2019年02月09日 11:01 弁護士ドットコム
クリーニング業界の大手企業では、本部が洗濯工場をつくり、その周りにたくさんの取次店を配置する方式が主流になっている。
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取次店は、本部の直営もあるが、中にはオーナー経営の店舗も。しかし、実際には裁量がほとんどなく、「名ばかりオーナー」ということもあるようだ。
ある企業では2019年1月、取次店のオーナーが、業界ではまだ珍しいオーナーによる労働組合を結成した。労働組合法の労働者概念は広く、条件を満たせば、個人事業主でもプロ野球選手会のように組合をつくれる。
本部工場のミスにもかかわらず、衣類の破損などを店舗が弁償している現状などを改めるよう求め、団体交渉に臨んでいる。
この組合は、「労評ステージコーポレーション店長分会」。ステージコーポレーション(千葉県)が展開する「ステージ21」、「ドリーム」のオーナー店長らが日本労働評議会(労評)に加盟し、つくったものだ。
組合員の女性Aさん(50代)は、2013年にパートとして「ドリーム」で働き始めた。最初に3日間の研修があり、4日目からいきなり新しい取次店を1人で任されたという。
取次店のメイン業務は、洗濯物の受付と受渡だ。ただの事務作業のようにも思えるが、それぞれに「検品」という重要な工程が含まれる。
「持ち込まれるのは、ワイシャツから布団まで幅広く、素材もさまざま。表示を見て、洗えるかを確認します。また、穴あきや変色がないかなども調べ、お客さんに確認しなくてはなりません。この汚れなら、どの洗い方がいいかなどの説明もあります」(Aさん)
破損を見落したり、汚れが落ちていなかったりすれば、クレームにつながりかねない。検品を確実に、かつ素早くこなすことが求められる。しかし、それには経験が必要だ。「どうしてよいか分からなかった」とAさんは当時を振り返る。
しかも、受渡時にトラブルがあると、本部はその責任を取次店に押し付けてきたという。
「工場には、何を言っても、取次店の検品ミスの一点張り。ワイシャツだと4000円くらいで済みますが、コート類になれば、万単位になります。それを取次のオーナーやパートが自腹で弁償するんです」
幸いにして、最初の店舗は客が少ない店舗だったが、2カ月もすると、忙しい店に配置換えとなった。
店舗は、年始の3日間を除いて無休。Aさんは月20日以上、店が開店する朝9時から閉店する夜8時まで働いた。勤務表の「勤務時間数」の欄には「11時間」の数字が並ぶ。つまり、休憩時間はゼロだ。
ちゃんと労働時間としてカウントしている分、まだ良い方とも言えるが、法的には1時間以上の休憩が必要となる。それができないのは、ほぼワンオペだからだ。
しかし、それだけ責任が重く、ときには自腹で弁償することがあっても、時給は1000円に満たなかった。
Aさんは転職を考えたこともあったという。しかし、2017年、パートとして働いていた店舗で、オーナー店長に転身した。
「やめるか、オーナーになるか、短期間で決めるように言われました。店は、家から通うのにちょうど良い場所にあったんですよね」
また、本来オーナーになるのに必要な保証金50万円が不要だとも言われたそうだ。仕事の内容も一緒で費用はかからないのだから、肩書が変わるくらいの感覚しかなかったという。
だが翌月、本部から店に支払われる取次手数料(報酬)からは保証金が引かれていた。口約束をひっくり返されたのだ。
この年の手数料は「年間最低保証額」に満たなかった。しかし、不足分はまだ補填してもらっていないという。それどころか、2018年には契約期間中なのに、前触れなく「年間最低保証額」を引き下げられた。
収入はパートのときよりも低い。これまでの不満もあり、会社と交渉して改めてほしい気持ちが強くなった。Aさんは、ほかにもクリーニング業界の労働組合がある労評とつながり、組合をつくることにした。
組合が加盟する労評の工藤貴史さんは、「人件費を下げるため、オーナーはあまりパートを入れることができません」と話す。
労働者なら6時間を超えて働くときは休憩が必要だ。加えて、週1日以上の休みも与えなくてはならない。しかし、オーナーになれば、本部側は取次店の労働環境を気にしなくてもよくなる。
また、契約期間は3年。途中でやめると保証金(50万円)を没収されるから、オーナーはパートと違って簡単にはやめられない。
Aさんたちは、ステージコーポレーションに団体交渉を申し入れている。工場で起きたミスについて、取次店によるクレーム対応や、オーナーによる弁償をなくすとともに、毎週定休日をもうけることなどを求めていく。
一方、ステージコーポレーションは「弁護士に一任しているので、こちらからの回答は控える」と話している。
(弁護士ドットコムニュース)