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『バイオハザード RE:2』はいかに“恐怖を奏でた”か? サウンドチーム&プロデューサーに聞く

2019年01月25日 11:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 映画で言えば『ターミネーター』然り、『エイリアン』然り、シリーズもの2作目の名作率は高いように思う。


(参考:今度のゾンビはしぶとさ抜群! ラクーンシティの惨劇蘇る『バイオハザード Re:2』発売迫る) 


 1998年に発売された『バイオハザード2』も、第1作『バイオハザード』が打ち立てた高いハードルを見事に越えてみせた名作ソフトと言えるだろう。そんな『バイオ2』が20年の時を経て、シリーズ最新作として帰ってきた。タイトルは『バイオハザード RE:2』。本インタビューでは、“『バイオ2』という傑作をいかにして再構築したか?”という疑問に、進化著しいサウンド面から迫るべく、本作の神田剛プロデューサーを始め、サウンドディレクターの中島健太郎氏、コンポーザーとしてゲーム内音楽を担当した内山修作氏に話を聞いた。


■IRリバーブで再現される”本物の音響”
――前作の『バイオ7』は海外のゲームアワードでVRオーディオ賞を受賞するなど、サウンド面でも高い評価を受けました。今作は、そこからどう進化しているのでしょうか。


中島:サウンド面では今回も色々と挑戦しています。たとえば、今回は音響の部分で、”IRリバーブ”という技術を使用しました。リバーブは”残響”という意味ですが、IRリバーブは音の響き具合を実際に収録してシミュレーションできる技術なんです。


――つまり、ある場所での音の響き方を収録して、それをゲーム内で再現できるということですね。


中島:そうなんです。『バイオハザード RE:2』では場所ごとに違った音響になるよう、大きさから壁の材質まで、大体300ぐらいのさまざまな部屋でIRリバーブの収録をしています。なので、今作は部屋ごとの音響の微妙な差が非常に高いクオリティで表現されています。


――たしかにクレア編を試遊したときに、地下の部屋だと音が大きく反響していたのが印象に残っています。でも、300もの場所で収録するとなると、ロケハンが大変そうですね……。


中島:ロケハンはめちゃくちゃやりました(笑)。いろんな所に行って録りましたね。


――収録というと、具体的にはどんな作業をされるのでしょうか。


中島:TSP信号というIRリバーブを収録するための音源があるので、まずはその音源を収録場所で流します。そして、その音を残響音も含めてマイクで録音するという流れですね。ただ収録するだけではダメで、収録後に響き方を調整してようやくゲーム内で使うことができます。


――『バイオ2』といえば、あの広い警察署のエントランスが記憶に残っています。たとえば、あの部屋の場合はどこで収録されたんでしょうか。


中島:あれは確か……同じぐらいの広さのホールで収録しました。他にもいろいろ面白い場所で収録しています。


■自社で開発した新技術”リアルタイムバイノーラル”
――リバーブの他にサウンド面でこだわった点はありますか?


中島:あとは立体音響でしょうか。『バイオ7』では一般的なヘッドフォンでも迫力のある音響を実現できるYAMAHAさんの技術である”ViReal”(バイリアル)を採用していますが、『バイオハザード RE:2』ではバイノーラルマイクを使った”リアルタイムバイノーラル”という技術を使用しています。バイノーラルマイクはご存じですか?


――マネキンのアタマに耳たぶがついてて、そこにマイクが入っているアレですよね。音が鳴っている位置関係も含めて、すごくリアルに聞こえる。


中島:そうです。バイノーラルは音が後ろで鳴ったときに、ちゃんと後ろで鳴っているように聞こえるのが特徴です。ステレオだとこうはいきません。ただ、ゲームでバイノーラルを使うにはひと工夫が必要です。なぜならゲームのキャラは操作によって向いている方向が変わるからです。


――なるほど、背後で鳴った音を聞いて振り返ったら、今度はその音が前で鳴っているように聞こえないといけませんね。


中島:そう、それを切り替えられる技術がリアルタイムバイノーラルで、これは当社が開発した技術になります。この技術は既に論文も含めて、オーディオの学会でも発表しています。


■プレイヤーを恐怖で包みこむ”7.1.4ch”
――正真正銘、最先端の技術が『バイオハザード RE:2』には使われているんですね。


中島:その他だと、『バイオ7』では7.1ch5.1chまでしか対応していなかったチャンネル数が、今回は7.1.4に対応可能になりました。これは”Dolby Atmos Home”と呼ばれるもので、スピーカーが7.1chに加えて天井に4つ付きます。


――上方向からは、どんな音が鳴るんでしょうか?


