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滝藤賢一が語る、『探偵が早すぎる』の裏側と役者としての考え方 「主演をはれる俳優に」

2019年02月06日 12:01  リアルサウンド

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 2018年7月から9月にかけて読売テレビ・日本テレビ系で放送された連続ドラマ『探偵が早すぎる』のDVD-BOXが2月6日に発売される。井上真偽の同名小説を連続ドラマ化した本作は、“犯罪を未然に防ぐ”探偵・千曲川光が、父親が遺した5兆円の遺産を引き継ぎ命を狙われることになる女子大生・十川一華を守るため奮闘するコメディ・ミステリーだ。


参考:広瀬アリスが語る、女優としてのスタンス 「イメージを崩して、壊して、作り上げての繰り返し」


 今回リアルサウンド映画部では、史上最速の探偵・千曲川を演じた滝藤賢一にインタビュー。ダブル主演となった広瀬アリスの印象や撮影の裏側から、演じる役柄や役者としての考え方の変化まで、じっくりと語ってもらった。(編集部)


ーードラマ『探偵が早すぎる』の主演が決まったとき、まずはどんなことを考えましたか?


滝藤賢一(以下、滝藤):最初、僕がお話をいただいたときは、まだダブル主演の相手役が決まってなかったんです。そのあと広瀬(アリス)さんにあたってますと聞いて……「え!? ホントに出てくれるの?」って、驚きましたよ。「あの清純派の広瀬アリスが深夜ドラマに?」、「しかも、どコメディですけど……」みたいなことを、やっぱり考えるわけじゃないですか(笑)。だから、広瀬さんに決まったときは、とてつもなく嬉しかったです! まだそのときは、お会いしたこともなかったんですけど。


ーーあ、本作が初共演だったんですね。


滝藤:そうなんですよ。リリースでの広瀬さんの僕に対する印象は「年末の某番組に結構面白く出ていらして、その印象が強い」ですからね。「どんな方なんだろう?」って思いながら現場に入ったんですけど、ホントにコメント通りのキュートな方で……しかも、いたずら好きっていう(笑)。僕はもう、現場で何度も陥れられましたから。芝居も割とタガが外れやすいタイプ。攻めまくるじゃないですか。守らないといけないものが、たくさんあるはずなのに。ホント、メチャクチャやってきますからね(笑)。そういう思い切りの良さが気持ち良かったです。それで、どんどん仲良くなっていったんですよね。


ーーなるほど。


滝藤:だから、撮影はものすごい楽しかったですよ。共演者の方々、特に広瀬さんと水野(美紀)さんとは、とても仲良くさせていただきました。いまだにしょうもないことでLINEでメッセージを送り合ったりしていますから(笑)。共演者の方とそこまで仲良くなることって、僕はあまりあることじゃないんです。


ーーこのドラマは、今おっしゃった広瀬さん、水野さんと滝藤さんのお芝居が、相乗効果でどんどんエクストリームになっていく感じが、すごく面白かったです(笑)。


滝藤:ははは。逆に、監督やプロデューサーに止められることのほうが、多かったかもしれないです。それ以上はやめてくださいとか(笑)。あと、僕は普段、芝居中にあまり笑ったりしないんですけど、このドラマでは、吹き出すことが何度もあって。もう笑い出したら止まらないので、スタッフはよく呆れていましたね。時間もなかったので余計に。でも、ちゃんとやろうとすればするほど、笑っちゃうんですよ(笑)。


ーーわかります(笑)。広瀬さんも、かなり振り切ったお芝居をされていて。


滝藤:広瀬さんは、かなり振り切っていました。何かあったんですかね……。事務所の方に注意されていましたよ(笑)。


ーーもちろん、いちばん振り切ったお芝居をされていたのは、滝藤さんだと思いますけど。


滝藤:えっ? やり足りないくらいですよ! 僕が主演で深夜ドラマですよ。普通にやっても面白くないじゃないですか。意味もなく突き抜けてないと。台本も暴れてくださいと言わんばかりの内容でしたし、そういう演出でしたから。そういえば、頼まれもしてないのに、勝手にでんぐり返しをして、ギックリ腰になり、おかげで後半の撮影が大変でしたよ。自業自得ですけど……。


