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山崎エリイは今まさに“夜明けのシンデレラ”だ 大人と子供の過渡期表現したライブを見て

2019年01月09日 18:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 山崎エリイは、きっともうすぐ大人になってしまうーー


 昨年12月23日、東京・AiiA theaterで開催された『山崎エリイ SPECIAL LIVE~夜明けのシンデレラ~』夜公演を観て、そんな想いがふと過ぎった。同ライブは、昨年11月リリースの2ndアルバム『夜明けのシンデレラ』を携えてのもの。そのタイトルには、シンデレラの魔法が解けた後(=夜明け)でも、自身の力で幸せを掴んでいこうとする強い意志が込められているという。また、山崎が2017年に20歳の誕生日を迎えたこともあり、前作アルバム『全部、君のせいだ。』より歌詞の内容やサウンドの質感も大人びたものに。今回のライブは、現在の彼女とも重なるような“大人と子供の過渡期”を表現する一夜となった。


(関連:山崎エリイ、“20代初作品”への想いと抱負語る「まだ挑戦したことがない世界観を広めていきたい」


 その開幕を飾ったのは「a little little thing」。主人公の少女が、日常にある小さな幸せを見つけていくというフューチャーベースのナンバーだ。あわせて紹介したいのが、1stシングル表題曲で『夜明けのシンデレラ』にも収録の「十代交響曲」。こちらは鬱屈とした少女の心持ちを描いた、疾走感あるロックナンバーに仕上がっている。一見するとそのイメージに乖離のある両楽曲。しかし、「a little little thing」は「十代交響曲」から数年後の世界を描いており、明るい性格の少女も以前と同一人物とのこと。この思わずニヤリとさせられる仕掛けは、クリエイターのhisakuni(SUPA LOVE)がどちらも作詞・作曲・編曲を務めたことの賜物といえる。


 また、山崎は「十代交響曲」リリース時より、この少女をどこかで救い出したいと気にかけていたとのこと。だからこそ、「a little little thing」を披露した今回のステージでは、どこか報われたような笑顔を覗かせていたのだろう。また、前述した楽曲同士の“繋がり”を、ファンも上手く察していたのだと思われる。「a little little thing」はライブ序盤でのパフォーマンスにも関わらず、いきなりの大盛況に。その盛り上がりを象徴したのが、Bメロで打ち鳴らされるハンドクラップ。このパートは、会場全体を巻き込んでのものとなった。


 前述したファンによる“受け入れムード”の背景には、やはり「十代交響曲」があるのだろう。それは「十代交響曲」終盤にも、同様に手拍子を奏でるパートが用意されているからだ。今回の「a little little thing」は、「十代交響曲」と地続きの物語であるからこそ、ファンも自然と曲中のハンドクラップを意識したに違いない。そんなサプライズに、山崎が笑顔満点のパフォーマンスで応える様子がひたすらに微笑ましいばかりだった。


 楽曲同士の関連性という観点から、「Dreamy Princess」と「シンデレラの朝」にも触れておきたい。前者はミドルテンポの歌謡ポップス。山崎にとって初の個人名義楽曲であり、おとぎ話のような恋に恋い焦がれる歌詞が耳に残る。一方で後者は、最新アルバム収録の凛としたミディアムポップス。ライブでは、“シンデレラ”というキーワードが共通する両楽曲を続けて披露。最新モードの山崎による「シンデレラの朝」が、幼気なイメージの「Dreamy Princess」に対するアンサーソングとして届けられた。


 ここで印象深かったのが、山崎が各楽曲パフォーマンス時に見せた異なる“佇まい”だ。「Dreamy Princess」で、彼女はステージを降りて客席に。ファンの間を練り歩き、愛くるしい笑顔を振りまく。一方で「シンデレラの朝」では、薄ぼんやりとしたステージ上で、真っすぐに伸びるような歌声を響かせる。また、その表情も先程とは一変して、一抹の憂いの先で自分らしさを肯定する、以前よりもる大人びたものに思えた。だからこそ、〈ガラスの靴ならいらないって〉〈シンデレラにならなくていい〉という歌詞も、パンチラインとしてこれ以上ない強度を得たのだろう。


 既存曲と新曲を時折に対比させることで、シンデレラが大人になる“時間の流れ”を演出していたと思われる今回のライブ。並行して、山崎のアーティスト活動におけるステップアップを示すことも意図していたのだろう。そんな彼女の頼もしい成長は、アンコールでの語りにも象徴された。


 「ソロ活動を始めて、今まで臆病だった部分を『強くしなきゃいけない』という気持ちになりました。ソロが始まった18歳の時は、与えられた一個の物事に対して懸命に『努力しよう、頑張ろう』という気持ちで、すごく余裕がなくてですね……。リリースイベントだったり、取材やラジオなどが『2個以上になったらちょっと困っちゃうな~』という気持ちになることも多かったです。そこから『それじゃいけない』と思いまして。“気持ちの入れ方”をもっと強化して、自分のなかで『強く在りたい』と思いながら活動しておりました」。


 そして、山崎がアーティストとしての末恐ろしさを感じさせたのが、アンコールで披露した「ラズベリー・パーク」。只野菜摘と坂部剛が創出した、声優アーティストとしては規格外の約9分間という大ボリュームな楽曲だ。その曲中では、夕暮れ時に開かれた誕生会から、友人らと公園で朝を迎えるまでの模様が描かれている。


 なかでも、公演前からファンの間で話題となっていたのが、楽曲終盤をどのようなボーカル構成で歌い上げるかだ。同パートでは、エレクトロニカやブレイクコア、ポストロックを織り交ぜたトラックの上に、何層にも重ねられたコーラスが響き渡る。そしてステージでは、山崎が〈ようこそ ここへ ようこそ ここへ〉とメインパートを繰り返し歌唱。彼女の歌声とバックコーラス、そして幽玄なトラックが互いの輪郭を失い始める感覚は、同時に会場全体をどこか夢の世界へと誘ってしまうかのようだった。


 同楽曲の終着点であり、アルバムタイトルにも掲げられた“夜明け”。友人や大切な人と一晩を起き明かし、ぼんやりとした明け方にどこからか訪れる非現実感は、誰もが一度は経験のあることだろう。「ラズベリー・パーク」は、聴き手に対してそのような夢見心地を与える楽曲だ。それと同時に、アルバムやライブで一貫して提示してきた“リアルさ”を根本から反転させてしまえる点も、山崎と制作スタッフのもつ底知れなさの片鱗に触れるかのようで、その行く末がますます楽しみになった。


 彼女はきっと、自らの意志で大人になろうとしている。今回のライブが大成功に終わったのも、山崎のなかにアーティストとしての強い自意識が生まれ始めたことに裏付けられるだろう。魔法が解け、現実に直面したとしても、自身の力で幸せを掴もうとする“夜明けのシンデレラ”。その存在はまさしく、今、この瞬間を生きる山崎エリイなのかもしれない。(取材・文=青木皓太)