2018年シーズンは、開幕当初こそフェラーリは高い戦闘力を発揮した。フェラーリのマシン『SF71H』は、メルセデスをしのぐ最高のパッケージという評価だった。最大の貢献者はいうまでもなく、開発の総指揮を執ったマッティア・ビノットであり、彼自身マルキオンネに対してことあるごとにそれをアピールしていた。
一方でアリバベーネは2019年のドライバーラインナップをどうするか、はっきり決められずにいた。彼はキミ・ライコネンの契約延長を望み、シャルル・ルクレールの抜擢を主張するビノットとは、ここでも対立することとなった。最終的にマルキオンネはルクレールを選び、結果的にチーム内でのビノットの立場はいっそう強くなったのだ。
しかし2018年の夏に、マルキオンネが急死する。これで事態はすべて、白紙に戻るかと思われた。アリバベーネのかつての上司だったフィリップ・モリス代表取締役のルイス・カミレーリがフェラーリのCEOに任命されたことも、アリバベーネに有利に働くと思われた。
ところがフェラーリ入りしたカミレーリは、積極的にアリバベーネ擁護に動くことはなかった。カミレーリ自身控えめな性格で、何度か訪れたグランプリの週末でもほとんど表に出ることはなかった。対照的なのがフィアット創業家アニエーリ一族の御曹司で、フェラーリ会長となったジョン・エルカンである。9月のイタリアGPの真っ最中にライコネン放出を明らかにし、マルキオンネの遺志を告ぐことを表明したのだ。
しかしあのタイミングでの発表を、非難する声も出た。もはやナンバー2の役割を果たす必要はないとばかりにライコネンがポールポジションを獲得し、レースでもセバスチャン・ベッテルに抜く隙を与えなかったことで、勝利したルイス・ハミルトンがタイトル争いでいっそうの優位に立ったのだから。
さらにフェラーリは日本GPの予選で、天候を読み間違える致命的なミスを犯す。この時点でのアリバベーネとビノットの確執はいっそう深刻化しており、アリバベーネは公然とビノットの部下たちを非難した。
そんな状態のままシーズンは閉幕し、年が明けてすぐにフェラーリはアリバベーネの更迭とビノットの昇格を発表した。その決定はエルカン独自のものというより、マルキオンネが生前決めていた路線を踏襲したと見るべきであろう。一方でビノットは、「アリバベーネを切らないなら、私が出て行く」と上層部に迫り、実際にメルセデスと接触もしていた。
内部抗争を勝ち抜いてチーム代表に昇りつめたビノットだが、就任早々の彼を待っているのはタイトル獲得という重圧である。同時にビノットには、世界チャンピオンと将来のスター候補というふたりのドライバーの操縦も託される。
すでにアブダビでのテストから、ベッテルとルクレールはあからさまにライバル心をむき出しにしていた。両者の手綱を取りつつメルセデスと互角以上の戦いを繰り広げるには、高いマネージメント能力はもちろん、相当に強靭な精神力が必要であろう。