ーー(笑)。


滝藤:広瀬さん、水野さんはじめキャストの勢いと、『おっさんずラブ』で乗りに乗ってる瑠東(東一郎)監督をはじめ、スタッフの勢いがあったからだと思うんですよね。湯浅(弘章)監督も、映画が公開されて、勢いに乗りまくってますからね。


ーー『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』ですね。あれもすごく良い映画でした。


滝藤:そうですよね。だから、探偵チームに、すごい人間力が集結していたんだと思うんです。僕、現場では演技の選択に悩むことが多々あって。あまり自由すぎるのも難しいんですよ。特に今回のドラマは、やれることが本当にいっぱいあったから。明確な意見があったほうが助かりますよね。それはやりすぎですとか、ここはもっとやってほしいとか。監督やプロデューサーのジャッジはとてもはっきりしていたので信頼していました。


ーーちなみにアドリブって、どれぐらいあったのですか?


滝藤:僕は、そんなに言ってないですよ。ほぼセリフ通りです。広瀬さんと水野さんはアドリブだらけでしたね(笑)。僕は「ウーパールーパー」ぐらいですよ。


ーーああ、ありましたね。第8話でしたか。「突然、何を言い出すんだろう、この人は」って思いながら観ていました(笑)。


滝藤:あれ自分で言うのもなんですけど、最高でしたね。ウーパールーパーって(笑)。あれはやばかったですよ。横に立っている音声さんが、マイクを持ちながらプルプル震えるから、それにつられて僕も広瀬さんも笑っちゃって(笑)。あと、印象に残っているのは、第5話だったかな? 夏祭りのシーンで、ピロピロって伸びる紙の笛を、僕が広瀬さんの顔の前で吹くシーンがあったんですけど、それをプーッと吹いたら、広瀬さんの顔をプルプルと昇っていって……あれはやばかったですね(笑)。本番ギリギリまで笑いが止まらなかったから。というか、ああいうときに限って、広瀬さん、笑わないんですよね。ずーっと真顔で芝居をされていて(笑)。それが逆におかしくてしょうがないんですよ。


ーー観ているこちらとしては、どこまで台本通りなのかわからないドキドキ感がありました(笑)。


滝藤:僕も、もはやどこまでが台本どおりか分からないですよ(笑)。セリフを憶える時間もなくて、撮影に追われていましたから。でも、そういうもののほうが、逆に生きた芝居になったりするんじゃないですかね? 何かわからないけど面白いことが起きていて、その勢いに乗せられて、シーンを乗り切っていく。起きないときは何も起きない。マスター役の高橋努さんとは見切り発車して全く何も起きないことが多々ありました。“何も起きませんでしたね”って、二人で爆笑していました(笑)。


ーー(笑)。そう、今回発売されるDVD-BOXには、GYAO!で期間限定公開されていた、各話の間に入る「チェインストーリー」がすべて収録されるとのことですが、あれも相当アドリブが多そうなエピソードでしたよね?


滝藤:あれは僕、そんなに出演していないですけど、みなさんメチャクチャやってましたよね。特に、広瀬さんと水野さんが(笑)。台本はあるんだけど、それをほとんど無視してやっていて。笑いをこらえながらやっているのが、観ている側にもわかるというか、もうほとんど勢いでやっているというか。脚本家の方に申し訳ない気持ちでいっぱいです。あの2人に代わって謝ります。本当に申し訳ありませんでした(笑)。


ーーその要素は、結構本編にもあったような気がしましたけど?


滝藤:ああ……だって、湯浅監督は、あの感じで本編やりたいって言われてたんですよ? あのチェインストーリーの感じで、本編をやりたいって。それはさすがにちょっとどうかなって、僕は思ってましたけど(笑)。このチームだからできたことってあると思うんです。キャスト陣もエネルギーに溢れていたし、それを面白がって撮ってくれたスタッフ、そんな僕らを温かく見守ってくれたプロデューサー……そういうチーム全体の頑張りによって、超ハードスケジュールでしたが楽しいドラマになったんだと思うんですよね。


