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「転スラ」あえて時流の真逆いく、2クールかけてじっくり描く意義は?伏瀬先生&杉本Pに聞く【インタビュー】

2019年01月29日 09:53  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

(C)川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会
2018年10月より放送開始され、この1月より第2クール目に突入したTVアニメ『転生したらスライムだった件』。原作は、小説投稿サイト「小説家になろう」で伏瀬氏が発表した同名小説のコミカライズだ。
通り魔に刺されて死んだどこにでもいる会社員・三上悟が異世界でスライムに転生し、身につけたチート級のスキルを活かして種族を問わない国作りを目指す模様を描く。

本記事では、2クール目に突入してますます盛り上がりを見せている本作について、原作者である伏瀬先生と、バンダイナムコアーツの杉本紳朗プロデューサーにインタビューを敢行。
1クール目を振り返りつつ、アニメ化においての原作者、プロデューサーそれぞれのこだわりや、今後の展開の注目ポイントについて聞いた。
[取材・構成=山田幸彦]

■クリエイターの良さが出るフィルムに
――第2クール目に突入しTV放送は折り返し地点を越えておりますが、まずはアニメ化にあたりどのような意識がありましたか?

杉本P
あまり縛られず、それぞれのスタッフ個人の良さが出るフィルム作りをしたいと思っていました。
例えば、モンスターデザインの岸田(隆宏)さんの描いた設定画の中に、漫符のビックリマークがついているスライムがいたのですが、それをアニメーターさんが自由に広げてくれて、今の映像表現にも反映されています。

伏瀬
僕としても、「あれは良くない、これは良くない」とケチつけることはしたくないなと思っていました。
どうしても「ここはこだわりたい!」というポイントだけ先に言っておいて、上がってきたものがイメージと違ったらちょっと修正をお願いするという感じにしようと心がけていましたね。

――OP映像でスライムから人の形態に変化しながら戦うリムルなど、映像化ならではの面白さを出そうというこだわりが随所で見られましたね。



伏瀬
OPに関しては、コンテ段階でもうカッコ良過ぎて「完全にOP詐欺だ、コレ!」と話していたんです(笑)。
でも、最初は24話通してあの映像が使われると聞いていたから、派手になるであろう2クール目でも使うなら良いのかな? と。そうしたら……。

杉本P
ユーザーのみなさんの期待感もすごく大きいということで、急遽もう一本作ろうという流れになりました(笑)。

伏瀬
映像的には江畑(諒真)さんの熱意が伝わってくる内容で、かなり高いクオリティでしたね。もう文句なしでした。

――本編の作画で言うと、第1話と第7話で米澤優さんがひとりで原画を担当されていたことに驚きました。


伏瀬
僕はそういったことに詳しくないので、先行上映会で、「ひとりで原画やってるぞ……!」とファンの人たちが会話しているのを耳にして、初めて米澤さんがひとりで原画をやられていることと、そのスゴさを知ったんですよね。

杉本P
菊地(康仁)監督や江畑さんもおっしゃっていたのですが、アニメーションって、本当はひとりで作るのが理想ではあるんですよ。ただ、それは理想であって、現実的にはスケジュールやリソースの兼ね合いから難しい。
『転スラ』は企画から制作に入るまでにスムーズに進んでいて時間をしっかりとることができたので、米澤さんがひとりで描くという回を1話と7話で実現しました。

伏瀬
スゴいことだと思いましたけれど、一番作画カロリーが多い7話をやらせるなんて鬼だな! と(笑)。


杉本P
おひとりでやっていただいた分、すごくクオリティが上がったのですが、プロデューサーとしては「もしかすると遅れるんじゃないか……」とギリギリまでドキドキしていました(笑)。
→次のページ:『転スラ』をアニメ化することへのこだわり

■『転スラ』をアニメ化することへのこだわり
――アニメを監修するにあたり、伏瀬さんはどういったポイントにこだわられていたのでしょうか?

伏瀬
キャラクターデザインなどイメージ的な部分ですね。画面上の動かし方は素人が口を出すことではないと思っていたし、みなさんにお任せするのが一番ですから。

杉本P
いろんなキャラクターデザインがどんどん上がってくるのですが、伏瀬さんのイメージに合わないときは、都度すり合わせをして理想的なものを作っていくという流れでしたね。
1稿で済むことが多かったですが、キャラクターによっては3稿、4稿と重ねていくこともありました。三上悟は結構時間かかりましたよね。

伏瀬
そうですね。三上は何度か直してもらった結果、大分かっこいい感じにしていただいたなと。


――杉本プロデューサーから「原作のココは大事にしてほしい」とスタッフの皆さんにお話されたことはありましたか?

