トップへ

「性犯罪を誘発」ピーチ・ジョン「ラブサプリ」販売停止、もし無断で飲ませたら?

2019年01月16日 11:12  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

下着販売大手「ピーチ・ジョン」が性的な感情を呼び起こすとして販売していたサプリメント「LOVE POTION」(ラブポーション)。その使用方法として相手の飲食物に「こっそり」入れて飲ませることを勧めていたことから、Twitterで「デートレイプドラッグを彷彿とさせる」として批判を集め、1月9日に同社は謝罪するとともに販売を停止した。


【関連記事:公道カート「マリカー」は日本人に嫌われたままでいいの? 外国人に大人気、インバウンドめぐるギャップ】


ラブポーションは「健康補助食品」であり、いわゆる「薬物」ではなかったが、近年、女性に無断で睡眠薬などを飲ませ、意識のない状態で性行為に及ぶ「デートレイプドラッグ」が社会問題となっているだけに、批判は強かった。また、害のない健康補助食品だったとしても、アレルギーを起こしてしまう危険もある。


問題となったラブポーションは、商品説明や広告で「情熱的な感情を呼び起こす。男女兼用ラブサプリ」とし、使用方法で「表向き恥ずかしいと思うなら、お料理やお菓子にこっそり色仕掛け」などとして、「こっそり飲ませる」ことを勧めていた。


同社はネットで批判が集中したことを受け、「この度、弊社の販売する健康補助食品『ラブポーション』の商品説明及び広告表現に不適切な表現がありました。お客様にご不快な思いをおかけし、大変申し訳ございませんでした。深くお詫び申し上げます」との謝罪文を公式サイトに掲載。販売を停止した。同社の商品説明では、ラブポーションは「マカ」「ガラナエキス」「赤ワインエキス」などが成分として入っていたといい、中にはアレルギーの原因となるものも含まれていた。


相手に無断で薬物や健康補助食品を飲ませることは、法的に問題はないのだろうか。神尾尊礼弁護士に聞いた。


●健康補助食品でも無断で飲ませて体調不良になった場合は「傷害罪」の可能性

まず、相手に無断でラブポーションのような健康補助食品を飲ませる行為について、神尾弁護士は、「ラブポーションの成分は明確には分かりませんので、健康補助食品一般の話ということでお答えします」とした上で、こう解説する。


「健康補助食品を無断で飲ませた場合、傷害罪に当たり得ます。


傷害罪と聞くと『怪我させた場合』と考えがちですが、実務上はもう少し広く考えられていて、『生理機能を害した場合』に傷害罪に当たり得ます。例えばおう吐させた、めまいを起こさせた場合も、傷害に当たります。


健康補助食品を飲ませた場合、生理機能を害することはそれほど多くないでしょうから、傷害に当たらないことが多いと思います。ただ、例えばアレルギーや体質の問題で体調不良になってしまった場合は、『生理機能を害した』として傷害に当たり得ます。


もっとも、傷害罪は傷害の故意(体調不良にしてやろうという意思)が必要です。ことさらに健康を害してやろうという意思がない限りは傷害罪には当たらないと思われます。相手がアレルギー持ちであるとか何らかの体調不良があり得ると判断できた場合は、過失により傷害を負わせた、過失傷害罪の成立が検討されると思われます。


なお、体調不良になった場合は、刑事責任だけでなく、損害賠償といった民事上の責任を負う場合もあります。また、ものによっては薬機法(旧薬事法)や医師法違反などもあり得そうです」


●社会問題化するデートレイプドラッグ、睡眠導入剤を飲ませた場合の罪は?

今回の批判につながった背景には、デートレイプドラッグ問題がある。内閣府では、「薬物やアルコールなどを使用した性犯罪・性暴力に関して」として、被害に遭った時の相談窓口などをホームページで案内している(http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/dfsa/index.html)。


例えば、睡眠導入剤などの薬物を相手に無断で飲ませ、相手が意識を失ってしまった場合はどのような罪に問われるのだろうか。


「睡眠導入剤を飲ませた場合は、まさに『生理機能を害した』(=起きていたのに強制的に眠らされた)といえますので、傷害罪に当たる可能性が高くなると思われます。そして、仮に眠らなかったとしても、傷害の未遂、つまり暴行罪に当たり得ると思われます。


また、睡眠導入剤を飲ませた際に他の犯罪の準備とみることができれば、例えば性犯罪目的であれば(準)強制性交等(未遂)罪などのさらに重い罪が成立する場合があります。


性犯罪にまで至れば、準強制性交等罪で5年以上20年以下の懲役となり、一発実刑もみえてきます(懲役3年以下でないと執行猶予は付かない)。痴漢(強制わいせつ)で懲役6月以上10年以下ですから、いかに重罪か分かっていただけると思います。


もちろん、先に述べたとおり睡眠導入剤に限らず、無断で何かを飲ませる行為は刑事責任のみならず民事責任を負うケースは十分に想定できます。


痴漢で人生を棒に振ると言いますが、それと同じくらいかもっと重い事態が待っているおそれがあることを十分に認識いただければと思います」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。
事務所名:彩の街法律事務所
事務所URL:http://www.sainomachi-lo.com