ーーなるほど。ちなみに、僕が滝藤さんを初めて観たのは、多分映画『クライマーズ・ハイ』だったと思うのですが、当初は神経質なサラリーマン役だったり、内にため込むような役が多かったですよね。


滝藤:そうですね。30代は、「犯人と言えば滝藤」じゃないですけど、犯人役のオファーは全部やりますって気持ちでいたんです。日本国民全員に嫌われる、不快感を与える俳優(笑)。でも、メディアに出れば出るほど神経質な役とか病的な役に説得力がなくなってきてしまうから……そのへんは難しいところですよね。“狂犬”みたいな役は、やっぱりまだ世に出ていない方がやったほうがインパクトがあるというか、観ている人たちも何が起こるか分からないスリルがあるでしょうし。そういう役を僕がやると、「あ、また犯人か」、「絶対、何かあるぞ」みたいに思われてしまうから。なので、さらに今の自分を超えていかないといけないわけです。まさしく生涯修行ですね。


ーーなるほど。


滝藤:今は偏らずにいろんな役のオファーをいただけるので、本当にありがたいです。『半分、青い。』は、とっても幸せなおとーちゃんでしたでしょ?


ーーああ、永野芽郁さんのお父さん役をやられていましたよね。


滝藤:まさか、朝ドラの父親役をやらせてもらえるなんて、思ってもみなかったです。数々の犯罪者役を演じてきましたから。朝ドラっていう顔もしてないですしね(笑)。チャンスをいただけたことに感謝しております。大きな夢が一つ叶いました。そして、2018年は、シリアスな感じとはっちゃけた感じと、すごく良いバランスで、同時期にいろんな滝藤賢一が出せた年だったのかなっていうのは思います。『花のち晴れ~花男 Next Season~』の息子に完璧を求める厳しい父親。『ミス・シャーロック/Miss Sherlock』の愛妻家インテリ刑事。『コールドケース2 ~真実の扉~』のやさぐれた刑事。『ハラスメントゲーム』の頼りない3代目社長。


ーーそう、『ハラスメントゲーム』で、また広瀬さんと共演されていて……。


滝藤:『探偵が早すぎる』を観てくださっていた方は、いつ僕が暴れ出して、広瀬さんとガチャガチャやり出すんだって思っていたみたい(笑)。そうやって楽しんで観ていただいてるのは、とても幸せです。


ーー(笑)。滝藤さんは、仲代達矢さんが主宰する俳優養成所「無名塾」で舞台を約10年、その後、映画やドラマに出るようになって10年ぐらいになりますが、今後の目標みたいなものって何かあるのでしょうか?


滝藤:そりゃ、いっぱいありますよ。その中でも、常に持ち続けなければならないのは、主演をはれる俳優になるということです。これは生涯変わらぬ目標の一つに掲げています。誰も僕が主演俳優になれるとは思っていませんから。僕自身も思っていませんし(笑)。それがなってしまったら面白くないですか? あぁ、楽しみだなぁ……。


ーー「将来的には、こういう俳優になっていきたい」みたいなビジョンがあったりはしないのですか?


滝藤:特にないですね。それはみなさんに決めていただくことで、僕が決めることではないと思うんです。僕がやるのは、呼んでいただいた現場で自分のやらなければならないことをひとつひとつ丁寧に積み重ねていくこと。そして、流れに身を任せていくこと。とは言うものの、今までもそうでしたが、これから先もいろんな選択肢を迫られると思います。そんなときは、自分の嗅覚を信じて勝負していかないと、この厳しい世界では生き残れないと思っているので、臨機応変に対応しながら、運を天に任せたいと思っています。結局、最後は神頼みです(笑)。


ーーなるほど。とはいえ最近は、今回の『探偵が早すぎる』をはじめ、お芝居を非常に活き活きと楽しまれているような印象があります。


滝藤:そうですね。考え方が、ちょっと変わってきたのかもしれないです。数年前までは、苦しさのなかから生まれるものしか信じてなかったですから。「楽しんでやる? 考えられない」とか思っていたので(笑)。でも、やっぱり、できることなら楽しいほうがいいですよね。とか言いながら、また数年後は違うこと言っていたりするんですよ。正解のない世界で正解を模索し続けるわけですから。


(取材・文=麦倉正樹)