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サマソニのヘッドライナーに通底する独自のカラー 過去20年間のラインナップから考える

2019年01月25日 10:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2019年のサマーソニック(以下、サマソニ)は10年ぶりに3日間開催される。ところで、サマソニはヘッドライナー性を採用しているため、最初に発表されるヘッドライナーを軸にして、その年その日ごとの色が見えることが多い。その年のヘッドライナーは誰が務めるのか? というのは、サマソニファンにとって重要なことであり、それはその年のサマソニのメッセージにもなり得るわけだ。そんな中、今年、最初にヘッドライナーとして発表されたのは、ファンクとハードロックを織り交ぜたミクスチャーロックの第一人者であり、30年以上にわたってロックシーンの最前線に立ち続ける大御所バンド、Red Hot Chili Peppers(以下、レッチリ)だった。続けて発表されたのは、日本人初のヘッドライナーであり、こちらも30年以上にわたって日本のハードロックシーンの最前線に立ち続けるモンスターバンド、B’zであった。おそらくレッチリ、B’zというラインナップを見た人の多くは、ノスタルジーに近い感情を持ったのではないだろうか。


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 元々、サマソニはオルタナティブ、ラウド、あるいはパンク系のバンドのブッキングが多いフェスだった。The Jon Spencer Blues Explosion、Green Dayがヘッドライナーを務めた2000年の第1回サマソニから、その流れは明確だった。この年は他にもMuse、Weezer、311、The Flaming Lips、Coldplayから、Dragon Ash、SUPERCAR、THE MAD CAPSULE MARKETS、くるりまで、国内外問わずオルタナティブロックのバンドが数多く出演していた。第2回目のサマソニは、ヘッドライナーがべックとMarilyn Mansonで、他にはSlipknot、Incubus、Zebraheadらが名を連ね、ラウド&オルタナティブのイメージを強くするラインナップになった。これは、Guns N’ RosesとThe Offspringがヘッドライナーを務めた第3回も、Radioheadがサプライズで「Creep」を披露して伝説的になった第4回でも同じことが言える。ただし、ステージを増加させるに伴って、サブステージではポップスやダンスアクトのブッキングが増え、ラインナップが豊かになる傾向はあった。そして、5周年となった2004年でその流れは加速する。「バンド」以外のアーティストが、ヘッドライナーに抜擢されたのだ。


 Beastie Boysである。


 この年は全体的にヒップホップ勢のブッキングが目立っていた。NAS、N.E.R.D、スチャダラパー、RHYMESTERらの出演がそれを表している。ただ、その一方で、SUM 41、Hoobastank、Zebrahead、My Chemical Romance、Green Dayのような、今までのサマソニのカラーを踏襲したブッキングも健在だった。


 つまり、オルタナ/ラウド/パンクというブッキングがベースにありつつも、もう一つ違うチャンネルをその隣に置く、という流れが出てきたわけだ。ただし、Beastie Boysはヒップホップユニットとしての出演、というよりも、ロックに距離が近いアーティストだからこそのブッキングであったことは否めず、サマソニのカラーだけで言えば、「ロック」は依然強い影響を持っていた。実際、2005年のヘッドライナーはNine Inch NailsとOasisであり、ロックのカラーがしっかり出ている年であった。ちなみに、Nine Inch Nailsの日はSlipknot、Deep Purpleらヘヴィ/ラウド勢が固め、Oasisの日はWeezer、KASABIAN、ASIAN KUNG-FU GENERATIONなどオルタナと形容されるバンドが集結した。また、2006年のヘッドライナーはMetallicaとLinkin Parkという二大バンドであり、パンク/ラウド/ヘヴィの色がより強い年になった。このように、ロック以外のブッキングを取れ入れつつも、ベースのカラーは第1回から通底したものがあったのだ。


 だが、2007年に大きく色が変わる。明らかにロックとは距離が遠いアーティストや、まだキャリアの浅い若手バンドがヘッドライナーに抜擢された。1組はR&B・ポップアクトであるThe Black Eyed Peas。もう1組は、UKロックの新生児だったArctic Monkeysだ。ここからサマソニの「色」に変化が出てくる。2008年こそThe VerveとColdplayがヘッドライナーを取るが、2009年はポップアクトのビヨンセがヘッドライナーに抜擢されている。決定的になったのは、2010年のヘッドライナー。この年は、ジェイ・Zとスティーヴィー・ワンダーという、いわゆる「ロックアクト」以外の二組がヘッドライナーを取ることになったのだ。これは11年目にしてサマソニ初のことだった。ロックバンドをベースにしつつも、ポップアクトも積極的にブッキングしていく、そういうサマソニのカラーが明確になったのだ。


 その後も、年々、ポップアクトが積極的にブッキングされるようになっていく。年度によっては両日とも「ロックバンド」がヘッドライナーを務めることもあったが、その場合でも、重要な位置にポップアクトや、海外の音楽シーンを見通す上で重要な「バンド以外のアクト」「ロックというジャンル以外のアーティスト」を積極的にブッキングしていくようになる。ゼッドやカルヴィン・ハリス、アリアナ・グランデにファレル・ウィリアムス。そして昨年で言えば、チャンス・ザ・ラッパーはその代表であろう。何より、2015年頃から、一日は初期のサマソニの流れを踏襲したオルタナティブ、ラウド、あるいはパンク系の流れを組んだブッキングをメインに、もう一日は今の海外のポップスの流れを組んだブッキングを行うようになった。ロックというカテゴリーだけでなく、アジアで最も海外のポップミュージックが俯瞰できるような、そんなカラーを打ち出すようになったのだ。


 だからこそ、今年は最初にレッチリ、B’zをヘッドライナーとして発表しつつも、最後にはEDMやダンスというジャンルで海外のポップスシーンにその名を轟かせた、The Chainsmokersを発表したのだろう。今年のサマソニのラインナップにも、初期に見せていたような、オルタナ/ラウド/パンクロックのテイストを抑えつつ、きちんとポップミュージックの見取り図になるようなブッキングを行う、そんなメッセージが込められているように感じた。ステージごとに色やコンセプトを変えていくことで、古き良きロックバンドの愛好家にとっても、海外ポップスの最先端に触れたいと望む音楽リスナーにとっても、満足できるようなラインナップが発表されるのではないかと期待するし、3日間サマソニでライブを観ていたら、ある程度は海外トレンドのポップミュージックを俯瞰できるような、そんな贅沢な一日が過ごせるブッキングが発表されるのではないかと筆者は想像している。


 The Chainsmokersの他にも、今世界で人気のDJをブッキングするという話もあるので、その期待はより高まるばかりである。(ロッキン・ライフの中の人)