F1ドライバーの使用するヘルメットは、世界で最も安全なレーシングギアと言えるだろう。それが2019年シーズンからはFIA 8860-2018と呼ばれる最新の規格が適用され、新たに設定された15以上の耐衝撃、衝撃吸収テストが設定されることで、さらなる安全性向上が見込まれる。
「ただし安全になるとともに、外観に多少の変更を加えざるを得ない」と、ベル社の共同経営者ステファン・コーエンは言う。
「防弾チョッキにも使用される超強度ザイロン製のバイザーシールドは姿を消し、ヘルメットの本体と一体化する。バイザーの開口部も1cm前後狭くなるが、視野は十分に確保されるはずだ。ただしバイザー上部のスポンサーロゴを表示していたテープは、無くさざるをえないだろうね」
具体的にF1用ヘルメットがどのように開発、生産されるのか。順を追って、紹介しよう。
1)コンセプトを決める
F1マシンの車体開発と同様に、ヘルメットの設計にはCADシステムが多用される。ベル社の場合、その中心役を担うのはエアバス社から引き抜いたエンジニアたちだ。剛性、重量、空力効率、ベンチレーションなどがこの段階で決められていく。
「ただし空力に関しては、ここが最終段階というわけではない」と、コーエンは言う。
「車体のコクピット周りのデザインと合わせるべく、契約ドライバーの所属チームと話し合う必要があるからだ。なのでたとえばメルセデスでは有効なヘルメットデザインが、マクラーレンでは効果がない、あるいはその逆も十分ありうるわけだ」
2)素材の切り貼り
CADで予想した強度を出すために、帽体の外側には約20層のカーボンファイバーとアラミド繊維が重ねられる。各ファイバーには樹脂が染み込ませてあり、適切な形に切り取った後に重ね貼りされる。F1ドライバーが装着するHP7モデルには、チタン製パーツも組み込まれている。
3)レイヤリング(複合積層)
カーボンファイバーを重ねて行くのは、非常に繊細な作業だ。繊維の方向や湾曲させた際の厚みの変化など、注意すべき点は山のようにある。
■今でも繊細な手作業が必要なF1ヘルメットの型抜き作業
4)加圧成形
完成した帽体は真空のオートクレーブに入れられ、加圧成形される。これで初めて、カーボンファイバー本来の超高剛性の性質が備わることになる。
5)型抜き
帽体を型から抜く作業は、簡単なように見えてかなりの繊細さを要求される。「レーシングヘルメットの製造に、完全な機械化は不可能だ。多くの工程には手作業が欠かせず、なので熟練したスタッフが何よりも重要なんだ」と、コーエンは語っている。
6)レーザーカット
窓の部分や複合素材のバリは、レーザーで精密に切り取られる。
※その2に続く