内山:今作のBGMは上から音を流せることを加味してミックスしてあります。『バイオハザード RE:2』の音楽は全体的に不安になるようなモヤッとした曲が多いので、そういう音で上からも横からもプレイヤーを包みこんで、より没入感が増すように工夫しています。


――7.1.4chはヘッドフォンでも体験できるんでしょうか?


中島:ドルビーアトモスヘッドフォンなら対応しています。ただ、7.1.4chはPC版とXbox One版のみの対応ですので、ご注意ください。


――『バイオ7』のViRealでは普通のヘッドホンでも立体音響が楽しめる、というのが売りでしたが、今回も高品位なヘッドホンでなくても立体音響を体験可能でしょうか。


中島:リアルタイムバイノーラルはまさに、それを可能にする技術ですので、普通のヘッドフォンでも立体音響のように聞こえるようなっています。


■セロリ+グレープフルーツ+唐揚げ=ゾンビの噛みつき音!?
――ちなみに、フォーリー録音で面白い素材を使って録った音があったりしますか?


中島:『バイオハザード RE:2』では、特に湿った感じの音はこだわって録音しました。たとえばゾンビに噛まれる音なんかは、グレープフルーツ、セロリ、唐揚げを使っています。セロリは折ると「バキッ」と骨が折れたような音がするので、”歯が骨までとどいている”ような音を演出できるんです。そこにグレープフルーツで汁気を出して、あとは唐揚げで肉感出して……みたいな流れで録っています。


――おもしろいですね。音を重ね合わせると。


中島:どんな音を出したいかを考えながら、欲しい音が出そうな素材を予備も含めてバリエーションよく買ってきて、切ってみたり、潰してみたり……かなり試行錯誤はしています。


■ユーザーに違和感を与えないための新旧の融合
――BGMについてお聞きします。コンポーザーの内山さんとしては今回リメイクにあたって気に留められた点はどこでしょうか。


内山:『バイオハザード RE:2』はリメイクというよりも「過去作を原作とした『最新作』」として制作されています。なので、昔の音楽を今風に直すだけではいまいちフィットしなくて。それで『バイオ7』のように、ミュージック・コンクレート※なんかも試してみたのですが、それはそれで「『バイオ2』っぽくないよね」という声が挙がってしまいました。なので、昔からのファンの方にも、現代のゲーマーの方にも楽しんでもらえるように、うまく今の音楽と昔の音楽を融合させながら制作を進めてきました。


※ミュージック・コンクレート…楽音ではなく、人や動物の声、自然の音や都市の騒音などを録音し、電気的・機械的に変質させ、組み合わせて制作された音楽。
引用:art scape


――プレイヤーに恐怖感を与えるために、楽曲ではどのような工夫が施されているのでしょうか。


内山:本作に限ったことではありませんが、恐怖と不安は明確に区別されています。恐怖というのは対象が目の前にいるんです。たとえば、鉄パイプを持った巨大な化け物が襲ってくるとか。それに対して不安は漠然としたもので、比較的に長く続きます。それを意識したうえで、『バイオハザード RE:2』の前半部分では不安を特に煽るよう楽曲を演出しています。ですが、不安と恐怖を状況によって極端に振りすぎてもダメなので、その辺りはうまく融合させながら進めています。


――ちなみにBGMはプレイヤーの状況によって、インタラクティブに切り替わっていくようなものなのでしょうか?


