2019年02月06日 17:11 弁護士ドットコム
千葉県野田市で、小学4年生の栗原心愛さん(10)が自宅で死亡し、父親が逮捕された事件で、2月4日、千葉県警は母親を傷害の疑いで逮捕した。時事通信などの報道によれば、母親は女児が日常的に暴行を加えられていることを知りながら、黙認していた可能性があるという。
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今回なぜ、母親は「傷害」で逮捕されるに至ったのか。元警察官僚で、刑事事件に詳しい澤井康生弁護士に聞いた。
ーー今回の逮捕を、澤井弁護士はどのようにみていますか。
母親の自殺を予防するため、虐待の事実をより詳細に捜査当局が把握するための逮捕ではないかとの憶測が出ているようです。
しかし、母親には不作為による傷害罪(あるいは傷害致死罪)のほう助犯が成立する可能性が極めて高く、母親の逮捕は至極当然だと考えています。
ーー父親と一緒に暴行を加えたという意味での「共謀共同正犯」ではなく、暴行を手助けた「ほう助犯」にあたるいうことでしょうか。
傷害罪のほう助犯、しかも不作為(何もしなかったこと)による「ほう助犯」にあたると考えます。
逮捕された母親は、夫(傷害罪の正犯者)が女児に暴行を加えているにもかかわらず、黙認していたとされます。母親には女児を保護し守る義務がありますが、夫の暴行を止めたり警察に通報したりするなどの行動を取りませんでした。
ーー今回の逮捕は「異例」なのでしょうか。母親に責任を負わせすぎではないか、との声もあります。
過去に同様の事件があり、その事件の母親にも不作為による傷害罪(厳密には傷害致死罪)のほう助犯の成立が認められています(札幌高裁平成12年3月16日判決)。この事件では、3歳の男児が、同居していた母の内縁の夫によるせっかんで、亡くなりました。
ーー母親自身も夫からDVを受けていたと報じられています。その場合、助けようにも助けられなかった可能性もあるのではないでしょうか。
前述した札幌高裁判決の事件も、母親が内縁夫からDVを受けていた事案でした。しかし裁判所は、母親は体を張って子供への暴行を阻止する方法のほかにも、夫が子供に暴行を加えないように監視したり、夫の暴行を言葉で制止したりするなどして、夫の暴行を阻止することは可能であるとして、傷害罪(傷害致死罪)のほう助犯の成立を認めました。
ーーDV被害の実態によっては、監視や言葉での制止も困難ではないでしょうか。
母親へのDVが余りにも酷く母親が完全に意思を抑圧されていた、あるいは母親が物理的に監禁されていたなどの極限的な状況だった場合には、母親には夫の暴行を阻止することは困難なので傷害罪のほう助犯は成立しません。
ただ、今回の事例では、母親は自分に対するDVをかわすため、女児に対する暴行を黙認していたとも報じられています。札幌高裁判決に照らしても、傷害罪のほう助犯は成立することになるだろうと考えます。
ーー悲劇を繰り返さないためにも、DVがこの母親にどのような影響を与えたのか。子どもへの支援対応はもちろん、DV被害についても検証し、今後の虐待、DV被害支援のあり方を見直していかなければならないですね。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:弁護士法人海星事務所東京事務所
事務所URL:http://www.kaisei-gr.jp/partners.html