トップへ

性別変更、手術必要は「合憲」も 裁判官2人が「違憲の疑い」と踏み込んだ理由

2019年02月01日 10:11  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

生殖能力をもたないことを性別変更の要件としている「性同一性障害特例法」の規定は、性同一性障害者の自己決定権を奪うもので憲法13条に反しているとして、岡山県新庄村の臼井崇来人さん(45)が申し立てていた特別抗告に対し、最高裁は棄却する決定を出した。


【関連記事:「童貞」といじられ続けた広告代理店の男性 「僕も #MeToo と声を上げてもよいでしょうか?」】



ただ、裁判官2人による「違憲の疑いが生じていることは否定できない」との補足意見も盛り込まれ、臼井さんの主張は今後につながるものになったと言えそうだ。



●規定の憲法適合性「不断の検討を要する」

決定は1月23日付。決定文で最高裁はまず、規定は生殖腺除去手術を受けること自体を強制するものではないが、性別変更の審判を受けるためにやむなく手術を受けることもありえ、意思に反して身体を傷つけられない自由を制約する面もあることは否定できない、とした。



一方、生殖機能を持ったまま、性別変更後に子どもが生まれることがあれば、親子関係や社会に混乱を生じさせかねず、規定は急激な変化を避けるなどの配慮に基づくものと解されると指摘。



「規定の憲法適合性については不断の検討を要するものというべき」としつつ、制約の態様や現在の社会状況を総合的に踏まえると、現時点では違憲とは言えないと判示した。



●裁判官2人が補足意見

棄却は、裁判官4人の全員一致した意見だ。ただ、三浦守裁判長(検察官出身)と鬼丸かおる裁判官(弁護士出身)からは共同で、補足意見も記された。



そこでは、他の性別にする意思をもって性別を変更した後に、生殖機能により出産するという事自体が「極めてまれなことと考えられ、それにより生ずる混乱といっても相当程度限られたものということができる」とされた。



さらに、性同一性障害特例法の施行から14年以上たち、これまで7000人超が性別変更を認められ、国民の意識や社会の受け止め方にも変化が生じているとし、「憲法13条に違反するとまではいえないものの、その疑いが生じていることは否定できない」と明記された。



臼井さんの代理人を務める大山知康弁護士に、今回の決定文の評価などについて聞いた。



●今後の「違憲」を示唆

ーー今回の棄却について、どう捉えていますか



「代理人として、依頼者である臼井さんの願いを最高裁に認めてもらえなかったことは非常に残念です。また、性同一性障害者という少数者の人権が問題となっている今回のようなケースでは、裁判所が積極的に違憲との判断をして欲しかったです。



しかし、家裁や高裁が、立法裁量の範囲内として実質的に違憲性について判断しなかったことに比べると、最高裁が合憲と判断したとはいえ、違憲性を検討したことは評価できます。



性同一性障害特例法については、『身体への侵襲を受けない自由を制約する面もあることは否定できない』『性自認に従った性別の取扱いや家族制度の理解に関する社会的状況の変化等に応じて変わり得るものであり、このような規定の憲法適合性については不断の検討を要する』として、現時点では、と限定したうえで合憲と判断しています。



この点も、今後の社会的状況の変化によって違憲となりうることを示唆していると評価できます」



ーー補足意見についていかがでしょうか



「補足意見については、臼井さんの主張を受け止めて2名の裁判官が自らの考えを書いてくれたものと感じました。



まず、性別適合手術を受けるか否かは『本来、その者の自由な意思に委ねられるものであり、この自由は、その意思に反して身体への侵襲を受けない自由として、憲法13条より保障されるものと解される』と憲法上の権利と明言している点が評価できます。



また、手術を要件とする規定の目的に対し、『性別の取扱いが変更された後に変更前の性別の生殖機能により懐妊・出産という事態が生ずることは、それ自体が極めてまれなことと考えられ、それにより生ずる混乱といっても相当程度限られたものということができる』と反論をしている点も、今後の違憲性の判断や法改正に影響が大きいと考えます。



さらに、国内での性同一性障害者に対する国民の意識や社会の受け止め方に変化があることや、世界的に見ても生殖能力の喪失を要件としていない国が増えていることにもふれている点も評価できます」



●法改正につながることを期待

ーー違憲の疑いが生じていることは否定できない、との補足意見は、今後の同様な請求や立法行為にどのような影響を与えそうでしょうか



「補足意見では、性同一性障害特例法が憲法13条に違反する疑いが生じていることは否定できないと指摘したうえで、『性同一性障害者の性別に関する苦痛は、性自認の多様性を包容すべき社会の側の問題でもある』『一人ひとりの人格と個性の尊重という観点から各所において適切な対応がされることを望むものである』と書かれています。



これは、今後同じような申立があった場合には、性別変更に不妊手術を要件とする規定が違憲と判断される可能性があることや、立法府により性別変更に不妊手術を要件とする規定の撤廃をすべきというメッセージと考えます。



補足意見により、性同一性障害特例法の規定が絶対的なものではなく、社会的状況の変化により変わっていかなければならないものであることが明らかにされましたので、この最高裁決定が法改正につながっていくことを期待します」



(弁護士ドットコムニュース)