2015年のF1復帰から苦戦を強いられてきたホンダF1。マクラーレンと袂を分かち、トロロッソと手を組んだ2018年シーズンでは、ホンダに明るい兆しが見えてきた。そんなホンダがいかに進化していったか、F1iのテクニカルエキスパート、ニコラス・カーペンティアーズがその軌跡をたどる。
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■日本式ジェットイグニッション機構の導入
F1のV6ハイブリッドパワーユニットが高い戦闘力を発揮するには、高出力と低燃費の両立が不可欠である。言い換えれば、いかに薄い混合気を効率よく燃焼させられるかの勝負といえる。その根本的な解決法としてメルセデスは初年度の2014年から、フェラーリも翌2015年中盤から、そしてルノーも2016年から、決め手となる技術として副燃焼室方式を導入してきた。
ホンダはすでに1970年代に、類似技術のCVCC方式を市販車で実用化に成功している。しかしF1ではかなり手こずり、苦労の末2017年にようやく導入にこぎつけた。単気筒ではそこそこの結果を出せていたものの、6気筒でのベンチテストになると様々な問題が噴出し、実戦デビューが果たせなかったのだ。中でも低回転域での極端なトルク低下や、車体に組み付けた際の異常振動に散々悩まされた。
2018年のパワーユニット『RA618H』では点火方式の変更や、圧縮比をさらに高くするなどの改良を加えている。ロシアGPで投入されたスペック2は更なるパワーアップに成功したものの、ホンダの得意分野だったはずのドライバビリティ低下の問題を招いた。燃焼が安定せず、唐突なトルク変動が起きてしまったのだ。しかし日本GPに投入した改良マッピングによって、ドライバビリティだけでなく異常振動も解決の道筋が付いた。
上の写真の直噴ポンプは左右バンクにひとつずつ置かれ、それぞれ500barもの圧力を発生する。
■正念場の2019年
2018年のホンダは、出力向上の課題はほぼ達成することができた。しかし信頼性に関しては、エンジン、ターボ、MGU-K(運動エネルギー回生システム)、MGU-H(熱エネルギー回生システム)を各8基も交換するなど、決して十分なレベルにあるとは言えない。
ホンダにとっては2019年からのレッドブルとのパートナーシップを見据えた、実戦的なテストの意味合いも確かにあった。全10チームの中で最高の車体を作り続けてきたレッドブルに、下手なパワーユニットは提供できないという相当のプレッシャーをホンダは感じているはずである。2019年シーズンのレッドブルが昨年以上に活躍できるかどうかは、いうまでもなくホンダの戦闘力にもかかっているのである。