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オレンジの3DCGアニメーションはなぜ魅力的? “セルなじみの良さ”より重要なこととは【インタビュー】

2019年01月25日 19:53  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

オレンジの3DCGアニメーションはなぜ魅力的? “セルなじみの良さ”より重要なこととは【インタビュー】
アニメサイト連合企画
「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」
Vol.11 オレンジ

世界からの注目が今まで以上に高まっている日本アニメ。実際に制作しているアニメスタジオに、制作へ懸ける思いやアニメ制作の裏話を含めたインタビューを敢行しました。アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」、Facebook2,000万人登録「Tokyo Otaku Mode」、中国語圏大手の「Bahamut」など、世界中のアニメニュースサイトが連携した大型企画になります。

オレンジ代表作:宝石の国、モンスターストライク THE MOVIE ソラノカナタ

蔵野市境南町にあるオレンジのスタジオ外観

元請け作品である『宝石の国』と『モンスターストライク THE MOVIE ソラノカナタ』の制作は大きなチャレンジであったという
CG制作を手がけた『コードギアス 亡国のアキト』のナイトメアフレームがズラリ
「視聴者の視点に立った、ハイクオリティなCG制作」をモットーとするCGアニメーション制作スタジオ、オレンジ。

設立者の井野元英二氏は、フリーアニメーションディレクター時代からCG制作を手がけ、日本のCGアニメーションの草分け的存在だ。
その武器は、『創聖のアクエリオン』や『.hack//Quantum』など、多くの作品でCG監督を務めた経験から培われた、「セルなじみの良いCG」のクオリティの高さにある。
しかし、オレンジが目指す映像表現は、「なじみの良さ」で終わらないという。

その志を体現した作品『宝石の国』は、国内外で高い評価を受け、名実ともにオレンジの代表作となった。
『宝石の国』を越え、さらに進化を続けるオレンジの過去と未来について、代表の井野元英二氏、和氣澄賢プロデューサーに話を伺った。
[取材・構成=中村美奈子]

■CGでしかできない表現へのこだわり
井野元英二氏
――井野元さんが、CGアニメーション制作会社オレンジを設立したのは、2004年5月ですが、設立のきっかけはなんでしたか?

井野元英二氏(以下、井野元)
それまで私は、10年ほどフリーランスで3DCGを手がけていました。TVアニメシリーズの仕事は、『ゾイド-ZOIDS-』(1999~2000年)から関わり始め、『ジーンシャフト』(2001年)で1作品のCGをほぼひとりで制作するという、限界を超えた物量をこなした時に、個人の限界を悟ったんです。
そこで、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(2002~2004年)の後、『創聖のアクエリオン』(2005年)の制作にあたり、少人数でもいいから組織としてやろうと思い、会社を設立しました。

ちょうどその時代のアニメは「CG=ロボットもの」という風潮があり、戦闘シーンも多くて、制作にかなりの労力を費やしていました。
その労力をなんとか減らしていかなければ、将来的にアニメ制作でやっていくのが厳しくなるだろうという予感があったんです。

その一方で、今後はメカものアニメが、どんどんCGに切り替わっていくだろうとも感じていました。当時は、まだ手描きのメカ作画も多かったですが、制作現場で「どんどんメカを描ける人が少なくなってきている」という話も散々耳にしていたので、これは商売になるだろうと思っていましたね。

――日本のCGアニメ創世記から、CG制作に携わってきた井野元さんならではの先見の明ですが、設立当初はどんなスタジオにしたいと考えていましたか?

井野元
「やるからには品質重視」と「CG制作としての立場を確立すること」です。
これは現在の制作現場でも同じですが、作画さんのコンテをそのままCGに置き換える仕事は、会社としてやりたくないという反骨精神みたいなものですね。
もちろん、アニメーターさんの作画には参考にすべき点がたくさんあります。だからといって作画さんの表現に沿ったものだけを作っているだけでは、CGがダメになっていくという危機感がありました。

