2019年01月07日 10:52 弁護士ドットコム
妻から解き放たれて人生をリセットしたいーー。こんな身勝手な理由で、突然、夫から離婚調停を申し立てられた女性から、離婚成立までの生活費についての相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
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女性は、夫から性格の不一致を理由に離婚調停を申し立てられ、自宅アパートも追い出されました。「離婚を考え直してくれないものか」とわずかな希望を抱く一方で、生活もかかっているため「正直こんな夫と修復は難しい」と気持ちは揺れ動いています。
夫にせめて生活費は入れてもらうよう頼みましたが、「お前の貯金から出せ」と払ってくれません。女性は離婚成立までの生活費を請求する「婚姻費用の分担請求」の調停を別に申立てようか考えましたが、これによって「修復を諦めた」という判断がなされないか心配しています。
婚姻費用分担調停を申し立てることで、離婚に同意していると判断されることはあるのでしょうか。平野武弁護士に聞きました。
「結論から申し上げますと、婚姻費用分担調停を申し立てたことを理由に『修復を諦めた』として離婚に同意していると判断されることはないといえるでしょう」
平野弁護士はそう指摘します。どこまでが婚姻費用に当たるのですか。
「婚姻費用とは、夫婦の婚姻生活を維持するために必要な費用、つまり、生活費のことであり、配偶者との間の子供の養育費なども含みます。
民法760条では『夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する』と定められています。
婚姻費用の分担が協議で決まらない場合には、裁判所に調停や審判を申し立てることが出来ます。
このように、婚姻費用は、婚姻関係が継続している夫婦間において、法律上、当然に負担すべき費用であり、離婚に応じるかどうかとは全く別の問題です。婚姻費用分担調停を申し立てたからといって、離婚に同意していると法的に判断されることはないと考えます」
どのような時に、婚姻費用分担調停を申し立てるのでしょうか。
「申立人としては、離婚する意思はあるものの、正式に離婚が成立するまでの間、生活費をきちんと支払って欲しいという思いで申立てを行う場合もあれば、離婚をするつもりはないが、子どももおり、これまでと同様に、生活費を支払って欲しいという考えで申立てを行う場合もあり、事情は様々です。
一方で、現在の裁判実務上、原則として、過去の婚姻費用は請求できないとされています。そのため、別居後、しばらく経ってから婚姻費用の分担調停を申立てた場合には、別居から申立てまでの間の婚姻費用は認められない可能性がありますので、注意が必要です」
婚姻費用分担調停を申し立てる人に、何かアドバイスはありますか。
「過去の婚姻費用は請求できなくなるおそれがありますので、とりわけ、子どもを養育されている場合などには、婚姻費用分担調停を申立てておかれた方がよいのではないでしょうか。
もっとも、夫婦間の事情によっては、調停の申立によって、事実上、より関係が悪化してしまうおそれも考えられます。諸々の事情をよくお考えいただいて、ご本人が納得される方法をご判断いただければと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
平野 武(ひらの・たけし)弁護士
1977年生まれ。京都大学法学部卒業後、2005年、司法試験合格。
大阪市内の法律事務所勤務を経て、2012年に独立して、「平野武法律事務所」開業。中小企業法務や家事事件(離婚、相続など)を中心に、精力的に事件に取り組んでいる。
事務所名:平野武法律事務所
事務所URL:http://hirano-law.official.jp/