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ZOZO前澤社長「採用面接で有給消化率を聞くのは可愛げない」、じゃあいつ聞けばいい?

2019年01月12日 10:12  弁護士ドットコム

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就職活動をする学生にとって気になるのは、希望した企業の労働条件です。給与はいくらか、労働時間や有給休暇の取得率はどれぐらいなのか、福利厚生はどれぐらいあるのか…。入社する前に知りたいことだらけです。


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しかし、就活の面接で給与や労働条件について聞くのは「マナー違反」とするネット上の情報や就活指南本があります。もしも率直に聞いた場合は、印象を悪くするのではないかと心配する就活者も少なくないようです。実際、ZOZOTOWNを運営するZOZOの前澤友作社長は10月、「ZOZOの採用面接で人事や担当者に聞くべきでない質問」をツイート。その中で、「有給消化率は?→可愛げない」と書いていました。



ZOZOの採用面接で人事や担当者に聞くべきでない質問・入社までにしておくべきことは?→そのくらい自分で考えて・会社を辞めたいと思ったことは?→うーん答えづらい・有給消化率は?→可愛いげない・社長に会えますか?→まあたまに・競合他社は?→知らんがな参考までに。


— Yusaku Maezawa (MZ) 前澤友作 (@yousuck2020) 2018年10月21日

https://twitter.com/yousuck2020/status/1053860395725684736


とはいえ、厚労省の調査によると、新卒で就職した人の入社後3年以内の離職率は、約3割。離職の理由は、労働時間が長いことや休日が取れないことなどもあるそうです。労働基準法第15条1項では、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」などと定めていますが、いつ労働条件などを確認すれば良いのでしょうか。河村健夫弁護士に聞きました。


●実は「労働条件」の明示は面接時では義務付けられていない

求人の応募者に対して、会社は採用前、どのようなことを明示する義務があるのでしょうか。また、前澤社長のツイートからすると、面接時に有給消化率を聞かれることを快く思っていない企業もあるように感じられましたが、応募者はいつ知るタイミングがあるのでしょうか。


「『可愛げがない』ですか。前澤氏、大人気ないことを言いますね…。経営者の立場からの感想なのでしょうが、無自覚の罪を感じます。


さて、面接時に気になる就職先の労働条件ですが、法律は2つの局面で明示を義務付けています。


1つ目は職業安定法第5条によるもので、『従業員の募集を行うに当たり』、『業務内容』『契約期間』『就業場所』『労働時間』『賃金』『社会・労働保険の加入状況』『試験採用の有無及び内容』『募集主の名称』『派遣採用の場合にはその旨』などの明示が義務付けられています。


2つ目は労働基準法15条によるもので、各種の労働条件の明示を義務付けます。中でも重要な5項目(労働契約の期間、就業場所や業務内容、始業終業時刻や残業の有無・休憩・休暇等、賃金の計算や支払方法、退職に関する事項)は書面(電磁的記録)による明示が義務付けられていますが、明示が必要な時期は『労働契約の締結の際』と規定されています。就職面接時の義務とは言えず、この規定を活用するのは難しいでしょう」


●有給消化率の明示も義務なし…気をつけるべきポイントは?

では、就職活動をする学生はどのようなところに気をつけたらよいのでしょうか。


「職業安定法による明示義務が適切に実施されているかを確認し、曖昧な表記や明示自体を行わない企業は就職を避けるべきでしょう。企業と就活生の『出会いの第一歩』である就業条件明示義務すら適切に果たせない企業は、労働関係法規を守ろうという意識自体が希薄であり、劣悪な労働環境に陥るリスクが大きいからです」


「有給消化率」はどうでしょう。


「前澤氏の発言にある『有給消化率』は1つ目の職業安定法による明示が義務付けられているかと言えば、残念ながら違います。明示が必要な事項に『有給消化率』は含まれないためです。


明示義務の範囲外の『有給消化率』などにつき尋ねたいと思った場合には、面接官が経営層である場合には、聴き方を工夫しないと不快感を持つ経営層もまだ多いと思います。転職サイトなどで、勤務していた人の感想を見ることができますので、面接以外の手段を駆使してみるのも1つの方法ではないでしょうか。


なお、労働基準法で定められているにも関わらず、入社後も一向に労働条件通知書を渡さないという企業も存在するようです。こんな企業では労働条件の内容をめぐってトラブルになりがちですし、労働条件につき『言った』『言わない』とのトラブルも生じます。労働条件通知書を渡そうとしない企業に就職してしまった場合には、個人加盟の労働組合などに加入した上で通知書の交付を求めるなど、集団的な労使関係の中で解決を図るのが得策です」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
河村 健夫(かわむら・たけお)弁護士
東京大学卒。弁護士経験17年。鉄建公団訴訟(JR採用差別事件)といった大型勝訴案件から個人の解雇案件まで労働事件を広く手がける。社会福祉士と共同で事務所を運営し「カウンセリングできる法律事務所」を目指す。大正大学講師(福祉法学)。
事務所名:むさん社会福祉法律事務所
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