スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアのモータースポーツコラム。2019年シーズンはなんとWRC公式の解説チームの一員となって全戦を帯同するようだ。今回は初めて現地を訪れたラリー・モンテカルロの様子を語ってもらった。
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2019年1月、WRCはスペインで全戦の生中継を行うべくチームを設立を発表した。うれしいことに私もそのチームの一員なのだ。つまり私は2019年のWRC公式サービスの一環として、ステージの模様の解説をすることになったのだ。
私がこれまでやってきた仕事に比べると大きな変化だ。私は主にレーストラックに焦点を置き記事を書いてきており、ラリーの世界についてはあまり触れてこなかったからだ。そういった経緯で私は、1月末にラリー・モンテカルロを訪れるチャンスがあり、公式解説者としてラリーの現場を注意深く見て回った。そこでは多くの驚きがあった。
まず、“ラリー・モンテカルロ”といってもモナコ公国からとても離れているのは奇妙な感じだった。実のところ会場まで車で約3時間半かかるのだ。それにも関わらず、イベントは非常に整然と運営されていた。
ファンがレーストラックよりも自由にサービスパーク(サーキットではピットにあたるエリア)を訪れることができるのを目にするのは新鮮だった。なぜなら多くの点で、WRCのサービスパークはF1パドックの別バージョンのように感じたからだ。
主要チームだけでなくサポートシリーズのエリアも大きな注目を浴びていた。毎朝私はチームエリアを歩き、メカニックが懸命に働き、忠実なファンたちがフェンスの外から静かにその様子を見つめ、有名な関係者たちが気楽なおしゃべりをするのを見て回った。
有名な関係者の中には、FIA会長のジャン・トッドがいた。彼はTOYOTA GAZOO Racingのスタンドを訪れて、トヨタのWRCチーム代表のトミ・マキネンとかなり長い時間話をしていた。日本、フィンランドチームにとってラリー・モンテカルロは、オット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)が表彰台に上ったものの、残念ながら優勝には届かなかった。しかし他に良かった点もあった。それは2019年シーズンからトヨタに加わったクリス・ミークがパワーステージで優勝したのだ。
普段はマシンが走行するスペシャルステージからずっと離れたところにいるため、マシンを間近で見ることができたのは非常に興味深かった。
ほとんどのドライバーにとって、パワーステージで優勝するということは、チャンピオンシップにおいて貴重な5ポイントを獲得することを意味する。だがドライバーたちにとっては、自分が誰よりも速く走行できることを皆に示すということが最も重要な要素となるかもしれない。
■ミシュランエリアで目撃した窃盗未遂
しかし残念ながら、サービスパークでの出来事のすべてに問題がなかったわけではない。私はずうずうしいファンがミシュランエリアで展示されていたターマックタイヤを盗もうとしたところを目撃した。
驚愕した私は、慌ててフランス人の警備員に泥棒が逃げたことを通報したのだ。幸い私の語学力は十分で、警備員に意味は正確に伝わったようだ。わずか数分後にタイヤは然るべき場所に戻されたのだから。その後タイヤはチェーンで繋がれ、少なくとも数人のファンにとっては、笑いの種ができたわけだ。まさか白昼堂々とタイヤを盗む者がいるとは信じられなかったが、WRCにも安全対策が必須なようだ!
そんなトラブルがあっても間違いなく、ラリー・モンテカルロでの出来事は最高のものだった。WRCを放送するための技術レベルは本当に素晴らしいもので、音声と映像処理専用のスペースがあり、プロフェッショナルな人々が最終的なデータを我々のPCやタブレット端末に適切に届けられるよう懸命に取り組んでいた。
■トラックのキャビン内で想像以上に快適な解説仕事
また機材の輸送や搬入/搬出などを担当するロジスティクス部隊がすべてを申し分なく進めていた。だから2019年シーズン最初のイベントで私の解説ブースを見せられた時は非常に驚いた。その理由は、ブースというよりも物資を輸送するトラックのキャビンが私たちの仕事場として用意されたのだ。
しかし誤解しないでほしい。そこには必要な物がすべてがあった。ラリーの映像を見るための2台の高性能スクリーンがあり、スプリットタイム、トラッキング、GPSなどすべての情報を得ることができる高速インターネット接続があり、技術チームといつでも連絡が取れる大きなサウンドボードもあった。
そして外は非常に寒い天候だったが、我々はトラックの中で暖房を使うことさえできた。外部からの光を遮断するために黒いカーテンを引き、非常に居心地の良い“解説ブース”にこもることができたのだ。ついでに椅子もとても快適だった!
だが、もし誰かがWRCの解説がトラックのキャビン内から行われると言ったら、私はその人が本当にラリー・モンテカルロにいたと信じることはできないだろう……。
最後に私はスペイン人ドライバーのダニ・ソルド(ラリー・メキシコまで参戦はない)と、日本人の若手エースである勝田貴元といったドライバーの何人かと少し話しをするチャンスがあった。
私は勝田のキャリアを全日本F3時代から追いかけており、彼の父親でラリードライバーの勝田範彦についてはスペインのメディアでよく記事を書いているので、私たちは楽しい会話ができた。
今回のラリー・モンテカルロで、私はひとつの結論に達した。F1やWECなどのレースを現地、またはTV観戦しているの人々の多くは、ラリーの世界のことを少ししか知らない。だが私が予想していたよりもとても友好的な世界だった。誰もが親しくしており、ライバル同士でさえ互いに敬意を払い、ドライビングを楽しんでいるのだ。2019年シーズンはもっと色々な経験ができることを楽しみにしている!