2019年01月31日 13:21 弁護士ドットコム
牛丼チェーン「すき家」のアルバイト店員が迷惑動画をSNSに投稿し、炎上騒ぎになっている。しかも、その店員の個人情報を特定しようとする動きも。さながら「ネット私刑」の様相で、名誉毀損など法的な問題が新たに生じる可能性もありそうだ。
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すき家を展開するゼンショーホールディングスは「従業員が不適切な行為を行ったことが判明した」とし、ホームページで謝罪。1月31日、関与した店員を退職処分にしたことを発表した。
今回の動画は、3人の学生アルバイトとみられる店員が動画を撮影・投稿したとされている。動画には「くびかくご」とのテロップが入り、股間に「おたま」をあてるなどの様子があった。
この悪ふざけを受け、ネット上では3人の個人情報を特定しようとする動きが広がった。真偽は不明だが、何者かによって具体的な学校名や写真などが投稿され、拡散している。
確かに店員の行為は非難されても仕方ないものかもしれない。ただ、そうであってもこうした「ネット私刑」とも言える行為は、問題にならないのだろうか。伊藤諭弁護士に聞いた。
ーー今回の特定しようとする動きは、法的に問題でしょうか
「今回のケースで言えば、肖像権の侵害、名誉毀損、プライバシー侵害に該当する可能性があります。
一般の私人であっても、その容貌などをみだりに公表されない権利(肖像権)を持っています。今回の写真は、店員を特定可能な状態でアップロードしており、店員の肖像権を侵害するものと考えられます。
また、場合によっては名誉毀損に当たる可能性があります。真実の内容であっても、それが他人の名誉を毀損する内容であれば成立します。さらに個人の情報を勝手に公開する行為はプライバシー権の侵害になります。他人の権利を侵害すれば損害賠償義務を負う可能性があります。
投稿や動画を引用したり、リツイート、シェアしたりしただけであっても、権利侵害があったとして、賠償義務が発生することもあります」
ーー「ネット私刑」はなぜ起こってしまうのでしょうか
「今回は、動画を見て憤り、店員の行動を非難し、一部の人たちが行き過ぎた行動を取っているのでしょう。行動を起こしている人々は、自分の行為に否はなく、むしろいいことをしているんだと考えている可能性すらあります。
しかし、写真などの個人を特定する情報は、現実の状況や投稿者の意図とは関係なく、写っている人の権利侵害が拡散してしまう可能性をはらんでいます。
ネット上の名誉毀損は、された方の被害が甚大になってしまう一方、加担している側は自分が安全圏にいるかのような錯覚をし、安易に、かつ行き過ぎた行為をしがちであるという特徴があります。
ネット上では、軽率な行為が思わぬ結果を呼びかねないことを肝に銘ずる必要があります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
伊藤 諭(いとう・さとし)弁護士
1976年生。2002年、弁護士登録。神奈川県弁護士会所属(川崎支部)。中小企業に関する法律相談、交通事故、倒産事件、離婚・相続等の家事事件、高齢者の財産管理(成年後見など)、刑事事件などを手がける。趣味はマラソン。
事務所名:弁護士法人ASK市役所通り法律事務所
事務所URL:https://www.s-dori-law.com/