CGと作画は違います。だから作画の手法がそのまま通じませんし、CGの動きは紙では描ききれません。
しかし、当時はCG制作がアニメの現場に入り始めた頃で、カットの制作方法も会社によってバラバラ。発注する側もCGの知見が乏しいので、「CGだったら、もうちょっと違う表現が可能ですよ」とこちらが提案しても、意見が通りづらかった。
結果、作画の手法にならわざるを得なくなるんですが、そうするとCGの特性を殺すカットになってしまう。それは、あまりやりたくないんです。
だから、許される範囲内で、アクションをつけたり芝居をつけたりしていました。私が手がけた作品は、どれも作画の指示通りにやった試しはほぼないと思います(笑)。
→次のページ:『宝石の国』で変わった制作体制

■『宝石の国』で変わった制作体制

(C)2017 市川春子・講談社/「宝石の国」製作委員会
――会社が大きくなる過程で、苦労したことはなんでしたか?

井野元
『宝石の国』までは、ずっと下請けでやってきましたが、受注が増えれば、当然物量もカロリーも増え、それに対応するために人を増やすという具合だったので、少人数でやっていた頃よりもどんどん苦しくなっていました。
これ以上、下請けでやるには、会社の体力が持たないという限界ラインに到達したタイミングで、運良く『宝石の国』の話を頂いたので、「元請けにチャレンジしてみよう」ということになりました。
ですから、『宝石の国』の制作に入る直前ぐらいが、一番危ない橋を渡っていましたね。

和氣澄賢(以下、和氣)
私は『宝石の国』のために呼ばれたので、入社前後がまさにその時期。当時は下請けの仕事がメインだったので、10タイトル以上の作品に関わっていました。
誰がどの作品の担当なのかもわからず、毎週ビデオ編集、毎日納品という感じでしたので、確かにそのままの状態だったら厳しかったと思います。

和氣澄賢氏
――プロデューサーとして、その厳しい制作状況をどのように変えていったのでしょうか?

和氣
当時スタッフが70名ほどいましたが、CGアニメーターとモデラーだけでした。ですから、まずは「元請け」として必要なスタッフを集めました。
次は全体のスケジュールです。今もそうですが、日本ではTVシリーズのCGアニメーションの制作本数がまだ少なくて、業界内でも作り方が定まっていません。そこで、いろんなCG制作会社さんに制作体制について教わりながら、オレンジとしてどういう制作体制を作っていくかを考え、実現していきました。

現在オレンジには、アニメーターが50名、モデラー15名のほか、『宝石の国』以降に入ってきた美術、撮影、作画、制作スタッフがいます。
『宝石の国』の制作時は、プロデューサーは私だけでしたが、その後3名増えて、今それぞれ現場を担当しています。

スタジオ内部。手前にモデラー、奥にアニメーターチーム

――スタジオとしてさらに成長するためには、スタッフ育成も重要なポイントだと思います。普段から、スタッフ育成に関して行っていることはありますか?

和氣
アニメーションは、CGクリエイターだけでは作れません。今は、CG以外のクリエイターに入ってもらい、それぞれのセクションが何をやっているのかということを間近で感じてもらうのが、ひとつの育成、考え方を変えられるポイントだと思っています。
ですから、いろんなセクションの人間が対話しやすい状況づくりを心がけています。

具体的に言うと、メインの打ち合わせのときには、基本的に関係するスタッフにも出席してもらいます。今まで、美術スタッフとCGアニメーターが顔を付き合わせる機会は少なかったのですが、互いの仕事の領分を知って会話をすることで、作り方が変わったと感じています。
同じように、色彩設計とCGモデラーさんとで話し合ってもらうと、キャラクターの色味も変わってくるんです。その対話が生まれやすい「場」を作ることが、成長に繋がると思っていますね。

――お互いの仕事を知ることで、より良いクオリティの映像、新しい表現が生まれる土壌をつくるということですね。技術面では、社内で勉強会を開くなど、最新情報の共有・伝授に力を入れているそうですが。

井野元
やはり「腕が良くなって欲しい」という願いは当然あります。でもそれを実現するためには、長期的にトレーニングして、技術を磨ける環境が必要だと思っています。

一方で、業界の体質として、いろんな会社を渡り歩いて修行していくのが当たり前という風潮もあります。
これは私の個人的な考えですが、アニメやCGの仕事にはいくらでもやることがあって、何十年トレーニングし続けてもゴールがない世界。
だからこそ、同じ場所でじっくりと腰を据え、コツコツと研鑽を積んだ結果、技術や精神などいろいろなものが向上し、良い作品を作る糧になると思っています。
そういうスタッフが増えて欲しいというのが、社長としての理想です。

