天皇・皇后両陛下が結婚されたのは昭和34年4月10日。“民間からの初のお輿入れ”として大きな注目を集め、日本中に“ミッチー・ブーム”が巻き起こった。'89年(昭和64年)に天皇に即位されてからも、おふたりで被災地などを積極的に慰問されていた。
今上天皇と皇后両陛下ほど国民に愛された天皇はいなかったのではないか。
皇室ジャーナリストの山下晋司さんが言う。
「昭和天皇は、新憲法で“象徴”になったとはいえ、国民は戦前の元帥や現人神といったお姿を払拭できなかった。ですから、新憲法下で即位された今上陛下が象徴天皇を名実ともに確立したといえるでしょう。
陛下のお姿を通して国民は国を意識する、それがまさしく象徴です。だから陛下は、象徴は行動すべきであり、それができなくなれば退位すべきとのお考えなのでしょう」(山下さん、以下同)
次世代皇室はどうなる?
これからは、新しい天皇が新しい象徴として、国民とともに歩むことになる。
「お代替わりに合わせて、国民の心の中の天皇もかわるというものではありません。“皇太子殿下、ではなくて天皇陛下”“天皇陛下、ではなくて上皇陛下”というように心の中で変換することになるでしょう。即位当初はやむをえないことで、時間が必要です。ただ、先帝が上皇としていらっしゃいますので、平成のときとはまた違うんでしょうね」
退位にあたり、皇室が抱える問題も浮き彫りになってきた。
「新憲法下でのお代替わりですから、政教分離の原則があります。新天皇が即位当日に行う『剣璽等承継の儀』という国事行為がありますが、これは平成へのお代替わりのときに新たに作った名称です。
本来は『剣璽渡御』(剣と璽が新帝の下に自らお渡りになるという意味)です。宗教色を排除するために本来の儀式の名称を変えたらしいのですが、国事行為ではなく皇室のご活動にしておけば変更しなくてもよかったのに、残念です」
気になるのは新元号。
「元号は政令ですから閣議で決めます。天皇が初めて新元号を目にするのは閣議で決定した元号の政令書に署名されるときです。これはあまりにも失礼です。
また、情報システムの関係で次の元号を新天皇即位前に今の陛下がご署名して公布することになりました。システムが大事なら、今後もお代替わりはありますのでこの機会に官公庁の文書を西暦でも元号でもどちらでもいいとすべきですね」
皇位継承だけではない、皇室が抱える問題
皇位継承順位をめぐっても実は、大きな問題を抱えていると山下さんは言う。
「退位特例法の付帯決議で、政府は女性宮家の創設等について検討し、結果を国会に報告することになっています。皇位継承に関する議論が始まったのは平成17年、小泉内閣のときです。それから14年経過していますが、何も変わっていません。検討だけはしていますが、結論は出せない状況がずっと続いています。
また、現在58歳の皇太子殿下が天皇になられて、陛下と同じ85歳で退位されるとすると、皇嗣の秋篠宮殿下は79歳か80歳。高齢の天皇が高齢の皇嗣に譲位することになります。それでいいのか、という議論も出てくるでしょう」
女性・女系天皇、女性宮家についても、また同様に議論がある。
「皇位継承や皇族の減少の問題は、喫緊の課題だといわれ続けていますが、いまのところ即位、大嘗祭が終わるまでは議論を控えようという雰囲気ですね」
皇室には1000年以上続く伝統がある。それを守りながら新たな時代に沿った活動も求められている。
《PROFILE》
山下晋司さん ◎皇室ジャーナリスト。宮内庁で23年間勤務した後、『皇室手帖』の編集長などを務めた。現在は各メディアで解説を行う