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米アニー賞受賞 細田守監督作『未来のミライ』が海外で高い評価を勝ち得る理由

2019年02月05日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 第91回アカデミー賞長編アニメーション部門に、細田守監督作『未来のミライ』がノミネートされた。同賞にスタジオジブリ以外の作品がノミネートされるのは初めてのことで、受賞にも期待がかかる。


 さらに、アニメ界のアカデミー賞といわれる第46回アニー賞授賞式が2月2日(現地時間)、米ロサンゼルス名門大学UCLAのロイス・ホールで開催され、本作が長編インディペンデントアニメ部門作品賞を受賞した。長編インディペンデントアニメ部門作品賞の獲得は、日本人監督初の快挙となる。


 しかしながら、本作が日本において大きな評価を受けたかというと疑問符が浮かぶ。本作の最終興行収入は28.8億円。前作『バケモノの子』が58.5億円、前々作『おおかみこどもの雨と雪』が42.6億円と、細田守監督は長編デビュー以来右肩上がりに売り上げを積み上げてきたが、ここでガクッと落としたこととなる。『未来のミライ』は細田監督自身のプライベートフィルム的な側面もあり、本作を巡る評価は二分している。


 だが海外の評価はこのほどではない。大手レビューサイトRotten Tomatoesでは、批評家の評価は92%フレッシュ、オーディエンススコアも90%フレッシュと軒並み上々である(2月4日現在)。またアカデミー賞の他に、前述のようにアニー賞を受賞し、ゴールデングローブ賞、放送映画批評家協会賞などにノミネートされ、2018年の日本アニメーション映画の中で一線を画した目立ちぶりだ。


 日本で大きく評価分けた理由として第一に考えられるのが、本作をストレートな冒険活劇ファミリー映画と期待して劇場に足を運んだ観客が多かったことだろう。『バケモノの子』『サマーウォーズ』と言った過去作から想像させる「大人も子どもも楽しめる作品」や「夏休みのファミリー映画」といったイメージとかけ離れて、本作は細田守監督の作家性を前面に押し出した内容となっている。そのため、ストレートな冒険というよりか、まるで子どもが昼寝の最中に見る夢のような、不思議な時間を切り取ったアート映画を見ているかのような気分にさせてしまったのだ。


 この点に関しては、海外メディアもきちんと指摘している。Los Angeles Timesは、「日本アニメ―ション映画の巨匠、細田守の新しい家族映画が公開された。しかし本作はあなたが想像するようなものではないかもしれない。彼の映画は万人向けに見えるが、実のところそうではない。“家族”という集団は彼の作家性の中心にあるように見えて、その実かけ離れているとも言える」と分析。この問題点は、間違いなく海を越えて共有されている。


 では、一体なにがここまで、評価を分けたのだろうか。海外で評価されている点を抜粋してみる。Hollywood Reporterは、「アニメの可愛さと注意深く観察されたリアリズムの間で優雅さを兼ね備えながら、特に大人と比較して重心が低いという事実をしっかりと理解し、犬や子どもの動きや揺れ方を洞察力をもって捉えている」と評している。つまり、日本アニメーションとしての繊細な視点と描写力の高さが評価されているということだ。


 確かに、本作の主人公・くんちゃんが階段を上下したり、自転車をこぎ、犬とじゃれあうといった子どもの目線から見た世界の描写には目を見張るものがあったように思う。


 また、本作が掲げるメッセージが、2018年の映画の潮流とリンクしていたのも1つのポイントかもしれない。The Wrap誌では、「家族の繋がりや親の不安、逃れることのできない過去の呪縛を共有する作品に代表される『万引き家族』『ROMA/ローマ』と、似通った関係性と詩的な野心を感じさせる」と評している。この2作も本作と同様にアカデミー賞にノミネートされており、特に『ROMA/ローマ』は作品賞が有力視されている。こういった他作品と共時性のある点も、プラスに働いたのだろうか。


 なお、『未来のミライ』の北米配給権を獲得したのは、米国に拠点を持つGKIDSという会社だ。2008年に設立されて以来、海外のアニメーション映画をアメリカ国内へ配給しており、これまで、アカデミー賞長編アニメーション部門に、『かぐや姫の物語』『思い出のマーニー』などといった作品のノミネートを送り出している。いくつもの映画祭を主催するなど、米国においても大きな存在感を発揮するGKIDSの配給作品であることも、『未来のミライ』が注目される1つの理由と言えるかもしれない。


 いずれにせよ、日本から生まれた作品が海を越えた舞台で羽ばたいていることはなんとも喜ばしい。2月24日(現地時間)に開催される授賞式を楽しみに待ちたい。


(文=安田周平)