内山:そうですね。ゲーム内の様々なパラメーター、たとえばクリーチャーがプレイヤーから今どのぐらいの距離にいるとか、そのクリーチャーは敵意を持って追いかけてきているのかとか、そういったゲーム内の情報が楽曲に織りこまれるようになっています。なのでプレイヤーキャラに危険が迫れば迫るほど曲もどんどん恐くなる、というようになっているんです。


――昔のゲームのように場所ごとにBGMが設定してあって、それがずっとループで流れてるというのとは違うんですね。


内山:はい、違います。


中島:曲ってループ感がわかりやすくて、「それを解消したい」という話を内山としてまして。その結果、楽曲にいくつもレイヤーがあって、状況によってこの層とこの層の音楽が流れる、というようなシステムにしています。


■ラジコン操作からビハインドビューになった理由
――それではサウンドから離れて、ゲームプレイについてお聞きします。原作『バイオ2』のラジコン操作から、今作では視点がビハインドビューに変更されています。神田プロデューサーから、この視点の変更についてお考えをお聞かせください。


神田:『バイオハザード RE:2』は”ゾンビエンターテイメント”が大きなテーマになっていまして、そこでどういう形でベストなプレイ体験をお届けできるか考え抜いた結果がビハインドビューです。ゾンビに噛みつかれる恐怖感や、ゾンビとの距離感を演出するのにビハインドビューが最適だと判断しています。ラジコン操作や『バイオ7』のような主観視点ももちろん検討しましたが、『バイオ2』はレオンとクレアという人気なプレイヤーキャラをモニターに出さないわけにはいかないですから。


――試遊させていただいた印象では同じ肩越し視点でも『バイオ4』から『バイオ6』までのTPSライクな感じとも、また違いますよね。やはりシューターではなくホラーゲームとして演出されている印象です。


神田:そこはもう、クラシックなサバイバルホラーのプレイフィールは絶対に損なわないようにしようと。今回の2人のディレクターのうちの1人はオリジナルの『バイオハザード2』の開発にも携わったスタッフでもありますし、そういったところの感覚は開発チームの主要スタッフの中にも備わってるものではあります。


■ゾンビエンターテイメントを目指して
――お話を伺っていて、今回はやはり”ゾンビの怖さ”に非常にこだわられているように思いました。


神田:そこは我々としては一番強く押したいところですね。そして、ただ恐いだけじゃなくて、全体としてホラーエンターテイメントとして、オリジナルをリスペクトしつつ、より深いヒューマンドラマやゲームプレイを体験してもらえるよう制作しています。我々は”リ・イマジン”という言葉を使っていますが、単なるリメイクではなく原作を再構築した作品として皆さんに手にとっていただきたいと思っています。


――ゾンビを恐しく演出するうえで、こだわった点をお教えください。


神田:噛みつくモーションなんかで、いかにゾンビを強く見せるかにこだわりました。ゾンビって、最近では雑魚扱いされている作品も多いのですが、そのなかで改めてゾンビの強さ・怖さを表現するのを意識したんです。今回はゾンビが死んだ後のラグドールにもこだわっていて、倒したと思っても起き上がってきて、また襲ってきます。


――原作では死んだゾンビは血が出てわかるようになっていますが、今回はその演出はありませんからね。


神田:あとは、今作の世界観で大きなコンセプトになっている”ダークネス・ウェットネス”も恐怖感の演出に一役買っています。今作はある程度カメラを自由に動かせるので、その中でゾンビがいつ出てくるかわからない恐怖を演出するために暗闇を使っているんです。そういった暗さを生かした恐怖演出は、今回随所に盛りこんでいます。


――たしかに、懐中電灯で照らしていない場所はほとんど何も見えなくて恐かったです。


神田:そうでしょう! さらに、そこに「ひた……ひた……」みたいなサウンドも加わって余計に恐い。


――懐中電灯はゲーム全編で長く使われるんでしょうか?


神田:特に前半の警察署ではキーになりますね。後半は警察署から外に出て行って世界観も広がります。


――ありがとうございました。最後にみなさんから「この音はこだわったからぜひ聞いてほしい!」というポイントがあれば、お教えください。


中島:やっぱりゾンビの存在はサウンドチームにとっても大きくて、リアルタイムバイノーラルの技術をゾンビの声にも使っていますし、戦闘でゾンビの音をしっかり聴いてもらえれば嬉しいです。


内山:より怖く遊ぶために、ヘッドホン推奨です!


神田:実は『バイオハザード RE:2』には”真のエンディング”があります。そこだけで流れるエンディングテーマはブラッシュアップを重ねて仕上がったいい曲で、チーム内でも絶賛されている1曲です。ぜひそこまで辿り着いて聴いてみてください!


(脳間 寺院)