トップへ

見事なスタートダッシュをきった『マスカレード・ホテル』 目指すは2015年版『HERO』超え!?

2019年01月23日 17:22  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 先週末の映画動員ランキングは、『マスカレード・ホテル』が土日2日間で動員48万4000人、興収6億3300万円をあげて初登場1位に。初日から3日間の累計では動員61万人を突破し、興収は早くも約8億円に達した。土日2日間の興収での比較では、主演の木村拓哉にとって前作にあたる2018年8月公開『検察側の罪人』の152%、前々作にあたる2017年4月公開『無限の住人』の335%という成績。2018年1月期放送の『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)以来、テレビドラマからは1年以上離れている木村拓哉だが、「変わらない人気」というより、ここにきて映画の看板役者として盤石なポジションを築きつつある。


参考:“疑う”木村拓哉と“信じる”長澤まさみ 『マスカレード・ホテル』観る者惑わすキャストの怪しい魅力


 SMAP時代は映画よりもテレビドラマに活動の比重を置いてきた木村拓哉。芸能活動を始めた1987年からSMAPが解散するまでの約30年間、映画の単独主演作はたった4本しかなかった。その中で、今回の『マスカレード・ホテル』と直接比較すべきは、「大人気テレビドラマの映画化」と「東野圭吾のベストセラー小説の映画化」という違いはあれど、2007年と2015年に2回映画化された『HERO』だろう。


 『マスカレード・ホテル』の監督は映画版『HERO』2作品と同じ、フジテレビ所属の鈴木雅之。であるだけではなく、今作には松たか子、小日向文世といった『HERO』シリーズのお馴染みの役者も重要な役で出演している。フジテレビは今作の公開に合わせて連日午後に『HERO』の新旧シリーズを再放送、公開週の週末には2015年の映画版『HERO』をプライムタイムで放送した。このように、どこからどう見てもフジテレビ映画(同作の製作委員会にはフジテレビのほか、東宝、集英社、ジャニーズ事務所の関連会社ジェイ・ストームが名を連ねている)であるにもかかわらず、木村拓哉の強いところは数字が取れるので他局のバラエティ番組からも引っぱりだこなところ。二宮和也との二枚看板の作品であったために単独では稼働しにくかった昨年の『検察側の罪人』と比べると、今作における各局のテレビ番組での精力的なプロモーションには目を見張るものがあった。


 2007年の公開時、その6年前の最初のテレビシリーズ放送時以来の現象を巻き起こした映画版『HERO』1作目(累計興収81.5億円)に届くのは難しいとしても、今回の『マスカレード・ホテル』の出足は2015年版『HERO』(累計興収46.7億円)の記録を十分に射程内に収めるもの。ご存知のように、その約3年半の間、木村拓哉にとってはSMAP解散という大きな出来事があり、その際には少なからず逆風が吹いたこともあった。今回の『マスカレード・ホテル』は、それを東宝+フジテレビ+大量プロモーションという「平成のヒットの方程式」で見事に乗り超えたことになる。


 もっとも、「型破りな検事」という、いわば「体制内反体制」のキャラクターを演じていた『HERO』シリーズ(そして、方向性はまったく違えどその要素がさらに暴走していた『検察側の罪人』)と比べると、今回の『マスカレード・ホテル』における「ホテルマンに扮した刑事」というキャラクターは、すっぽりと日本的社会の規範に収まるもの。もし、それも含めて「ヒットの要因」という分析がされて、今後の木村拓哉が演じるキャラクターがより保守的になっていったとしたら、その時には苦言を呈していきたい。長年封印されてきて、今年1月にようやくBlu-rayボックスがリリースされた1997年のドラマ『ギフト』(これもフジテレビだ)を毎晩楽しみに見直している自分のようなオールドファンにとって、役者木村拓哉の魅力はいつだってその「型破り」なところにあるのだ。(宇野維正)