2019年01月17日 09:22 弁護士ドットコム
賃金や労働時間、雇用の動向を把握する厚生労働省の「毎月勤労統計」の調査が不適切だった問題は、本来正しいはずの政府統計への信頼度を大きく損なう形となった。しかも、ここにきて法律違反にあたる可能性も指摘されている。いったい、どういうことなのか。
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「恐らく統計法違反だろう。厚労省は責任感を発揮してほしい」。自民党の小泉進次郎・厚労部会長は1月15日の会合後にこう述べ、原因の徹底究明を求めたと東京新聞が報じた。
毎月勤労統計は、GDPなどの算出にも用いられる「基幹統計」のひとつだ。統計法11条1項は、調査内容を変更する際には担当大臣が総務大臣に事前申請して、承認を受けなければならないことを規定している。
ただ今回、厚労省では事前申請をしないまま、一部で全数調査から抽出調査に変更するなどの不適切な調査が行われていたことが発覚した。
統計法60条2号は「基幹統計の作成に従事する者で基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為をした者」は、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処すとしている。自民党の部会に出席した総務省の担当者は「承認した通り行っていない。統計法に抵触するのではないか」と話したという。
今回の問題で影響を受けた人は延べ約2000万人、雇用保険や労災保険などで総額約567億円の支払い不足が生じている。影響はあまりにも大きく、すでに閣議決定した来年度予算案を修正して対応する。きわめて異例のことだ。
不適切な調査は2004年から続いており、一部職員は問題があることを認識していたという。今回、厚労省は監察チームで調査を進める方針だが、関わっていた職員数は相当数におよび、大規模な処分は免れないものとみられる。
深刻な誤りが長年、是正されなかったことで、関係者が逮捕され処罰を受けることはあるだろうか。冨本和男弁護士は次のように話す。
「個人的な意見ですが、積極的に関与しているとか、隠蔽に関与しているとか、よほど悪質な関与がない限り、逮捕されたり、起訴されたりして懲役刑・罰金刑を受けるまでのことはないのではと考えます。
統計法60条2号は、基幹統計が国民の判断材料になる重要な統計であることから、基幹統計の作成に関わる職員が真実に反する基幹統計の作成に関与した場合の罰則を定めています。
しかし今回、不適切な調査が2004年から続いているということであり、それが今日まで組織の中で常態化し暗黙の了解として続いていたとすると、問題に気付いた一部職員が本来あるべき調査に戻そうとしても困難だったという可能性もあります。
そうなると、いま基幹統計の作成に従事している職員について、公訴時効の期間が経過していないからといって逮捕されたり、起訴されて処罰されたりというところまではいかないのではと思うわけです」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
冨本 和男(とみもと・かずお)弁護士
債務整理・離婚等の一般民事事件の他刑事事件(示談交渉、保釈請求、公判弁護)も多く扱っている。
事務所名:法律事務所あすか
事務所URL:http://www.aska-law.jp