2019年01月13日 09:22 弁護士ドットコム
「残業代を栄養ドリンクで現物支給されている」。こんなタイトルの投稿が2018年12月、「はてな匿名ダイアリー」で話題になった。
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このエピソードは投稿者の知人の会社のものだという。その会社では、残業代が出ない代わりに栄養ドリンクが持ち帰り放題になっているそうだ。
この投稿に対して、「残業代に相当する量を渡してないと普通にダメだと思う」「なんか貰えるだけマシじゃん?」などコメントが寄せられているが、賃金をお金で払う代わりに物で支給する「現物支給」は、法的に問題ないのだろうか。杉山和也弁護士に聞いた。
ーー「残業代を栄養ドリンクで現物支給されている」という投稿が話題になりました
「最初は、良くできたブラックジョークかと思ったのですが、本当にそのような会社があるとしたら、大きな問題だと思います。残業代を栄養ドリンクで支払うことはできません。
まず『賃金』とは、何かについて説明します。
賃金は、賃金、給料、手当、賞与その他名称を問わず、『労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの』をいいます(労働基準法11条)。
労働の対償となっていない福利厚生給付のような給付については、労働基準法にいう『賃金』に該当しませんが、会社から支給される金銭の大部分は『賃金』に該当すると考えて良いでしょう。
もちろん、今回問題となっている残業代は、労働の対償として支払われる金銭なので、『賃金』に該当します」
ーー全ての「賃金」に該当する現物支給が禁止されているのですか
「労働基準法では、『賃金』は通貨で支払わなければならないと定められています(労働基準法24条1項)。通貨とは、日本国において強制通用力が認められた通貨をいうとされていますので、『賃金』は日本円の現金で支払う必要があります。
そのため、日本円の現金以外のもので支払うことは、原則として認められません。したがって、現物支給は、原則として認められませんし、同じ理由で、外国通貨や仮想通貨での支払いも認められません」
ーー現物支給が認められるケースはありますか
「例外的に認められているケースとしては、以下の3つの場合に限って認められています。
(1)労働者の同意を得た上で口座振込とする場合 (2)労働者の同意を得た上で銀行振り出しの小切手などで支払う場合 (3)労働組合と会社との間で締結した労働協約に基づく場合(労働基準法24条1項)
この3つ以外の理由では『賃金』を現金以外のもので支払うことは認められません。
なお、現金での賃金の支払いは盗難や紛失のおそれが大きいため、今日では、口座振込によ
る賃金の支払いが一般的であり、実態としては、原則と例外が逆転したかたちになっています」
ーー現物支給を巡るトラブルは、よくあるものでしょうか
「業績の悪い会社が、ボーナス(賞与)を自社製品で現物支給するという報道がなされることがありますが、これは、労働協約によって合意がなされているか、もともと、雇用契約において、賞与を支給しないことが定められており、会社に賞与の支払義務がない場合と考えられます。
紛らわしいのは、通勤手当を定期券で現物支給できるかという相談です。通勤手当は、その支給基準が定められている限り『賃金』にあたると考えられているため、通勤手当を定期券で支払うことはできません」
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(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
杉山 和也(すぎやま・かずや)弁護士
労働事件を中心に、中小企業の法務、相続、離婚に注力。特に、解雇・パワハラ・セクハラ問題について取扱多数。「オーダーメイドの法律事務所」として、一人ひとりの依頼者に寄り添いながら、ぴったりの解決方法を提案することをモットーとしている。
事務所名:鳳和虎ノ門法律事務所
事務所URL:http://www.houwatoranomon.com/