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仮想アイドルグループ・K/DAとは? 『League of Legends』から誕生した新たなK-POPの形

2019年01月18日 13:32  リアルサウンド

リアルサウンド

 今、世界中のポピュラーミュージック界で最もホットなキーワードのひとつは「K-POP」である。洗練されたサウンドに高いクオリティーを武器としたK-POPは、日本や中国、東南アジアはもちろん、欧米でも相当な話題を集めている。


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 その象徴となるのが世界中でブームを巻き起こしている7人組ボーイズグループBTS(防弾少年団)だ。彼らは2018年、アメリカのポピュラーミュージックの人気の尺度である「ビルボード200」チャートで1位を獲得し、「ビルボードホット100」のトップ10にランクインした。さらに、『BBMA(ビルボードミュージックアワード)』や『AMA(アメリカン・ミュージック・アワード)』などの名だたるアワードで受賞し、大規模な世界ツアーを行うなど輝かしい活躍を続ける。そのほかにもTWICE、BLACKPINK、SEVENTEENなどのK-POPグループが世界中で注目され、それぞれ世界中で活躍を重ねている。もはやK-POPは一時的なフェノメノンではなく、ひとつのジャンルとして定着したとの分析もあるくらいだ。


 そのような波に乗ってK-POPの海外進出がさらに活発化していくなか、他のエンターテインメントジャンルとのコラボで興味深いプロジェクトが誕生した。PCオンラインゲームの『League of Legends(リーグ・オブ・レジェンド、以下LoL)』で名が知られているゲーム会社Riot Games(ライアットゲームズ)が、同ゲーム内のキャラクターをベースにした仮想のK-POPアイドルグループ「K/DA(ケーディーエー)」を誕生させたのだ。


 これまでもアニメやゲームなどのコンテンツをアイドルと結び付けようとした企画は少なからずあったものの、K/DAのようにゲーム内に存在するキャラクターを現実の場に引き出して本物の歌手とコラボさせるという形を取ったことはなかったが、結果は大成功だった。『LoL』のキャラクターとしての魅力とK-POPアイドルとしての魅力の両面をうまく生かしたという好評を受けながら、『LoL』とK-POP両方のファン、さらにはこれまであまり『LoL』やK-POPに興味のなかった人々にまで反響を呼んだ。「POP/STARS」のMVは公開されてからわずか4日間で視聴回数が2000万回を超え、1カ月で1億回を突破した。現在の視聴回数は約1億4000万だ。


 K/DAは『LoL』で有料販売される“スキン”のローンチと共に作られた仮想のアイドルグループだ。スキンとは、キャラクターの外見がアレンジできるゲーム内の商品のこと。K/DAのメンバーであるAHRI(アーリ)、AKALI(アカリ)、EVELYNN(イブリン)、KAI’SA(カイ=サ)はいずれもLoL内に以前から存在していたキャラクターで、アイドルとして活動する新スキンの世界観は、オリジナルゲームの個性をベースにしながらもまた別のものとなっている。そのため、『LoL』のユーザーはその世界観をコンテンツで楽しんだり、キャラクタースキンを購入してゲームをプレイしたり、楽曲やMVを鑑賞したりと様々な楽しみ方ができる。しかも前述のように、クオリティーの高い楽曲とMVは、既存のユーザーだけでなくK-POPファンや一般の音楽ファンにまでアピールし、『LoL』に対する興味を持たせている。


 ちなみに、その歌とダンスを裏で提供したのは4人の現役歌手だ。6人組のK-POPガールズグループ・(G)I-DLEのメンバーであるミヨンとソヨン、そしてアメリカのシンガーであるマディソン・ビアー、ジャイラ・バーンズが、それぞれアーリ、アカリ、イブリン、カイ=サのパートを担当した。(G)I-DLEは去年デビューするや否やチャート番組で1位を連続して獲得し、多数のアワードで新人賞を獲得した注目株。マディソン・ビアーとジャイラ・バーンズもアメリカで注目されている新鋭シンガーである。


 確かにK/DAはおもしろい企画ではあるが、これほどの注目を浴びるには『LoL』というゲームが持っている莫大な影響力とゲームの消費され方が影響したことは否定できない。『LoL』は、2009年に稼働を始めたマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ(MOBA)型のPCゲームだ。基本的には無料だが、ゲーム内のキャラクターのスキンは有料で販売されている。2012年に世界で最もプレイヤー数の多いPCゲームとなり、現在も毎月世界中で1億人を超えるユーザーが『LoL』をプレイしているという。


 しかし、単にゲームの人気が高いという事実だけでは『LoL』の影響力を語り切れない。『LoL』がE-スポーツの定着に与えた影響は非常に大きい。『LoL』は前代のどのゲームよりもプロスポーツとしてのシステムを整え、世界各国で多くの大会が行なわれている。北アメリカ、ヨーロッパ、韓国、中国などに地域別の公式プロリーグが存在し、数多くのプロゲーミングチームがそれに参戦している。日本でも公式リーグとなる『League of Legends Japan League(LJL)』が行われている。また、国家・地域リーグ間の交流戦などの国際大会も毎年開かれているが、その中で最も大きなイベントが世界一のE-スポーツ大会である『League of Legends World Championship(以下、Worlds)』だ。


 『Worlds』は世界中の公式プロリーグで最上位となったチームだけが集い、世界一の座を決めるために開かれる年に一度の国際大会だ。2011年から始まり、8回目となる2018年は韓国の4都市で開催された。回を重ねるごとにその規模が大きくなっていく『Worlds』は、最新回には14の国と地域から24のプロチーム、144人のプロゲーマーが参戦し、賞金の総額は645万ドルにも上った。その中継は30を超えるプラットフォームを通して19もの言語で世界中に届けられ、ファイナルの視聴者数は1億人近かったという。このように『LoL』大会の最高の晴れ舞台である『Worlds』。その2018年の最終戦となるファイナルのオープニングでK/DAはデビューを飾ったのだ。世界中のゲームファンが注目する巨大なステージでAR(増強現実)の仮想アイドルをデビューさせるということはかなりチャレンジングなことだったと思われるが、結果は大成功だった。


 成功の理由としては様々なことが挙げられる。同大会の最多優勝国及び開催国である韓国のコンテンツに、『LoL』のキャラクターを組み合わせたという意味でタイムリーだったとの意見もそのひとつだ。しかし何よりも大きな成功の要因となったのは、単純に「ゲームと何かをミックスする」という短絡的なもので終わらせず、クオリティーを徹底的に追求することにこだわったことではないだろうか。『LoL』とK-POPという看板に依存するのではなく、それらを心底から理解したうえでミックスし、Riot Gamesにしか作れないものを作り出したのだ。キャラクターデザイン、トラック、振り付け、MVのどれひとつを取っても完成度は劣っていない。実際にMVのクリエイティブ・リードだったパトリック・モラレスはインタビューで「ゲーム会社のプロジェクトにとどまらず、一般の音楽ファンにも認めてもらえるような魅力的な作品を作ろうと努力した」と述べた(参考)。デザインからパブリッシングまでを含む制作プロセスには100人以上が参加したという。その結果、『LoL』のファンベースをさらに広げると同時に、新しいコンテンツビジネスのチャンスを生み出した。「POP/STARS」で引き起こしたポジティブな反響は、これから続いていくK/DAの活動にも大きな力になるだろう。


 K/DAをきっかけに、『LoL』やK-POPの世界に興味を持つようになった人々も多くいると思われる。今後もこのようにジャンルの境界を超える試みが、様々なサブカルチャーのファンの距離を縮める役割を果たしてくれるのでないかと期待したい。(soulitude)