杉本P
ほぼありませんでした。ビジネス的な視点を入れ込こむとアニメーションとしてつまらなくなる可能性もありますし、やっぱり伏瀬先生とコミカライズの川上(泰樹)先生の原作を上手く料理できるのは、同じクリエイターでもあるスタッフのみなさんだと思っているので。実際に上がった映像を見ても、その判断は正しかったなと思います。
唯一、コミックス第1巻にあたる部分は、プロローグとしてしっかり描いて欲しいということだけお伝えしました。

伏瀬
シリーズ構成は悩んだところでしたね。ダイジェストにして、テンポよく進めるという選択肢もあったかもしれませんが、小説やコミックス第1巻をみなさんが面白いと言ってくれているからこそ、今のアニメ『転スラ』があったりもするので。そこは大事にできてよかったなと。

――構成的なお話だと、1話の冒頭で燃える町の中で逃げ惑うシズの映像が入ることで、後の伏線になっていましたね。


伏瀬
あれはシリーズ構成の筆安(一幸)さんが絶対に入れたいとおっしゃっていたんです。あとになって伏線として効果が発揮されていて、いいオリジナル要素だなと思いました。

――1クール目の中でおふたりにとって印象的なエピソードはどれになりますか?

杉本P
僕は1話で三上がリムルに転生するまでのシーンですね。最後までどう表現するか悩んで、自分自身イメージしつつもこれだ! という発想がなかったんです。
それが菊地監督や中山(敦史)副監督、グラフィックデザイナーの生原(雄次)さんのご尽力で映像になった瞬間、イメージしていた以上の良いフィルムになったなと思えたので。


――確かに大賢者絡みのCG映像は、シュールギャグでもシリアスでも映える作りになっていましたね。

杉本P
コミックの流れがすごく良いのであれを踏襲しても良かったのですが、アニメならではの味も欲しかったので、ああいう形で違いを出すことにしたんです。

伏瀬
マンガのときは川上さんも大分練ってネームを上げてくれていましたし、それぞれの媒体の個性が出ていますよね。
僕が印象に残っているのは、8話のシズさんのところです。盛り上がりもそうですし、シズさんに関しては、マンガ、アニメで良い具合に広げていただけたなと。


――シズの話が出ましたが、12月29日発売のBlu-ray第1巻の特典として、シズが主人公の書き下ろし小説が付属します。こちらはどなたのご提案だったのでしょう?

杉本P
こちら側からだったと思いますね。

伏瀬
最初、「主人公のリムルが出てこなくていいんですか?」とお聞きしたんですよね。でも、今振り返るとリムルのことは本編で書いてしまっているから、外伝で書くとしたら難しかったかもしれないなって。

杉本P
リムルは本編でたくさん出ますし、周りを固めたかったんです。そういった部分を深掘りできるのは、それぞれのキャラクターが良い具合に立っている『転スラ』ならではだと思います。特にシズさんはアニメでは重要なキャラクターになっていますから。

伏瀬
シズさんのお話を書くと決まったとき、マイクロマガジンの編集さんが「リムルじゃなくていいんですか? 僕はシズさん大好きだからいいですけど」と言っていたのをよく覚えています(笑)。

――伏瀬先生としては、今回の書き下ろしでいかに本編との違いを出されていこうと思われましたか?

伏瀬
本編だとリムルがいれば大体のことは苦労しない! というノリですが、シズさんがメインになったことで、この世界の“ヤバさ”が際立つようにしたいなと思っていましたね。


――確かにリムルがいないだけで、ちょっとコミカルな面もある本編とは対照的に、ハードな雰囲気が出てきていましたね。

伏瀬
本編だとシズさんに勝てたのも、リムルの主人公パワーがあればこそであって、本来は厳しい戦いばかりの世界なんですよ。と言いつつ、僕が書くものだから、主人公は強めになってしまった気もしていますが(笑)。
ぜひ、特典小説で本編よりちょっぴり難易度高めの『転スラ』を楽しんでいただきたいですね。
→次のページ:今、2クールで『転スラ』を描く意義

■今、2クールで『転スラ』を描く意義
――本作からちょっと話は離れますが、『転スラ』に代表されるようないわゆる「転生もの」は、なぜ今の時代にブームになっていると思われますか?

