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高校教頭の自殺は「生きがい過労死」 残業215時間、遺族が提訴

2019年01月26日 10:02  弁護士ドットコム

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「教員の働き方改革」の議論の裏で、2018年春、大阪府の教員が自ら命を絶った。


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亡くなったのは、大阪府藤井寺市の私立・大阪緑涼高校の男性教頭(当時53)。遺族は2018年11月22日、長時間労働とパワハラが原因だとして、運営する学校法人に約1億2千万円の損害賠償を求め大阪地裁に提訴した。1月16日に第一回口頭弁論が行われ、被告側は請求棄却を求めた。



亡くなる1カ月前の時間外労働は、215時間にものぼっていたという。



遺族側代理人の松丸正弁護士は、「これまで扱ってきた過労死事案の中でも、200時間を超えるものはまれ。教員の過労死については、熱血先生という美談で終わらせず、ブラックな実態を見出さないといけない」と訴える。



●亡くなる1カ月前、休みは「1日」

訴状などによると、男性が働いていたのは、学校法人谷岡学園(大阪府東大阪市)。1991年から同法人に教員として採用され、2015年から大阪女子短期大学高校(現・大阪緑涼高校)の教頭に就任した。



同高校は2018年4月に共学化し、コースを新設することになっていた。新体制の準備は男性を中心に進められ、18年2月以降は23~24時以降の帰宅が常態化していたという。



遺族側は、男性のパソコンのログや職員室の警備システム記録などから、男性の残業時間は亡くなる直前1カ月が215時間41分、2カ月~6カ月前がいずれも過労死ラインを超える84~164時間だったと推定している。休みは亡くなる1カ月前が1日、2カ月前が2日しかなかった。



また、過重な長時間業務に加えて、パワハラもあったと主張している。男性が亡くなった後に同法人がおこなった「特別監査」の報告書でも、学校改革に向けた打ち合わせを通じて、新校長から頻繁に高圧的かつ細かな指示や要求が行われたことが確認されている。



男性は3月28日夜、校長や副校長らが参加する懇親会に出席。その後、高校に戻り、翌29日朝に校内で自殺しているのが見つかった。



報告書は、男性が会議や打ち合わせ中に涙を見せたり、号泣したりすることもあったと記載しており、遺族側は「精神的変調は明らかで、自殺前の3月下旬には、うつ病あるいは適応障害などを発病していた」と主張している。



●教員「圧倒的に労働時間が長い」

2018年版の過労死白書でも、過重労働が多いとして調査重点職種となった教職員。現在、過労死、過労自殺事件を専門に扱っている松丸弁護士は「長距離トラックの運転手、勤務医、教員。この3職種は圧倒的に労働時間が長く、担当した事件ではほとんど労災が認められている」と話す。





男性は新体制の準備前も、常時100時間ほど残業していたとみられる。そんな中でも、教頭としてやりがいを感じ、文化部の部活動顧問をするなど積極的に校務に取り組んでいた。



そこに、新体制に向けての業務が集中し、パワハラも加わった。男性が亡くなった3月の手帳を見ると、予定が読めないほどびっしりと書き込まれている。もはや、自分でも業務が収拾がつかない状態だったのかもしれない。



松丸弁護士は「少しでも注ぎ込んだらあふれてしまうコップ1杯の水に、さらにコップ1杯分の水が注ぎ込まれたような状態。周りに支援してくれる人がいれば、長時間労働であっても助かったのかもしれない」と話す。



●給特法、私立学校にも「影をさしている」

「生徒のため」という教員の「聖職意識」は、公立私立を問わず学校現場で根強い。



私立学校であれば、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の適用はなく、通常の労働者と同じく労働基準法が適用される。しかし、松丸弁護士は「給特法が私立学校にも影をさしている」と指摘する。



男性には時間外勤務手当が支払われておらず、そのためか、タイムカードを通さないことも多かった。



教頭のため一般的な位置付けは残業代の支払い義務がない「管理監督者」であるが、松丸弁護士は「男性の場合、管理監督者の3つの要件を満たしておらず、管理監督者たり得ない立場だった」とみている。



生きがいに便乗したブラックな世界。過労死の労災認定基準となる「過労死ライン」は月平均80時間の残業時間だが、教員の事案は月100時間をゆうに超えるものが多いという。



松丸弁護士は訴える。「自発的に働く中で、強制されるようなシステムができあがってしまっている。誰かが『おかしいよ』と言えば、現場がもう少し変わるのではないか」。



同法人は弁護士ドットコムニュースの取材に「係争中のため、詳しいお答えはできない」とコメントした。



(弁護士ドットコムニュース)