2019年02月03日 11:01 弁護士ドットコム
外国人技能実習制度をめぐり、神奈川県川崎市で痛ましい事件が起きた。
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1月29日、産んだばかりの男児を民家の敷地に放置したとして、22歳の中国人実習生の女性が逮捕された(保護責任者遺棄容疑)。報道によると、「会社に知られたら日本にいられなくなる」と話しているそうだ。
現在、実習生問題に取り組む「移住連」(移住者と連帯する全国ネットワーク)が、女性を支援すべく動き始めている。
女性は2018年8月に来日、食品工場に勤務していたという。
事件の詳細は明らかでないが、実習生が妊娠を理由に、中絶や帰国を求められるケースは珍しくない。本来は「国際貢献」のはずなのに、実習生が「労働力」として扱われている証左と言えるだろう。働けないのなら、いらないというわけだ。
一方、多くの実習生は現地の送り出し機関に、100万円前後を払って来日している。現地では大金だから、工面するのは大変だ。たいていは借金や何らかの事情を抱えている。それだけに「日本にいられなくなる」という女性の言葉は重い。
実習生の多くは若い男女。しかし、恋愛や結婚、出産が考慮されていない現状に、指宿昭一弁護士は「ひどい人権侵害」と憤慨する。
「今回の女性も追い詰められて、こういう行動をとったのではないか。子どもを捨てて良いとは思わないが、実習生は帰るに帰れない。産んだらいられなくなる仕組みはおかしい」(指宿弁護士)
政府見解では、実習生の意思を無視した強制帰国は許されない。妊娠、出産、結婚を理由としたものは、男女雇用機会均等法上も認められないから、帰国の強制は違法行為だ。
実際、技能実習制度を支援する「JITCO(公益財団法人 国際研修協力機構)」の「外国人技能実習生労務管理ハンドブック」にも、女性実習生の妊娠、出産、結婚を理由とした不利益取扱いの禁止が明記されている。
それでも、妊娠を理由として、女性実習生に帰国や中絶を迫る事件はなくならない。
実習生の妊娠をめぐる、有名な裁判例としては「富山技能実習生強制帰国未遂事件」(富山地裁2013年7月17日判決)がある。
実習生の中国人女性が妊娠を理由に、管理団体から強制送還されそうになり、すんでのところで空港に保護されたものの、流産してしまったという事件だ。
裁判所は、女性と中国側の送り出し機関の間にあった「妊娠禁止規定」を不適切な規定と認定。そのことを知りながら、かえって送り出し機関の要請に応じて、強制帰国させようとした管理団体の責任を認めた。
さらに、女性の流産について、空港に連行される際の拘束などとの因果関係も認め、管理団体に賠償を命じている。
実習生の妊娠・出産について、指宿弁護士は次のように話す。
「産休の期間は休んで、職場に復帰して働き続ければよい。法律的には可能だ。しかし、実際にそれを受け入れる企業があるとはなかなか思えない。労働組合に加入して、交渉するなどの方法をとる必要がある」
逮捕された女性が今後、起訴されるかどうかは不明だが、このままでは日本で働くことは難しいと考えられる。
そこで、実習生問題に取り組む「移住連」は、弁護士らと連絡を取りながら、女性を支援する体制を整えている。
刑事事件への対応だけでなく、生まれた子どもへの手続き的支援、労働問題としての対応なども検討しているという。
被疑者ではなく被害者として救済してほしい。彼女は技能実習制度の被害者だ。妊娠や病気は「つかいものにならない」として帰国を強要される。暴力的強制帰国もある。技能実習制度にも労働法が適用されることになっているが、実態はそうなっていない。奴隷労働構造が続いている。
移住連によれば、妊娠時の不当な扱いで支援機関に相談があるのはごく一部だといい、中絶を選択するケースが一定数あると見ている。
こうした悲劇をなくすためには、どうすべきなのか。移住連は次のようにコメントしている。
「技能実習機構をはじめ政府機関が、実習生に労働者としての権利があることを周知するとともに、トラブル時のサポート体制を構築するよう強く要請する。
妊娠時に強制帰国を含む不当な扱いをする技能実習関係機関が現れないよう、周知・啓発に加え、違反事例に厳しく対処することも求めていきたい」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
指宿 昭一(いぶすき・しょういち)弁護士
労働組合活動に長く関わり、労働事件(労働者側)と入管事件を専門的に取り扱っている。日本労働弁護団常任幹事。外国人研修生の労働者性を認めた三和サービス事件、精神疾患のある労働者への使用者の配慮義務を認めた日本ニューレット・パッカード事件、歩合給の計算において残業代等を控除することは労基法37条違反かどうかが争われている国際自動車事件などを担当。
事務所名:暁法律事務所
事務所URL:http://www.ak-law.org/