伏瀬
それは……現実がしんどいからじゃないですかね……(笑)。

杉本P
そうですね(笑)。「転生もの」って、観ている方からすると現実世界のしんどいことを忘れて楽しめる作品が多いですし、伏瀬先生が「小説家になろう」からデビューしているように、作る側も入りやすいんだろうなと。

伏瀬
現実の知識を持って異世界に行くという設定は、普通は説明がいる場面でも「現実の○○っぽいもの」と言えば済むから、書く側としてはそれだけでかなり制約が取っ払われることになるんです。
その手軽さは、練習がてら『転スラ』を書き初めた理由のひとつでもありましたね。

杉本P
観る人たちと主人公の間で共通言語があるから、簡単に楽しめるというのも流行の理由かもしれません。

伏瀬
これが異世界で生まれた主人公だったら、主人公が異世界の常識を知っているところからスタートしますよね。主人公の気持ちを読者がまず理解しないと感情移入しにくいという前提があるんです。

そういうときは主人公を三人称視点で書くほうが読者に伝わりやすくなるのですが、異世界転生は一人称で主人公=読者という切り口なので、それが読みやすさに繋がるのかなと。

杉本P
アニメを知っている人にアニメをおすすめするのと、アニメを知らない人にアニメをおすすめするのでは、どれだけハードルの高さが違うことか! みたいな(笑)。

伏瀬
そうですね(笑)。世界観を作ってガッチリした作品を練ると重くなるんですよね。そういった作品に対して、「そこまで小説を読むのに時間をとってられないよ!」と感じる人たちの需要に上手く噛み合ったのが、いわゆる「転生もの」「なろう系」と言われる作品なんだろうな、と。


――近年このジャンルのアニメ化が増えていることに関しては、1クール放送が主流になりつつある今「前置きを説明しなくて良い」という尺に対しての利点もあるのでしょうか?

杉本P
それはあると思いますね。

――先ほど構成に関するお話もありましたが、そんな中で2クールかけて丁寧に物語を描いていくところが、他作品とひと味違うところかなと。

伏瀬
8話までプロローグになっている構成は、正直なところ「ちょっと丁寧につくり過ぎなんじゃないかな……」って思っていました(笑)。でも、全部まとめて観るとこれは端折ることはできないな……となるし、今の構成が正解ですよね。

杉本P
結果として、丁寧に原作を追っていって、省略なくキャラや世界を描いていく作りが一番『転スラ』の魅力が出る形だったんですよね。ただ、会社に企画を通すとき、正直に「8話までプロローグです!」と言っていたら、「おいやめろ!」と言われていたでしょうし(笑)、なかなかチャレンジではありました。

――他のアニメだと、起承転結の「起」は3話あたりで終わらせてしまいますからね。

伏瀬
このご時世、こういう贅沢な尺の使い方はなかなかできないですよね。正直、原作でかなり盛り上がるところの手前で1クール目が終わっているのに関しても賭けだったんですよ。
でも、観た人は1話から面白いと言ってくれているようだし、現在もそういう方々が観続けてくれている。それは本当に幸せなことです。

――TV放送開始から、ファンの方々の反応はチェックされているんですか?

杉本P
僕は常に転スラのエゴサーチをしています(笑)。SNSなどでも読み切れないくらい感想が上がっていて、嬉しいですね。皆様の叱咤激励と思って、ありがたく頂戴しています。

伏瀬
基本的に周囲の方からファンの反響を耳にするだけなのですが、良い時代に放送されているなっていうのは観ていて感じましたね。
同時期に面白い作品がたくさん放送されているなかで、『転スラ』はブレがない安定したポジションにいるのがいいなと。

8話までをプロローグにしたことで、他の1クール作品が終わる頃に盛り上がって2クール目に突入するし、ここに来てシリーズ構成の強みも出ていると感じています。

――では最後に、第2クール目の今後の注目ポイントを教えてください。

伏瀬
まだまだ新キャラも登場しますし、お色気シーンなども追加されていくので、そっち方面もぜひご期待ください(笑)。

杉本P
私たち制作サイドも「あのキャラが動くところを観たい!」という、ファンのみなさんと同じ気持ちで作っています。今後も最後まで楽しんで観ていただけると嬉しいです。

『転生したらスライムだった件』Blu-ray特装限定版 第1巻

発売日:2019年1月29日
価格:18,000円(税別)
収録内容:本編6話
封入特典:伏瀬書き下ろし小説を収録した特製ブックレット(約50P)、アプリゲーム限定シリアルコード(【装備製造】希少素材セット×1、Blu-ray&DVD購入者限定スカウトチケット×2
※「転生したらスライムだった件~魔国連邦創世記(ロードオブテンペスト)~」で使用できる限定シリアルコード
映像特典:
・PV&CM集
・第1話・第2話 先行上映会舞台挨拶映像
 [内容] 2018年9月17日にバルト9で行われた第1話・第2話 先行上映会キャスト舞台挨拶をダイジェストで収録。
音声特典:
第6話オーディオコメンタリー
[出演] 岡咲美保(リムル役)、豊口めぐみ(大賢者役)、花守ゆみり(シズ役)、泊明日菜(ゴブタ役)
仕様:江畑諒真描き下ろし収納BOX、川上泰樹描き下ろしデジジャケット
(C)川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会