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『コンフィデンスマンJP』はドラマの映画化における試金石に? “月9→映画化”の成功例を振り返る

2019年02月04日 10:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 昨年、放送された古沢良太脚本の連続ドラマ『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)が5月に劇場公開される。本作はダー子(長澤まさみ)、ボクちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)の三人の信用詐欺師(コンフィデンスマン)が、毎回、悪党から金をだまし取るというクライムサスペンスだ。


【動画】映画『コンフィデンスマンJP』予告編


 映画版の舞台は香港になるとのことだが、古沢良太の脚本を元に、韓国版の『コンフィデンスマンKR』、中国版の『コンフィデンスマンCN』の制作も決定しており、アジアマーケットを視野に入れたグローバルな展開が予定されていた。物語自体も映画『スティング』を思わせる詐欺師モノだと考えると、映画化は古沢の作り込まれた脚本と相性が良いのではないかと思う。


 本作は元々、月9(フジテレビ系月曜9時枠)で放送された作品だが、昨年大ヒットした映画『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』のように、ヒットを受けて映画版を作るという流れは、テレビドラマでは定番化している。


 この流れが定着したのは90年代後半で、もっとも大きな影響を与えたのは刑事ドラマ『踊る大捜査線』の成功だろう。


 本作は視聴率の面では、当時の大ヒット作とは言えなかったが、細部まで作り込まれたマニアックな作品だったため、繰り返し作品を視聴する熱狂的なファンを生み出し、ドラマ終了後もビデオセールスやレンタルが好評だった。その流れを受けて、スペシャルドラマが作られ劇場映画が大ヒットした。


 リアルタイムでの視聴率は高くなかったものの、再放送等で話題となり後に映画化されるという流れは『機動戦士ガンダム』や『新世紀エヴァンゲリオン』といったアニメ作品で見られた現象だが、マニアックなファンによるオタク的消費がドラマで定着するきっかけとなったのが本作だったといえるだろう。


 『踊る大捜査線』の成功を受けて、ドラマから映画へという流れは常態化しているが、テレビドラマの映画化は大きく分けると二つの傾向がある。


 一つはテレビドラマで完結しなかったストーリーを劇場版で完結させるというもの。月9で放送された『信長協奏曲』がこのパターンで、『踊る大捜査線』や『コード・ブルー』の劇場版も、その系譜だと言える。


 もう一つはテレビドラマでは物語は完結しており、ストーリーやキャラクターを使って新しい物語を展開するというもの。『コンフィデンスマンJP』はこちらのパターンだ。福山雅治主演のミステリードラマ『ガリレオ』シリーズの劇場版もこちらの流れだが、中でも名作と名高いのが映画『容疑者Xの献身』。


 本作では福山雅治たちレギュラー陣は背景に退き、物語の中心にいるのはある事情から殺人事件に巻き込まれる堤真一と松雪泰子が主演を務めている。つまり犯人の視点から物語を見せていく『古畑任三郎』や、その元ネタとなった『刑事コロンボ』のスタイルなのだが、テーマや映像がドラマ版以上に作り込まれており、今作で監督・西谷弘の評価は一気に高まった。こういう作り方ができるのはシリーズものの強みである。


 元々、刑事ドラマやミステリードラマの強みは犯人の視点を通して大きなテーマを扱うことが可能なことで、ロボットアニメでは押井守が監督した『機動警察パトレイバー』の劇場版二作が、似たような展開で高い評価を受けた。つまり、テレビシリーズで培った人間関係や世界観をベースにして監督がやりたいことができるのだ。


 しかしこれはテレビシリーズを見ていない人にとっては、最大の弱点となってしまう。テレビドラマの映画化が、どれだけヒットしてもキワモノ扱いされ、映画批評の対象としてまともに語られないのは、テレビドラマを見ていることを前提とした作りが、ドラマを見ていない観客を拒絶しているからだ。


 それは昨年、邦画興行収入一位を飾った劇場版『コード・ブルー』の語られなさに強く現れている。おそらく、ドラマ版の人間関係や世界観を知らないと、どう見ていいのか理解できないのだろう。成田空港や海ほたるのシーンをみれば、西浦正記監督を中心としたチームが映画的なスペクタクル映像を撮れる逸材なのは明らかだが、そういった方面からの評価は少ない。インディペンデントの低予算映画からスタートしながらヒット作となった『カメラを止めるな!』の語られ方と比べると、『コード・ブルー』の方がカルト作品のように見えてくる。


 これは『スター・ウォーズ』や『アベンジャーズ』といったハリウッド映画にも同様のことが言える。過去作やスピンオフ作品を見ないと面白さが理解できないのでは? と思われている作品はメジャー映画ほど増えているのが、最近の傾向だ。


 その最たるものが、テレビドラマの映画化なのだが、単品でも楽しめる作り(になるだろう)『コンフィデンスマンJP』はどのように受け止められるのか? おそらく、ドラマの映画化における試金石となるのではないかと思う。


(成馬零一)