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初登場6位『クリード 炎の宿敵』 スタローンの「引きの美学」は功を奏したか?

2019年01月16日 21:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 先週末の映画動員ランキングは、『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] II. lost butterfly』が土日2日間で動員27万7000人、興収4億9100万円をあげて初登場1位に。これは2017年10月に公開された前作『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] I. presage flower』との動員比で112%、興収比118%という成績。1月14日(祝)までの4日間の累計では動員36万3000人、興収6億円を突破している。人気PCゲームの映画版である同シリーズは3部作を予定しているが、第2章である今作の結果は、その支持がすっかり定着してきたことを示している。


 今回注目したいのは、6位に初登場した『クリード 炎の宿敵』。金曜日の初日から1月14日までの4日間の成績は動員12万1000人、興収1億5600万円。全国295スクリーンでの公開であることをふまえると少々物足りない数字ではあるものの、2015年12月に公開された第1作『クリード チャンプを継ぐ男』は累計興収が約4億円だったので、それでもシリーズの認知は着実に広がってきたとは言えるだろう。


 『ロッキー』シリーズでロッキーの好敵手にして盟友となったアポロ・クリードの息子、アドニスが主人公の『クリード』シリーズ。もともとそのアイデアはシルヴェスター・スタローンのものではなく、前作の監督ライアン・クーグラーが脚本を書いて、スタローンに持ち込んだもの。クーグラーは『クリード チャンプを継ぐ男』の後に、映画史に残るメガヒット作『ブラックパンサー』の監督(及び共同脚本)を手がけることになるわけだが、その前の段階から『クリード』シリーズの今後は『ロッキー』シリーズのオリジネイターであるシルヴェスター・スタローンに委ねて、続編には監督として登板しないと決めていた(クーグラーは『クリード 炎の宿敵』でエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジット。ちなみに『ブラックパンサー』の続編では監督を引き受けることになった)。


 クーグラーの辞退を受けて、当初はスタローンが監督する予定で企画が進行していた『クリード 炎の宿敵』だが、クランクイン直前に本作が長編2作目(クーグラーにとっての『クリード チャンプを継ぐ男』も長編2作目だった)となる若手監督スティーブン・ケイプル・Jr.に託すことに。また、前作から続いて劇中ではクリード役マイケル・B・ジョーダンとのダブル主演といっていいほどの活躍をしているスタローンだが、今作ではプロモーション活動でも一歩引くことに。そこには「『クリード』シリーズはマイケル・B・ジョーダンのもの」という配慮があったという。


 主演作『ブラックパンサー』の記録的ヒットを経て今や絶対的なトップスターとなったマイケル・B・ジョーダンだが、『ブラックパンサー』が世界でほとんど唯一当たらなかった国である日本ではまだそこまでの認知度はない。一方で、日本でのスタローンの認知度はいまだに圧倒的なものがある。さらに、今回の『クリード 炎の宿敵』は前作以上に『ロッキー』シリーズとのリンクが強い作品。スタローンの『クリード』シリーズにおける「若手の引き立て役に徹する」という姿勢は尊敬に値するものではあるが、きっと日本の配給会社は「日本だけは事情が違うのでもっと積極的に動いてもらえれば」と思っていたに違いない。(文=宇野維正)