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【ネタバレあり】新田真剣佑、コナンぶりの名推理披露 『十二人の死にたい子どもたち』を牽引する存在感

2019年02月02日 08:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 新進気鋭の若手俳優が一挙に集い、注目を集める映画『十二人の死にたい子どもたち』。廃病院に集まった十二人の少年少女の目的は、集団安楽死。“安楽死”という引きの強いストーリーと、廃病院というアイコニックなワンシチュエーションという設定だけでも奇抜だが、そこに集まるキャラクターたちも実にユニークな映画であった。


【写真】サトシ(高杉真宙)とシンジロウ(新田真剣佑)


 本作で特に個性を光らせたのは、闘病中で謎解きが好きなシンジロウを演じた新田真剣佑だ。新田は高校を卒業するまでハリウッドで暮らすという異色の経歴を持つ22歳。過去の出演作には『ちはやふる』三部作、『パシフィック・リム:アップライジング』など青春映画から海外映画まで幅広い作品が挙げられる。堂々とした芝居が光るまさに新進気鋭の役者だ。そんな新田の演じたシンジロウは本作では物語の進行に欠かせない重要な役を担っている。


 この作品の中でメインとなる集団安楽死にはルールがある。それは12人全員が実行に同意することだ。誰か一人でも反対した場合は話し合い、全員が実行に同意するまでその行程を繰り返す。シンジロウは、その中で浮かび上がる不信感や謎について解き明かす役を演じた。


※以降、一部ストーリーに関するネタバレあり


 シンジロウはノブオ(北村匠海)を突き飛ばしたメイコ(黒島結菜)の謎、そしてユキ(竹内愛紗)とゼロバン(とまん)の関係についても淡々と謎を解き、みんなに説明していく。その説明のシーンのおかげで我々鑑賞者もまた、病院に残された12人と同じように状況を理解するのである。つまりシンジロウは1人の参加者でありながら、ストーリーテラーとしての役割も務めている。新田はそんなシンジロウの隠れた役割について理解しつつも、一参加者として振る舞う器用な芝居を見せた。さらに、本作の一番のキーポイントは、12人の子どもたちが「死にたい」と感じていることだ。しかし死にたい理由としてはいまいち動機付けが弱い設定が散見される。この弱さこそが、作品を盛り上げる一つの要素になっていた。


 我々鑑賞者は、12人を見ていると、だんだんと「そんなことで死ななくてもいいのに」と言いたくなってくるのだ。このような心理は、死にたいという気持ちの動機の弱さからくる。しかしこの、「そんなことで死ななくてもいいのに」が本作にとってはとても大切な心の動きになるのだ。


 「そんなことで死ななくてもいいのに」という気持ちは、ある種「もっと生きられるはず」という期待と希望でもある。私たちは作品を鑑賞しているうちに、無意識に12人を生かそうとしていたのだ。その鑑賞者の感情を読み解くかのように、物語のラストスーパートではシンジロウがその気持ちを代弁する。本作を引っ張る役は、集団安楽死の主宰であるサトシ(高杉真宙)だと感じてしまう人もいるだろう。しかしサトシはあくまでも、安楽死の集いに対する主宰である。シンジロウは、集団安楽死に参加しながらも、鑑賞者と映画をつなぎ、作品全体を牽引する役割も担っていた。そしてその大役を堂々と、かつ他の役者をたてながら進行した新田もまた、器用さと実力を兼ね備えた役者だといえよう。


 廃病院という1つの場所で起こるワンシチュエーション作品を飽きることなく楽しめる理由は、このシチュエーションを活かしたストーリー展開にある。ストーリーテラーをたて、時系列に謎を解いていくことでよりこの作品の魅力が引き出されているのだ。


(Nana Numoto)