とはいえ、まだまだ難しい。今は試行錯誤しながら、会社の福利厚生を充実させたり、無理のない勤務態勢を作ったりと、働きやすい環境作りを心がけています。
→次のページ:作画と3DCG双方の長所を持つ、高いクオリティのハイブリッド映像づくり

■作画と3DCG双方の長所を持つ、高いクオリティのハイブリッド映像づくり

――オレンジが制作するCG映像は、作画と合わせても違和感の少ないルックが特徴です。これは井野元さんが個人でやってきた頃からの試行錯誤の賜物だと思いますが、当初の目標は「セルなじみが良いCG」だったのでしょうか?

井野元
私の中で、「セルなじみの良さ」は、最優先事項ではありません。視聴者に見てもらうために必要なことだったので、やってきたというのが本当のところです。

CGは、作画を組み合わせた場合に嫌な部分が出やすい。ですから、CGの嫌な部分を取るという意味で、「なじませる」ことは当然意識しています。
それをやったうえで、もっとセルに近づけようという方向もありますが、私の場合はそこから分岐して、「ある程度なじませるけれども、一定ラインから先はCG屋の好きにさせてください」というスタンスを貫いています。それが一番出ているのが、『宝石の国』(2017年)ですね。

『宝石の国』のキャラクターは、髪の毛の宝石の質感はCGでしかできない領域の表現を使っていますが、逆に顔まわりの肌の部分はセルに寄せています。
理由は、現代日本アニメにおいては、顔までCGの質感にすると、視聴者が感情移入できないキャラクターになってしまうからです。そこはまだ、作画の方に分がある領域。

ただ『宝石の国』の髪の毛の表現も、5、6年前だったら視聴者に受け入れられなかった可能性もあります。
例えば、『宝石の国』第3話「メタモルフォス」に登場したウェントリコスス(かたつむり)は、かなりリアルルック寄りで描いていますが、やはり数年前だとCG臭くて見ていられなかったと思います。

――CG制作会社として、どのようなルックで映像作りを行っていくかは非常に重要です。世界的にはフォトリアルな方向である中、日本では逆に2Dとのハイブリットルックで制作することが多いですが、オレンジはどうでしょうか?

井野元
ルックに関しては、昔から、制作側の独断でいくというよりも、あくまで「視聴者優先」で考えています。
今の視聴者は、アニメだけでなく、実写やゲームでもCGに触れる機会が増えているので、目がCG慣れしていて許容範囲が変わり続けています。
ですから、常に視聴者の反応を伺って、「今の時代だとギリギリ大丈夫だ」というラインを踏まえつつ、少しだけ新しいことを挟んで、ちょっぴり攻撃的な映像表現をしていきたいと思っています。

そういう意味では、『宝石の国』は、非常に過渡期の作品だと思いますね。
それは他の制作会社の作品も同じで、CG屋はみんな「ここまでだったら大丈夫だろう」と手探りで作っているかもしれません。

現在、アニメ風のルックに質感がついているキャラクターが、歌って踊るソーシャルゲームがあって、若い世代はそれを「普通」に見ている。
でも歌って踊るだけでは問題がないのに、ストーリーがあって感情が入ってくると、途端に違和感を覚えてしまうというのが、現状のラインです。
でも歌って踊るだけのCGに見慣れてきた人が増えたら、今後アニメ作品でも現状のCGのレベルで、普通に見てもらえる時代が来るかもしれませんので、その辺は時代の空気を読みながらやっていこうと思っています。

――プロデューサーの和氣さんから見て、「ルックは視聴者優先、でも少し新しい表現を盛り込んでいく」という制作の姿勢は、井野元さんだけでなく会社全体のスタンスになっていると感じますか?

