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全然知らない変な曲が無限に流れてくる! 韓国発「ポンチャックマシーン」のある暮らし

2019年02月05日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 唐突だが、ちょっと前にポンチャックマシーンを買った。これで1日24時間、常にポンチャック漬けである。おかげで毎日とても快調、どうだ羨ましいだろう……と自慢したところで、「ポンチャックマシーンって一体なんなんだよ!」という感じだと思う。すいません、今から説明します。


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 ポンチャックというのは、平たく言うと日本でいう歌謡曲と演歌が混ぜ合わさったような韓国の音楽ジャンルである。大抵は2拍子で、その上にチープなシンセサイザーなどから成るヘロヘロのメロディが乗り、(歌い手によっては妙にテンションが高い)韓国語のボーカルがさらにその上に乗るという構成だ。日本でも90年代に「変な音楽」として紹介されたイ・パクサ(李博士)は、ポンチャックの代表的な歌手である。


 韓国にはもうひとつ、トロットというジャンルもある。こちらはちょっとノリが異なり、リズムも3拍子や4拍子。歌い方もこぶしを効かせる感じがよく見られ、さらに伴奏の雰囲気もより演歌っぽい。でも当然ながら歌詞は全部ハングル。まるで異世界の演歌のような独特さが魅力と言える。


 このポンチャックやトロットは、いわゆるK-POP的な最近の韓国の音楽とはちょっと位相が異なる。この辺の韓国国内での扱われ方も、日本の演歌と同じ感じと言っていいらしい。今時ポンチャックを聞いているのは年寄りばっかり。ダサいし、韓国の若者的には正直あんまりいじられたくない……という代物のようである。


 前述のように韓国でポンチャックを好んで聞くのはお年寄りなのだが、彼らに向けて販売されているのがポンチャックマシーンである。といっても、ハード自体は「孝道ラジオ」と呼ばれている機械だ。これはMP3プレーヤーとAM/FMラジオが組み合わされたもので、SDカードやUSBメモリのスロットが付いている。ここに各種メディアを突き刺すと、その中の音源を再生することができる……というのが、孝道ラジオなのである。日本でも売られているお年寄り向けの携帯ラジオみたいな機材だ。


 で、この孝道ラジオに、大量にポンチャックやトロットのデータが入ったSDカードを突き刺して売っているのがポンチャックマシーンなのである。韓国では路上の屋台とかで販売されており、お年寄りが行楽のお供として買っているという。とにかくその楽曲の収録数が半端でなく、だいたいどれを買っても数千曲は入っているとか。次から次に全然知らない(そして漏れなくチープな)ポンチャックやトロットがわんこそばのように再生される携帯MP3プレーヤー……。おれはこのポンチャックマシーンをネットの動画で一眼見てから、絶対に手元に欲しくなってしまった。全然知らない変な曲が無限に流れてくるちっちゃいメカ、欲しくない人います?


 というわけでポンチャックマシーン欲しい欲しいと定期的にツイッターで騒ぎつつ、ヤフオクやメルカリに出品されていないかと検索をかけまくったのである。そしたら騒いでみるもんですね。ある方が「今ポンチャックマシーンをヤフオクに出品しようと思ってたんだけど、ひとつ取り置きしとくんで、よかったら買います?」とDMをくれたのである。買う買う! 買いますとも! というわけで我が家にポンチャックマシーンがやってきた。


 早速起動。バッテリーは乾電池とかではなくUSBケーブルによる充電方式で、箱から出した時にはすでにフル充電されていた。操作方法自体は単純で、適当に番号を打ち込んで再生ボタンを押すとその番号の曲が再生されるというもの。とりあえず何も考えずに適当に再生してみると、スピーカーから流れてくるのはヘロヘロに安いシンセの音色と「ズンチャズンチャ! ズンチャズンチャ!」という景気のいい2拍子! なんか昔のロボットアニメのオープニングみたいな曲ばっか! 音もバリバリに割れてる! これ! これですよおれが欲しかったのは! 思わず一人で爆笑してしまった。たまらないチープさである。


 ポンチャックマシーンには、番号は4ケタまで入力できる。ということは、理論上は9999曲録音されていることもありうる。だいたい、ポンチャックマシーンはどのSDカードが突き刺さっているかで収録曲数や内容が違う。試しに「9999」と打ち込んだところエラーが出たので、上限いっぱいに録音されているわけではないようだ。では8000番台、7000番台……と調べていったところ、おれが購入したマシーンには6400曲が収録されていることが判明した。全然知らん異国の音楽が6400曲も手元に……。「ダイナマイトが百五十屯」と言われるのと同じくらいのピンとこなさである。まあ、少なくともこれでもう一生ポンチャック不足で困ることはないだろう。


 で、ついにポンチャックマシーンがある暮らしが始まった。おれはもう、いつでもどこでもポンチャックと一緒である。ただ、やってみてわかったんだけど、仕事中にポンチャックは禁物だ。なんというか、うるさい。おれはライターなので仕事の大半は原稿を書いたりすることなのだが、パソコンを前にして「何を書こうかな~?」と唸っている横で「ズンチャズンチャ!」とバリバリに割れた音がしているのはどうも始末に負えない。ポンチャックを聞きながら原稿を書くのは、砲弾が降り注ぐ中で取材する戦場ジャーナリスト並みの神経の太さを必要とする行為だろう。


 しかしポンチャックマシーンをフル稼働しながらの方が効率よく進む作業というのもある。おれの場合、それはまず皿洗いだった。おれは皿を洗うという行為が死ぬほど嫌いである。もう嫌いで嫌いで仕方がない。次に引っ越すときは食洗機を置けるかどうかを最優先事項にして引っ越し先を決めようと思っているくらいである。が、不思議とポンチャックを聞きながらだと皿洗いが早く終わる。何を歌っているのかなんにもわからないけど、とりあえず妙に景気がいい曲ばっかりなので、こういうしょうもない単純作業にはもってこいだ。


 さらに言えば、部屋を掃除するときにもポンチャックは大活躍である。布団を干して服を洗濯して掃除機をかけて……というめんどくさい作業をするときでも、景気のいい2拍子とヘロヘロのシンセの音色があれば心は晴れやか、「なんだよこの曲~!」とか言ってるうちになんとなく掃除機をかけ終わっている。これには驚いた。かったるい家事をやるときには、ポンチャックを聞けばよかったのである。


 あと、これはまだ試す機会を伺っている状態なのだが、宴会向けのツールとしてもおそらくポンチャックマシーンは有効である。なんせスイッチ一発で誰も聞いたことがないチープで景気のいい曲が数千曲呼び出せるのだ。場が盛り上がらないわけがない。さらに「誕生日って何月何日?」「5月12日かな~」「じゃあ0512……と入力すると……」「うっわなんやこの曲……」「全然わかんない……」という感じで、さりげなく気になる人の誕生日を聞き出したりできるかもしれない。書いてて思ったけど、誕生日くらい普通に聞けばいいですね。


 というわけで、今おれはまるでスマートスピーカーの一種か何かのように、常にポンチャックマシーンを持ち歩いている。生活が楽しくなったかと言われると困るが、確実に変なスパイスが加わった感じはある。日本で入手するのはちょっと難しい(でも不可能ではない)アイテムではあるが、ちょっと興味の出てきた好き者の皆さんには強くオススメしておきたい。(しげる)