アニメ層に跳ねるのか。あとは、おっさんの夢を詰め込んだようなSOLEILが大好きなので。受験が終わって復帰するのが楽しみです。


ーー『バズリズム02』(日本テレビ系)の「今年コレがバズるぞBEST30」に、フィロのス、眉村さんと一緒にランクインしていましたね。


岡島:60年代ガールポップなサウンドを、無自覚な可愛い女の子にやらせる。その夢が最も美しく結晶化したのがSOLEILだと思っているので。だから、しっかり見ておきたいなと思っております。


ーー宗像さんは。


宗像:次の新しいローカルシーンの動きが見えているのが面白いですね。まず、横浜市のローカルアイドル・nuanceについては、僕が神奈川県の人間だと言い出すくらいには好きなんですよ。基本的に歌謡曲の四つ打ちですが、新曲の「タイムマジックロンリー」からかなり違った変化球が来たんです。でも、そんなスピードの速さも面白さの一つだと思いますね。横浜のメランコリーみたいなもの、地元感が常にある。川崎から見た横浜感が強烈にありますね。


ガリバー:関東でこれだけ洗練されたロコドルは、nuanceが初めて。基本的に関東のアイドルはロコドル感を消しますからね。


宗像:ロコドルで言えば、個人的に北陸3県にすごく興味があって。石川県小松市に空野青空さんにイベントMCとして呼ばれて行った時に、せのしすたぁの現地での熱い受け止められ方とか、いろいろ面白くて。あおにゃんは現地ではすごくリスペクトされている、とかね。ほかにも、おやゆびプリンセスが2回解散して、そのメンバーがそれぞれ活動をしていたり活発化しているので。ローカルシーンに関しては新しい動きだな。


 2010年代は「アイドル戦国時代」というワードが使われ、2018年は「中堅アイドルがどんどん解散していく」みたいな記事が朝日新聞に載ったりしたけれど、そんなことは5年も6年も前に産業構造の一つとして分かっていたことなんですよね。個人としては2018年はインディーズもメジャーも実りの多い年だったんですよ。シーンが衰退しているとみんなが頭を抱えている時に、次の動きが見えていて楽しかった。なんキニ!、真っ白なキャンバス、マリオネッ。といったグループは、20代のプロデューサーが新しく立ち上げているんですよね。シュリンクしていくシーンを分かっている上でグループを作っている。それって商業的な文脈では捉えられない文化的な面白い動きだと思うし。そういった新しい文化はどんどん芽が出ているから、僕はそっちを追いかけるのに必死なんですよ。僕はシーンに置いていかれたくないし、新しい動きを追いかけていこうと思っていますね。


ーー最後にガリバーさんお願いします。


ガリバー:僕は、けやき坂46がどこまで伸びていくのか、自分たちのポジションを確立できるのかというのと、IZ*ONEの日本展開が楽しみで仕方ないですね。一方で、ロコドルに関しては、四国とか鳥取の米子、それこそ北陸の石川といった新たなところで動きが復興したのがあって。その子たちは東京を目指さないんですよね。東京を目指すというのは一周回って古くて、例えばサブスクで全国の人に聴いてもらって、地元に来てもらうという、本来のロコドルの姿を、配信という新しいインフラを活用して動きを取り戻しているのが、各地であったのはいいことだし、2019年はそれがランキングなり、存在感なりで、形になることを楽しみにしています。あとは、中堅アイドルがいなくなったと言われるけど、実際もっと層は厚いよ、と言いたいです。2010年代前半から表舞台に立っていた人たちはいなくなったかもしれないけど、その間に新たな中堅層は裏にいっぱいいるんだということがより顕にっていくのではないでしょうか。2019年はそういったグループを目にすると思うし、活躍してくれる年だと期待しています。(渡辺彰浩)