和氣
そうですね。やはり、社長自身がアニメーターでありディレクターでもあるというのは、オレンジの一番の特色。社員の共通認識としても、「作ることが一番大事」ということが浸透していると思いますね。

■ネットでダイレクトに伝わってくる反応がうれしい

オレンジ公式ストアで販売中の「TVアニメ『宝石の国』コンセプトアート集 」
約80点ものコンセプトアートと特別インタビューを収録

――『宝石の国』は、作品としても技術面でも高い評価を得ましたが、元請け制作をしてみた結果、得たものはなんでしたか?

井野元
『宝石の国』が、オレンジという会社の代表作となったことですね。私個人としても、非常に達成感がありましたし、想像以上にオレンジの名前をたくさんの人に知ってもらうことができて、うれしかったです。
また、『宝石の国』以前は、CGで作ると何かしらの批判を受けていたのですが、『宝石の国』ではまったくなかったので、本当に良かったです。

――逆に、次への課題は見つかりましたか?

井野元
CGでの顔の演技、表情の出し方ですね。作画は人の手で描くぶん、柔軟性の塊のようにいかようにもできますが、CGはそこまで柔軟性がなく、どうしてもお人形さんのように見えてしまうんです。
『宝石の国』を制作するにあたり、どうやって柔らかい感じを出して、自然に見せられるかと考えた結果、2年ほどかけて、3Dのフェイスの上に2Dの口を乗せるという、オレンジ独自のシステムを開発しました。
『宝石の国』ではわりと具合が良かったのですが、まだ完璧ではありませんので、今後の作品でもっと作画的な柔軟性をCGに取り入れ、いろいろな感情表現が可能になると、CGの可能性が広がるのではと思っています。

作品の幅を拡げるために『モンスターストライク THE MOVIE ソラノカナタ』(以下『モンスト』)にもチャレンジしました。元請けスタジオとして、どのぐらいのエネルギーが必要なのかを肌で感じておいて、今後新しい作品を作るうえでの体制づくりに活かせたらと。

(C)XFLAG
和氣
『モンスト』は、若手に責任あるポジションを任せることが多かった作品なので、社内スタッフのステップアップの良い機会になりましたね。

――これからのオレンジが目指す映像は、どんなものでしょうか?

井野元
既存の表現が通用しないような作品を、どう映像で見せていくかは目下考え中です。
技術的な面でいうと、『宝石の国』ではフリーランス時代からの念願だった、モーションキャプチャーを使ったので、次はフェイシャルキャプチャーをアニメでうまく使いたいなと思っています。

オレンジ社内にあるモーションキャプチャースタジオ。アニメ制作会社が自ら有しているのは珍しい
後は、東映アニメーションさんに先を越されましたが、リアルタイムレンダリングのUnityを、オレンジでもプログラミング中です。
そういった、新しい技術も取り入れながら、おもしろい表現ができないかといろいろと模索中です。

プラス、最大の目標は、オレンジとしての特色、「オレンジといえばこれ!」という映像表現を作ることですね。
そのために、海外スタジオの良いノウハウも取り入れて、日本の手法とうまく混ぜていきたいと考えています。

――最後に、海外のファンにどんな応援をしてもらいたいと思いますか?

井野元
『宝石の国』では、海外のアニメイベントに呼ばれることもあったのですが、会場で映像を流したときのお客さんの「うわー!」という反応は、とても励みになりました。
また、放送時に、SNSやツイッターのつぶやきがトレンド入りするなど、大きな反応があったことがうれしかったです。
もし応援してくれるなら、海外のファンの方でも「2期はまだですか?」とネットで発言してもらえると、モチベーションの1つになると思います。

和氣
オレンジにとって、『宝石の国』が最初の作品で、『モンスト』は2作目です。これからもずっと、良質の作品を作り続ける会社でありたいと思っていますし、毎回違うものを視聴者にお目にかけたいと思っていますので、これからも応援をよろしくお願いします。

井野元
オレンジは、ちょっとできが悪いけれど、すごく性格が良い子どもみたいな存在だとイメージしてみてください。
新しいことにチャレンジするときに、ひょっとしたら視聴者のみなさんに嫌われそうな部分も入れたりしますが、そこは安心感だけではなく、なにをやってくるのか予測できないことも含め、オレンジの作品を見ていただけるとうれしいです。