2019年02月07日 19:21 弁護士ドットコム
SKE48の松村香織さんが過去にアルバイトとして働いていたメイドカフェが、松村さんが当時履歴書に書いた内容の一部をTwitterに投稿し、波紋を呼んでいる。
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松村さんは2月5日に卒業コンサートに出演。これを受けて、店は松村さんがバイトに応募した際に書いた応募動機や、バイト歴、好きなアニメ作品などを投稿。
これに松村さんは「私の卒業ニュースに乗っかって12年前の履歴書の内容を晒すという圧倒的なルール違反をしているの凄すぎる。当時の家の住所など色んな個人情報を未だに保有されていると思うと、気持ち悪いし怖いです」と怒りを示した。
松村さんの抗議に対して、店は「なお、プライバシー権とか言い出す人がいたけど、芸能人については引退するまでは、プライバシー権については、ほぼ存在しない 文句を言うのは自由だけど、何も悪いことをしていないし、法律にも違反していないよ」 などと反論。その後、ツイートを削除した。
今回の店側の投稿は、本当に「法律にも違反していない」のか。芸能事情にくわしい河西邦剛弁護士に聞いた。
ーー「法律にも違反していない」と店側は言っています。
芸能人が引退するまでは芸能人にプライバシー権が存在しないというのは全く間違った法的解釈です。
そもそも私生活上の事柄についてみだりに公開されない権利がプライバシー権ですが、芸能人にも私生活がある以上プライバシー権は当然存在します。
ーー今回、店側がツイートした内容は「プライバシー」になるのでしょうか。
これらの情報については過去の裁判例からみてもプライバシー情報ということができます。
店側がツイートした内容は、履歴書に掲載されていた松村さんの応募理由、自己PR、バイト歴、好きなアニメなどです。
本来、履歴書は店のごく一部の採用スタッフのみ見るものです。松村さんも、一般に公開されることなど当然予定していなかったでしょう。
ーー松村さんは、この件で法的な措置をとることは可能でしょうか。
松村さんが一般に公開を欲しない内容であり、雇用主である店だからこそ松村さんが開示した内容をネットであえて公開することについては、店のプライバシー権侵害として不法行為に該当する可能性は十分にあり得ます。
特に履歴書に書く内容というのは、これから雇用契約に入ろうという当事者が嘘のないように事実に即して作成するものです。
だからこそ、良い事実も悪い事実も、自分自身についてより踏み込んでありのままに書くものであり、よりプライバシーとして秘密が守られる必要性が高くなります。
芸能事務所のウェブサイトに掲載されているアイドルの自己紹介文とは全く異なるものです。なので履歴書に記載された内容について「芸能人だから公開してよい」ということにはなりません。
また、場合によっては、店が個人情報保護法に違反している可能性もあります。
特に最近の企業は、求人の応募者から求められた場合には履歴書を返送するところもあるほどで、社会的に個人情報の取り扱いには厳密さが求められています。
今回のケースについては厳しい責任を追及される可能性もあるといえるでしょう。
【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。アイドルグループ『Revival:I(リバイバルアイ)』のプロデューサー。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/