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ウソついて「有給取得」したらアウト? 理由を求められた場合の対処法

2019年01月31日 10:31  弁護士ドットコム

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「子どもの病気の世話をする」とウソをついて、特別休暇を不正に取得したとして、千葉市は1月上旬、市民局に所属する男性職員を停職3カ月の懲戒処分とした。この職員は、休暇中に遊んでいた様子をツイッターに投稿していたという。


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千葉市のルールでは、職員は、小学6年生までの子どものケガや病気の世話をするときなど、看護のための特別休暇を取得できることになっている。しかし、この男性職員は2018年6月から11月にかけて、合計9回もウソの申請をおこなって、特別休暇を取得していた。



男性職員が、休暇中に、商業施設で遊んだり、ドライブしたりする様子をツイッター上で投稿していたことから、不正が発覚した。2018年5月以降、勤務時間中に292回もツイッターに投稿していたことと合わせて「職務専念義務違反」とされたという。



市職員ではなく、一般企業につとめている人の場合、ウソをついて有給をとったら、法的に問題なのだろうか。勤務中にSNS投稿することはどうだろうか。労働問題にくわしい寺岡幸吉弁護士に聞いた。



●ウソの申告は「就業規則」で禁止されていることも

「千葉市の特別休暇制度は、取得できる条件が、子どものケガや病気の世話などに限られていたようです。そのような理由がないのに、あるとウソをついて特別休暇を取得することは許されません。



これに対して、年次有給休暇(有給)については、取得するための理由に制限はありません。ただ、年次有給休暇を取得する場合の届出書には、理由の欄があることがあります。そこで、この欄にどのような記載をすべきかが問題となります。



年次有給休暇を取得するための理由には、制限がないので、ウソをついてもいいようにも思えますが、年次有給休暇に限らず、会社に対して従業員がいろいろな届出をする場合にウソの申告をすることは、通常、就業規則などで禁じられています。



そのため、年次有給休暇の取得についてウソの理由を申告すると、就業規則違反となって懲戒の対象となることがありえます」



●有給取得の理由は答えなくてよい

「判例を前提に考えてみましょう。年次有給休暇とその理由についての最高裁判例としては、(1)『電電公社此花電報電話局事件』(昭和57年3月18日)と、(2)『弘前電報電話局事件』(昭和62年7月10日)があります。



(1)は、使用者側に時季変更権の行使が認められる可能性がある事案においても、労働者側の理由によっては年次有給休暇の取得を認めるべきであると考えた上司が、労働者から理由を聞こうとしたことについて、違法とはしなかったケースです。



また、(2)は、時季変更権の行使自体が認められない事案において、年次有給休暇取得の理由によって時季変更権を行使するかどうかを決めることは許されないとしたケースです。



(2)は、年次有給休暇取得の理由を聞くことを明確に否定したものです。(1)は、年次有給休暇取得の理由を聞いた点について違法とはしていないものの、理由を聞くことを積極的に認めているわけではありません。



これらの判例を前提とすると、年次有給休暇取得の際に提出する書類に理由の欄があっても、空欄で提出することを従業員の義務違反とすることは疑問です。



ただ、年次有給休暇の取得には理由が必要だと誤解している人は一定数います。そのような上司などから記載を求められることもあるでしょうから、ごく大まかに『私用』などという記載をするのが無難だと思います。それでも、より詳細な理由の記載を求められたら、上記の判例の話を持ち出せばいいでしょう」



●仕事中の「SNS投稿」は基本的には許されないが・・・

今回のケースでは、勤務中にツイッター投稿など、SNSを利用していたことも問題視されたようだ。トイレや喫煙に立ったとき、お昼休みでもダメなのだろうか。



「労働者には、就業時間中は『職務専念義務』があるとされています。『専念』とは、本来は一つにことに集中することを指しますから、職務以外は一切してはいけないという意味のようにも思われますが、厳密に適用して、トイレに行くことも禁じられているかというと、そのような生理現象まで禁じられているとは言えません。



それでは、トイレに行ったついでにSNSを利用することが許されるのかというと、一般的には、単にトイレに行くよりも長い時間を要することになるので、ごく短時間の場合を除き、基本的には許されないと考えるべきでしょう。



喫煙が『職務専念義務』に反するかどうかについては、一般社会の考え方や、その会社の慣行などによって判断が異なるでしょう。ただ、ここ最近は、就業時間中の喫煙は許されないという考え方が強くなってきているように思います。



仮に就業時間中の喫煙が許されるとしても、トイレの場合と同様、SNS利用はより長い時間を要することになるので、基本的には許されないと考えるべきでしょう。お昼休みなどの休憩時間については、労働者が『職務専念義務』から解放される時間ですから、SNSの利用は基本的には許されます。



働き方改革により、2019年4月1日から、毎年5日間は従業員に年次有給休暇を取得させる義務が使用者に課せられます。年次有給休暇を取得するには理由が必要だという、誤った認識を持っている人に正しい認識を持ってもらうきっかけになるかもしれません」



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(弁護士ドットコムニュース)




【取材協力弁護士】
寺岡 幸吉(てらおか・こうきち)弁護士
社会保険労務士を経て弁護士になった。社労士時代は、労働問題を専門分野として活動していた。弁護士になった後は、労働問題はもちろん、高齢者問題(成年後見や高齢者虐待など)などにも積極的に取り組んでいる。
事務所名:弁護士法人おおどおり総合法律事務所川崎オフィス
事務所URL:https://os-lawfirm-kawasaki.jp