2019年02月07日 11:21 弁護士ドットコム
米アップルのスマートフォン「iPhone」のロック機能を、日本の捜査当局が民間企業の協力を得て解除し、事件捜査に活用しているーー。共同通信が2月2日、こう報じて、物議を醸している。
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昨今の捜査において、容疑者など事件関係者のスマートフォンから、証拠となりうるメールや写真などのデータを取り出すことは、不可欠な作業になっている。この際、日本の捜査機関は、民間企業の協力を得て、ロックを解除していたというのだ。
スマートフォンの中には、事件に関係のない個人情報も多く含まれていることから、共同通信の記事は、本人の了承のないロック解除は、「通信の秘密」を定めた憲法の観点などから問題ではないか、という見方を示している。
そもそもの前提として、iPhoneなど、スマートフォンのロック機能は強力だ。そのため、米FBI(米連邦捜査局)は2016年、銃乱射テロの容疑者が使っていたiPhoneのロックを外部の協力を得て解除した。このニュースは、日本でも注目をあつめた。
このとき、山田太郎参院議員(当時)は「スマホのロック解除または解除のサポートをメーカーまたはキャリアに要求することは、刑事訴訟法上認められた『必要な処分』に含まれるか」と国会質問した。
岩城光英法相(当時)は、押収したスマートフォンのロック解除をすることについて、「『必要な処分』として、おこないえます」「一般論として、外部業者に協力を求めることはできると考えられます」と答弁している。
今回の問題をどう考えればいいのか。元検事で、刑事事件にくわしい落合洋司弁護士に聞いた。
――法的に問題ないのか?
刑事手続上、押収物については、「錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる」とされています(刑事訴訟法第111条)。
携帯電話やスマートフォンといった電子機器が押収されている場合、その内容を解析することは、必要な処分だと考えられています。
ロック解除しなければ、内容がわからない場合、ロック解除することが必要な処分となります。外部の専門家などを補助者として利用することも、必要な処分に含まれます。
――違法ではないということか?
押収された電子機器の解析自体は違法ではありません。しかし、刑事訴訟法制定当時は想定されていなかった捜査手法です。電子機器の内部に捜査中の事件とは関係ない膨大な情報が含まれがちである現状の下では、無制約に解析が認められることには問題があります。
――法改正は必要ではないか?
解析状況を可視化してデータ改変などがおこなわれないよう担保する制度も存在していません。ロックがかかっているなど、搭載情報の秘密性が高い場合は、情報主体(持ち主)の同意がない限り、解析に別個の令状(検証許可状)を要するものとして、裁判官が解析に際して必要な制限、限定を付せるようにする法改正も検討する余地があると思います。
くり返しになりますが、昭和20年代に立法された刑事訴訟法は、昨今の科学技術の発達を想定していません。そのような法律を現状に機械的にあてはめてしまうことで、重要な権利が必要以上に制約される事態が生じかねません。
今回の問題にもそういう側面があります。GPS捜査も同様ですが、想定されていなかった事態に、必要な法改正、制度新設により対応することも検討されなければならないでしょう。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
落合 洋司(おちあい・ようじ)弁護士
1989年、検事に任官、東京地検公安部等に勤務し2000年退官・弁護士登録。IT企業勤務を経て現在に至る。
事務所名:高輪共同法律事務所
事務所URL:http://d.hatena.ne.jp/takanawa2009/