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保険外交員「アリ地獄」契約、天引き続きで月給マイナスも…全国25人が訴訟

2019年02月04日 21:01  弁護士ドットコム

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保険外交員(保険募集人)が、雇用契約を結ぶ保険代理店から「搾取」される事例が相次いでいるとして、弁護士らが2月4日、厚労省記者クラブで会見を開き、警鐘を鳴らした。


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会見した「保険外交員搾取被害弁護団」によると、弁護団が担当している分だけで、被害者25人が4社を相手に5つの地裁で裁判を起こしている。請求総額は約7100万円。





被害の詳細は会社によって異なるものの、基本給が一部しか払われない、さまざまな自己負担がある、退職時の嫌がらせ、などが共通しているという。



弁護団長の中川拓弁護士は、「複数の企業で同時多発的に起きており、保険代理店業界にまんえんしていると考えられる」と話した。



●多すぎる控除、給与がマイナスに

弁護団によると、典型的な被害の1つが、基本給が給与から控除されるというもの。



たとえば、中川弁護士が担当した長崎の男性外交員の事例では、「初期補給」の名目で月12万円が支払われていたが、「基礎控除」として同じく12万円が控除されている。





この男性の雇用契約書によると、基本給は12万円と書かれているが、控除については「公租公課(編注:社会保険料など)および控除協定によるもの」とある。しかし、男性は協定の存在など知らないという。



また、弁護団によれば、控除の項目・金額の多さもよく見られる特徴だという。



男性の場合、成約したかどうかにかかわらず、見込み客を会社から紹介されると「リーズ案件代」(紹介料)の名目で2万円(税抜き)が控除されていた。さらに、PCリース代や年3回・各10万円の事務所維持管理費などの負担もあった。



控除される金額が給与を超えてしまった場合、つまり月給がマイナスになるときは、会社に対する負債という扱いになる。



●労働法に反すると弁護団

この男性と同じ会社の北海道の支店に勤めていた女性は、2015年6月に入社。2017年9月まで、大半の月が「マイナス給与」で、会社に対する「負債」は約150万円になった。



社に対する負債があれば、成績がプラスになっても相殺される。退職すれば、負債の返済を求められるので、辞めるに辞められない。一方で生活のため、お金もつくる必要がある。



北海道の訴訟を担当している橋本祐樹弁護士は、女性はこれらの控除について承知しておらず、労働基準法24条の「賃金全額払い」の原則に反し、無効だと説明する。



「仮に控除に納得していても、引きすぎていて最低賃金を下回っている。公序良俗に反して違反になる」(橋本弁護士)



●稼いでいる人もいる以上、被害を主張しづらい?

会見には、別の会社で働いていた東京訴訟の原告男性も出席した。



営業成績は優秀でマイナス給与というわけではなかったが、会社が負担すべき分の社会保険料なども天引きされ、約2年半の在籍期間に合計で300万円以上の給与が削られていると主張した。





男性は弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「売上をあげ、かなり稼いでいる人もいる。その分、成績が悪い人は自分を責めて、言い出せない傾向があるのではないか」と話した。



男性は、退職する際、会社の嫌がらせにあったとも主張している。弁護団によると、転職するとき、金融庁の登録事務に協力しないなどして、他の保険代理店に移籍しづらくすることもよくあるという。



男性は「廃業になると、収入が絶たれるので、かなり不安でした」と当時を振り返った。



天引きなどによって収入が低い上に、会社から抜け出すのも困難。弁護団が「アリ地獄」や「奴隷契約」と呼ぶゆえんがここにある。



●「雇用契約への移行」が原因か

金融庁の指針により、保険外交員は2014年から委託契約が禁止され、雇用契約に移行した。



外交員が搾取される背景について、中川弁護士は次のように分析する。



「雇用するときに労働関係法規を無視して、委託型と同じような給料の払い方ができるようにして編み出した方法ではないか」



弁護団はこの日、「外交員が搾取されると、(顧客と)強引な契約を締結しかねない」(大久保修一弁護士)などとして、金融庁と厚労省に申入書も提出した。



なお、原告25人中23人に訴えられている、2社はいずれも「コメントは差し控える」と話している。



(弁護士ドットコムニュース)