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宇多田ヒカル 、King Gnu、リトグリ、V6、青山テルマ……日本語のグルーヴの最新型示す新作

2019年01月15日 11:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 “海外の音楽を取り入れたサウンドに、日本語の歌をどう乗せるか?”というテーマを常に掲げながら発展、変化を繰り返してきた日本のポップミュージックは、2010年代後半、確実に大きなターニングポイントに差し掛かっている。宇多田ヒカル、King Gnuなどの新作を通し、急激な進化を続ける“日本語のグルーヴの最新型”を体感してほしい。


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 昨年6月に7thアルバム『初恋』をリリース。年末に実に約12年ぶりとなるライブツアー『Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018』を開催するなど、充実したデビュー20周年を実現させた宇多田ヒカルから、2019年最初のシングルが到着。昨年の『FUJI ROCK FESTIVAL』にも出演した世界的なエレクトロミュージシャン・スクリレックスとの共作による表題曲「Face My Fears」(ゲームソフト『KINGDOM HEARTS III』オープニングテーマ)は、〈ねえ どれくらい/ねえ 笑えばいい/今伝えたいこと よそに〉という冒頭のフレーズから、彼女にしか体現できない日本語のグルーヴが響き渡るナンバー。シンプルな言葉でディープな心象風景を描きながら、語感を気持ち良く活かす宇多田ヒカルのフロウは、作品を重ねるごとに進化している。トラックに歌を乗せるのではなく、歌がビートを牽引するように聴こえるサウンドプロダクションも秀逸。


 2019年最初の重要作であり、この先の音楽シーンの行方に大きな影響を与えるであろう、King Gnuの2ndフルアルバム『Sympa』。ディープなブラックネスを含んだトラックとともに現代社会に向けたアグレッシブな歌詞が響くリードトラック「Slumberland」、美しさと狂気を同時に体現するストリングスが強烈なインパクトを残すミディアムチューン「Don’t Stop the Clocks」、クラシカルなピアノと濃密な感情を映し出す歌が互いを極限まで高め合う「The hole」。フリーキーかつインテリジェンスな常田大希(Gt/Vo)のプロデュースワークと、それを生々しく体現するメンバーのアンサンブルも大きく向上。J-POPのフィールドに先鋭的なR&B、ヒップホップ、ジャズなどのエッセンスを持ち込みながら予想を超えた躍進を続ける彼らの、最初の傑作だと言っていいだろう。


 「ギュッと」(映画『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』エンディングテーマ)、「CLOSE TO YOU」(資生堂『SEA BREEZE』CMソング)、「世界はあなたに笑いかけている」(『コカ・コーラ』イメージソング)などのシングル曲を含む4thアルバム『FLAVA』でLittle Glee Monsterは、音楽性の幅をさらに大きく広げ、“どんなジャンル、どんなサウンドでも自分たちのハーモニーを響かせる”というスタンスを改めて示している。クラシカルなポップスとラテン、ディスコなどが混ざり合った「I BELIEVE」、ホーンを交えた裏打ちのビートとゴスペルライクなコーラスが重なる「ハピネス」、1970年代サウスアメリカの匂いをたっぷりと感じさせる「恋を焦らず」など、古き良き20世紀の音楽をアップデートさせた楽曲も魅力的。新しさと懐かしさがバランスよく共存する彼女たちの音楽は、国外のリスナーにもアピールできそうだ。


 メンバー全員が公私ともに充実、気が付けばジャニーズのなかでももっとも安定感のある活動を続けているV6。記念すべき50枚目を飾るシングルは、アニメ『ONE PIECE』(フジテレビ系)主題歌「Super Powers」、清水翔太の作詞・作曲による「Right Now」の両A面だ。“仲間と懸命に生きることを冒険と呼ぶ” というコンセプトを掲げたアッパーチューン「Super Powers」。シンプルな4つ打ちビート、高揚感溢れるメロディを真っ直ぐに表現するメンバーのパフォーマンスに注目してほしい。トラップのビートを取り入れた「Right Now」は現行のR&B、ヒップホップとの直接的なつながりを感じさせるミディアムナンバー。大人の恋愛の駆け引きを描いた歌詞も、アラフォー世代のメンバーによく似合っている。


 パラパラリバイバル、ギャルカルチャー関連の話題で注目を集め、バラエティ番組などで目にすることも多くなった青山テルマの約6年8カ月ぶり(!)のシングルの表題曲「In This Place~2人のキズナ」は、ディズニー映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』オフィシャルソングとして制作されたナンバー。ディスコとファンクを融合させ、現在進行形のダンスミュージックに昇華させたトラックをナチュラルに乗りこなし、歌のテクニックをひけらかすことなく、友達同士のつながりをテーマにした日本語の歌詞を明確に伝えるボーカリゼーションは、やはり魅力的。この曲をきっかけにして、シンガーとしての活動がさらに充実することを願う。


■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。