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こんまりのNetflix番組がアメリカで話題。こんまりメソッド巡る議論も

2019年01月17日 21:41  CINRA.NET

CINRA.NET

『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』より 写真提供:Denise Crew/Netflix
■いまや動詞になった「konmari」

「こんまり」こと近藤麻理恵のNetflix番組がアメリカで反響を呼んでいる。

2010年に発表した著書『人生がときめく片づけの魔法』が100万部を超えるベストセラーとなり、「片づけコンサルタント」として一躍その名を知らしめた近藤麻理恵。同書の翻訳版は2015年にアメリカでニューヨーク・タイムズ1位に選ばれ、近藤自身が『タイム』誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれるなど、彼女の提唱する「こんまりメソッド」は世界へと広がった。

その知名度は、いまや「konmari」や「Kondo Marie」という言葉が英語で「こんまりメソッド」に従って片付けることを意味する動詞として使われるほどである。

現在はアメリカを拠点に活動する「こんまり」が贈るリアリティーショーが、今年の元日から配信されている『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』だ。配信が始まるやいなや、アメリカのCNN、ロサンゼルス・タイムズをはじめ、海外の主要メディアが次々と番組を取り上げている。近藤に関するツイートが1月1日から各段に増えているという調査もあり、その反響の大きさを物語っている。

■依頼人の片付けの悩みを「こんまりメソッド」で解決するリアリティー番組

『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』はどんな番組なのだろうか。

番組では近藤がアメリカの様々な家を訪問する。依頼人は小さい子供がいてなかなか家が片付かない4人家族や、亡くなった夫の遺品を手放せない妻、第1子出産の前に持ち物を整理したいカップルなど、家が片付かないことが人生の一歩を踏み出す足枷になっていたり、家の中の関係にネガティブな影響を及ぼしたりしているケースが多い。

近藤はそんな依頼人たちに「こんまりメソッド」を伝授し、家が片付くことで依頼人自身も前向きな気持ちを取り戻していく、というのが番組の大枠だ。髪型やライフスタイルなどを各分野の専門家たちのアドバイスで変えていき、その結果見た目や家だけでなく本人の内面にまで変化が訪れる様をドキュメントするNetflixのリアリティー番組『クィア・アイ』に近い。

「こんまりメソッド」は至ってシンプルな方法で、物を実際に手に取って「ときめき」を感じるなら残す、「ときめき」を感じなければ捨てる。捨てるときもただ捨てるのではなく、1つ1つに感謝の意を込めてから捨てる、というのがポイントだ。さらに「物には全て居場所がある」という考えのもと、家中の物をカテゴライズし、畳んだり、小さな箱を利用したりして整理していく。

■映画やアニメの登場人物にたとえられる「こんまり」のキャラも人気の秘訣?

洋服の畳み方やシーツの畳み方、小物の収納法など、番組には実際に役立つ片付けのためのアドバイスが散りばめられている。そうした「お役立ち情報」はもちろんだが、アメリカの視聴者を惹きつけている要素は他にもありそうだ。

その1つが近藤自身のキャラクターである。ロサンゼルス・タイムスは「ロサンゼルスの苛立っている家庭に、雪のように白いセーターとふんわりとしたスカートというお決まりの服装に身を包んで、楽しげに収納箱を抱えて現れる」近藤の姿を「メリー・ポピンズのよう」と表現している。同紙ではさらに近藤を「家庭に関する魔法やおまじないを使う良い魔女」と評するSNS上の声が紹介されている。

また『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』の刊行時、ニューヨーカーは彼女を「宮崎映画に出てくる、毎日世界を魔法できれいにする意志の強い若いヒロイン」のようだと書いている。

小柄な近藤は画面の中でアメリカの人々と並ぶと一際小さく映るが、目を輝かせながらときめきを語り、衣服や雑貨の山に臆せず対峙する姿には、柔らかな印象と共に片付けに対して妥協しない断固とした信念を感じ取ることができる。この番組は片付けのメソッドを広めると同時に数々のミームを生み出しているが、それも番組のホストである近藤自身のキャラクター性の高さゆえだろう。

■「こんまりメソッド」に見る日本の禅文化やセラピー的体験

もう1つは「こんまりメソッド」への評価だ。物を減らして、本当に大切なものだけを残すという方法は、大量消費社会に対する1つの解決策とも言える。ミニマリスト的な指向や、家に「挨拶」をするといった近藤の作法に日本の禅文化の影響を指摘する見方もある。

近藤の「挨拶」は片付け作業に入る前の儀式のようなもので、近藤は毎回依頼人の家の「良い場所」を見つけてこの儀式に取り掛かる。正座をして目を瞑り、最後に一礼するその姿にスピリチュアルな要素を感じ取るのは自然なことだろう。時にはその儀式を依頼人と共に行なって、依頼人自身がこの「挨拶」を通してエモーショナルになる場面もあった。

さらに番組ではただ家が片付くだけでなく、片付いたことで家庭内やパートナー間の問題が解決に向かったり、過去と向き合って一歩を踏み出したりと、依頼人の人生やライフスタイルが前向きに変化していく様子を映す。「こんまりメソッド」に従って片付けをするプロセスを「セラピー的な体験だった」と振り返っていた依頼人も複数登場している。

「こんまりメソッド」は物との感情的な結びつきを重視し、それを取捨選択の判断材料にしているが、片付けという行為がただの「作業」ではなく、ライフスタイルを変える「体験」として提唱されているのも特徴の1つなのかもしれない。

■本も「ときめき」で取捨選択すべきなのか?議論が勃発

『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』は賞賛だけでなく、議論も呼んでいる。

物議を醸したのは「こんまりメソッド」における本の扱いだ。近藤は本も洋服や小物などと同様に今それを手に持ってみて「ときめくか、ときめかないか」で取捨選択することを勧めるが、本を捨てるなんてけしからん、本はそのような方法で判断すべきではない、といった批判の声が視聴者から挙がった。

だが近藤も番組で言っているように彼女の提唱するプロセスのポイントは、無理に物を減らすことではなく、「1つ1つの物に対する自分の気持ちを確かめること」だとすれば、本を無理に捨てろと言っているわけではない。実際、批判に対する反論も起こっている。

また番組が、家事がいかに女性の仕事になっているかを浮き彫りにしている、という指摘もある。確かに番組に登場する家族の中には、妻は片付いていないことに責任を感じている一方で、夫は妻に任せ切りだったり、片付いていない状態に罪悪感ではなく苛立ちを示すだけのように見える夫婦もいた。

家が片付いていないことで母親失格だと感じ、涙を流す女性も登場する。自身も2児の母親である近藤は、母親だけでなく家族みんなで片付けをできる方法を提案するが、番組が家の中の片づけを中心テーマとしていることで、意図してか、せずしてか、固定的な性別役割分担の議論にまで派生しているのも興味深い。

この番組は近藤のキャラを面白がったり、「こんまりメソッド」に感銘を受けたり反発したり、依頼人の変化に心を動かされたりと、観た者が話題にしたくなる要素が詰まっているのが人気の理由なのかもしれない。