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SACRA MUSIC MIX CD『MiX』は最良のアニクラ入門盤に 本作の魅力を解説

2019年02月02日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 1月23日にリリースされた『MiX ~面白いほどよくわかるノンストップSACRA MUSIC~』が売れている。アニソン界をけん引するアーティスト、ロックバンドから声優、バーチャルからアイドルまで多岐なジャンルに渡るアーティストが多数所属している新進気鋭の音楽レーベル・SACRA MUSICの楽曲のみで構成されたMIX CDだ。発表時から話題を集めた本作は、リリースと同時にさらに話題沸騰。一時iTunesアニメアルバムチャートの1位にも輝き、この勢いはまだまだ続きそうだ。そんな本作の持つ魅力とは、いったいどのようなものなのだろうか。


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■アニソンへの造詣が深いキュレーターによるマスターピースな選曲


 近年リリースされたMIX CDとして名高いのは、今もなおロングヒットを続けている『ラブとポップ ~好きだった人を思い出す歌がある~ mixed by DJ和』だろう。2000年代J-POPヒットソングを集めたこの作品を挙げれば、“MIX CD”がどういったものかイメージの湧きやすい方も多いのではないだろうか。


 しかし本作が取り扱っているのは、アニメソング。“アニメの主題歌である”という一点のみをルールとするこのジャンルは、そのアニメ作品とのマッチングが最優先される。そしてアニメ作品は現実離れした世界を比較的容易に描写可能なため、必然的に作品に沿う楽曲というものもJ-POPよりも多岐にわたる。さらに斉藤壮馬や花澤香菜といった所属声優アーティストのノンタイアップ曲を内包することまで考えると、漫然とまとめるだけではとっちらかってしまいがちだ。


 それを誰が聴いても納得感あるようにまとめたのが、吉田尚記(ニッポン放送アナウンサー)とDJ MarGenalのふたり。本作のブックレットで“アニソンおじさん”と自称する吉田は、自身の番組に多彩なゲストを迎えるほか、アニメイベントの司会を務めたり様々なライブイベントを観覧したりとアニメ、アニソンカルチャーへの造詣が非常に深く、もはや“アニソンソムリエ”と呼んでも差し支えない域の存在だ。そんな彼が今回白羽の矢を立てたのが、アニソンクラブイベント(アニクラ)界でも新進気鋭の存在、DJ MarGenal。このふたりが「思い入れのない単なるカタログにもしない(※本作ブックレット引用)」との共通認識のもと、本作を作り上げた。それを象徴する存在が、「極楽浄土 / GARNiDELiA」だろう。この楽曲はシングルA面曲でもなければアニメ主題歌でもないが、公式がUPした“踊っちゃってみた動画”が4000万再生を突破している人気曲。数々のマスターピースを収録する一方で、クラブではフロアが間違いなく熱狂に包まれるであろうこのEDMもしっかり抑えている点も、非常にニクい。


■今までなかった技術を駆使した本格的なプレイ


 本作ならではの特徴のひとつが、スクラッチなどの技術を駆使した点。これは従来のアニソンMIX CDには、あまり見られなかったものである。前述の『ラブとポップ』や同じくDJ和が手がけた『J-アニソン神曲祭り』シリーズでも、実はそういったテクニックを用いた繋ぎはあまり多用されておらず、もちろんジャンルごとに通ならニヤリとするような並びではありながらも、比較的曲調やキーの近い楽曲をうまく続けて次から次へとスムーズに曲が流れていくような作品となっている。逆に本作はそのプレイも含めてリスナーを音楽世界に引き込んでいき、DJ MarGenalが主戦場とするアニクラを疑似体験させてくれる、さながら“アニクラ入門編”のような作品。その点については、DJ MarGenal自身も付属のブックレットにて「これを聴くだけで家にいながらでもライブ、アニメソングクラブイベントを体感できる1枚となっています(※以上引用)」と語っている。


 具体例を挙げてご説明しよう。たとえば「irony -season 02- / ClariS」の終盤でスクラッチで魅せて次曲への勢いをさらにつけたうえで、ブチ上がり曲「adrenaline!!! / TrySail」で聴き手のテンションを爆発させたり、逆にスクラッチ一閃だけでアッパーなナンバーからバラード「ミレナリオ / ELISA」へとシーンを切り替えたりといった部分からは彼のフロアへの意識が感じられる。また、「ROCK-mode’18 / LiSA」の1サビ後に「さぁ次は、何の曲?」といった楽曲のラストフレーズを置き、熱くシリアスなナンバー「High Free Spirits / TrySail」へとうまくバトンタッチ。MIXにおける着眼点も、実に素晴らしい。


 加えて、楽曲ごとの関連性もしっかり重視されている点も忘れてはならない。一般のMIX CD同様に楽曲自体のジャンルや雰囲気の近いもの同士でも固めつつ、主題歌として起用された作品同士に関連性を見出して並べている点は、アニソンMIX CDならではのもの。そしてこれもまた、アニクラでオーディエンスを高まらせる仕掛けでもあるのだ。その種明かしは本作のブックレットに掲載されているので、これから本作を手にする人は一度自分でその成り立ちを想像しながら一通り聴いて、それから答え合わせをする……といった楽しみ方も可能だ。


■“最高のカタログ”であり最良のアニクラ入門編
 そうやって自然とこのCDに没入できるのは、現代のアニソンが洗練されたサウンド揃いのものへと進化したからであり、そのトップランナーのひとつとしてSACRA MUSICが存在するからではないだろうか。出す曲出す曲抜群の強度を持つ、今やアニソンのみならず日本を代表するロックヒロインのひとりでもあるLiSAをはじめ、バッキバキにアツいロックから爽やかな青春感ある楽曲まで繰り出してくるPENGUIN RESEARCHや、キュートなポップナンバーを甘く歌うhalcaといった多彩なアーティストの楽曲は、どれもいわゆるJ-POPのシーンと対等に渡り合えるクオリティのもの。そのうえでアニソンとしての勘所を押さえているからこそ、リリース直後の大反響に繋がったのだろう。


 だからこそ、「カタログにはしない」との意向のもと制作された本作ではあるが、あえて賞賛の意味を込めて“最高のカタログ”と呼びたい。今の本レーベルのアーティストの楽曲を最高に輝かせ、同時にアニソンMIX CDとしてもあふれんばかりの魅力を放つ本作は、タイトルどおりSACRA MUSICの音楽を面白いほどスッと理解できる“最高のカタログ”に他ならない。アニクラとレーベル双方の入門編として必携のこの1枚は、リスナーがアニメソングをより深く楽しむための、最良の入り口なのだ。(須永兼次)