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Nulbarich、Nissy、Eve……海外でも通用する可能性を持った日本のアーティストの新作

2019年02月05日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 日本でもサブスクが徐々に浸透し(それでも欧米に比べればまだまだですが)、多くの国と地域の音楽をリアルタイムで聴ける状況が整うなか、日本のアーティストも否応なく、海外の楽曲との競争にさらされつつある。そこで今回は“海外でも通用する可能性を持った日本人アーティストの新作”。特にサウンドメイクにおいて、海外との差は(少しずつではあるが)確実に縮まっているように思う。


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 アルバムタイトルの『Blank Envelope』は“宛名のない封筒”という意味。昨年、初の武道館公演を成功させ、CM、ドラマ、映画などの楽曲を次々と手がけるなど、名実ともに音楽シーンのど真ん中に進み出たNulbarichの3rdアルバムは、自らの音楽的欲求に従いながら生み出した楽曲を(宛名のない封筒を投函するかのごとく)すべてのオーディエンスに向けた充実作となった。本作にはロサンゼルスで制作された楽曲も含まれ、トラップを取り入れるなど、海外の基準にも合致したサウンドメイクが施されている。豊かさを増したメロディ、率直さを増したリリックなど、これまで以上に歌の比重が高まっていることも、このアルバムの訴求力の強さにつながっていると思う。


 ソロ活動5周年を記念したNissy(西島隆弘)のベスト盤『Nissy Entertainment 5th Anniversary BEST』には、デビュー曲「どうしようか?」から最新シングルの収録曲「トリコ」「Relax & Chill」までが網羅され、Nissyの音楽的な軌跡を改めて体感できるアイテムに仕上がっている。ネオソウル、ディスコリバイバル、エレクトロの世界的潮流と重なりながら、老若男女が楽しめるJ-POPへと昇華。押しつけがましくないのに耳に残るボーカル、軽やかなグルーヴを感じさせるフロウ、クオリティの高いトラックがひとつになったNissyの音楽の変化と進化をじっくりと堪能してほしい。新曲「Addicted」はエレクトロスウィングの要素を取り入れたダンスチューン。抑制を聴かせた、シックな雰囲気のボーカルもきわめて魅力的だ。


 ネットの動画投稿サイトを中心に注目を集め、シンガーソングライターとしての才能を露わにしたアルバム『文化』(2017年)で大きなジャンプアップを果たしたEveのニューアルバム『おとぎ』は、ソングライティング、コンセプトの構築、サウンドデザインの的確さを含め、その無限のポテンシャルをさらに大きく広げた作品となった。舞台は夢のなか(つまり主人公は眠っている)。時間軸、空間軸を自在に操作しながら、ファンタジックな世界観を描き出すことに成功。優れたファンタジーの条件である、現実世界とのリンクもしっかりと感じとることができ、さまざまな角度から検証したくなる奥深いアルバムに仕上がっている。ストーリー、楽曲、ビジュアルを総合的にコントロールするプロデューサー的な手腕にもぜひ注目してほしい。


 2018年にはJETの全国ツアーに参加、その直後に『SXSW』Wの出演を含む初の全米ツアーを敢行。国内の主要フェスにも数多く出演するなど、確実に活動のスケールを拡大し続けているドミコ(さかしたひかる(Vo/Gt)と 長谷川啓太(Dr)による2ピースバンド)の3rdアルバム『Nice Body?』。近未来のガレージロックと称すべき「ペーパーロールスター」から始まる本作は、シャープなヘビィネスをたたえたギターサウンドが心地いいミディアムチューン「アーノルド・フランク&ブラウニー」、エフェクトを施したボーカル、サイケデリックに揺れるサウンドがひとつになった「あたしぐらいは」など、独創的なアイデアと生々しいグルーヴがせめぎ合う楽曲が並んでいる。音数よりも音質を重視したプロダクションも、現在の邦楽ロックとは完全に一線を画していると思う。


 注目のバンド・Tempalayのメンバーでもあるトラックメイカー/SSWのAAAMYYYの1stフルアルバム『BODY』が完成。KREVA、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)も絶賛したトラックメイクの質はさらに向上し、オルタナR&B、ベースミュージックなどを取り入れながら、独自のグルーヴを獲得している。ビートメイク、サウンドの質感以上に印象的なのが、ソングライティングの確かさ。特に「屍を越えてゆけ」における物語性を備えたメロディライン、(怖いタイトルと反し)ロマンチックな喪失感を描いた歌詞からは、彼女の音楽の中心にあるのが“歌”であることがわかるはずだ。憂いと心地よさを同時に感じさせるボーカルにも強く惹かれてしまう。


■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。