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加藤雅也、二枚目も三枚目もこなすダンディさ 『まんぷく』『二階堂家物語』で放つ大人の色気

2019年01月30日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 現在放送中のNHK連続テレビ小説『まんぷく』でヒロイン福子(安藤サクラ)が働く喫茶店、パーラー白薔薇の人情味あふれるマスター・川上アキラ役を演じて話題の加藤雅也。奈良県出身で関西弁ネイティブとはいえ、妻・しのぶ役の牧瀬里穂との軽妙かつコテコテのやりとりは、まるで夫婦漫才を見ているようだ。


参考:『まんぷく』第100話では、真一(大谷亮平)が鈴(松坂慶子)に好美(東風万智子)を紹介する


 また、「You are coffee,OK!」などと、間違った英語を多用して注文を受けるように、苦境に立たされた福子の頼みごとも快くすんなり応えてくれる。その優しさには、不思議なほど癒されてしまう。


 何しろ、常に損得勘定で行動して、利益だけを求める男、世良(桐谷健太)がパーラー白薔薇の常連で、いつもライスカレーを食べているくらいなので、味もコスパも折り紙。こんな喫茶店が近所にあったら毎日通いたくなること間違いなし。そんな癒しの空間を提供してくれるマスター、川上アキラの存在は、やはり気になる。


 パリコレなどに出演し、モデルとして活躍した後に俳優としての道を進み始めた加藤。『青春家族』以来、30年ぶりの朝ドラ出演で、俳優生活30周年となる。『まんぷく』のマスター役には当初、そのギャップに驚かされもしたが、美形でクールなイメージが強いゆえ、懐の深さと存在感がより際立って感じられるようだ。


 そして、公開中の映画『二階堂家物語』では、『まんぷく』で見せるひょうきんでお茶目なキャラクターとは全く違う、跡継ぎ問題に苦悩する名家の父親を演じているのだが、男の哀しさ、色気の真髄にふれる新しい表情を見せている。


 なら国際映画祭の映画製作プロジェクトNARAtive(ナラティブ)の作品として、イラン出身のアイダ・パナハンデ監督を迎えて制作された本作。奈良県天理市を舞台に、息子を亡くし、名家の存続に悩む3世代の家族の愛と葛藤を描いた物語だ。


 息子を失ったことで夫婦関係もうまくいかなくなり、妻が出て行ってしまったため、主人公の辰也(加藤雅也)は、母のハル(白川和子)に望まぬ相手との結婚を迫られている。娘の由子(石橋静河)に婿養子をとり、跡を継いでほしいという思いを秘める辰也だが、家族を大切にしたいという価値観と、自分らしく自由に生きたいという気持ちとの間で揺れ動く。


 娘が婿養子をとるか、男子を産んでくれる相手と愛のない結婚をするか……。一度は母と一緒に東京で暮らしたものの、都会での暮らしに馴染めず地元である奈良に戻った娘の由子との関係も、お互いに葛藤を抱えたまま歩み寄ることができず苦悩する。


 辰也が先代から引き継ぎ、経営するのは種苗会社で、品種改良してたくさんの質の良い野菜を作る種子や苗を販売しているのに、人間はそんなに簡単にはいかない。習慣や因習に縛られ、当たり前に存在していたものを失うことに恐怖を感じ、何のために生きているのか自分の人生を見失ってしまうこともある。


 娘・由子の幼なじみでハルからも婿養子に来るようにとほのめかされもしている多田洋輔(町田啓太)と、洋輔の父(田中要次)と辰也との関係も男のプライドが仇となり、摩擦が生じる。跡継ぎ問題がこじれて、家族とその周囲の人たちのつながりが少しずつ崩れ始める。


 男として、父親として、ままならない人生の中で葛藤する辰也は何を選びとり、何を捨てなければならなかったのか……。現場ではパナハンデ監督と英語でコミュニケーションを取っていたという。単身渡米し、海外作品にも出演経験がある加藤が演じた日本の伝統を守ろうとする父親の姿。主人公が背負う「二階堂家」の問題のように、守らなければならないと思い込まされている呪いのようなものは、意識せずとも私たちそれぞれが抱えているのかもしれない。大人の色気あふれる男でありながら、頑なまでに保守的な主人公が選んだ選択に生きる意味を考えずにはいられなかった。


 悩みが全くなさそうな明るい『まんぷく』のマスターもいいが、人生に苦悩する艶っぽい表情に、新たな加藤の魅力を見つけることができるだろう。(池沢奈々見)