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世武裕子、吉田一郎、ちゃんMARI……音の求道者が集うTK from 凛として時雨のサポートメンバー

2019年01月06日 10:51  リアルサウンド

リアルサウンド

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 昨年11月にニューシングル『katharsis』を発表し、ACIDMANをゲストに迎えた主催イベント『error for 0 vol.4』を東阪で開催したTK from 凛として時雨。このライブにはサポートメンバーとして、ベースに吉田一郎、ピアノに世武裕子が初めて参加し、新編成での活動をスタートさせた。そこで、これまで数多くのミュージシャンが参加してきたTK from 凛として時雨のサポートメンバーの変遷を振り返ってみたい。


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 フォトブック+DVDという変則的なパッケージングの『film A moment』(2011年リリース)でスタートしたTKのソロキャリア。その全貌が初めて明るみになったのは、2012年発表の1stアルバム『flowering』であった。345とピエール中野とともに、あくまで3ピースとしての高みを目指す凛として時雨に対し、ピアノやストリングスを交えての、より自由度の高い編成を特徴とし、狂騒的な激しさはそのままに、より壮麗な世界観を展開。


 『flowering』から現在に至るまで、一貫してドラマーを務め、TKのソロ活動に欠かせない存在となっているのがBOBOである。古くは54-71のメンバーとして、3点のみを使った異色のプレイスタイルが話題を呼んだが、現在ではフジファブリックやMIYAVIなどをサポートし、ドラマーとしての確固たるポジションを確立。TKのソロにおいても、激しさと繊細さを兼ね備えたプレイによって、その世界観を下支えしている。


 一方、ベースはこれまで複数のメンバーが参加。『flowering』から参加の日向秀和(ストレイテナー、Nothing’s Carved In Stoneなど)、2014年発表の2ndアルバム『Fantastic Magic』から参加の山口寛雄、2016年発表の3rdアルバム『white noise』から参加のTOKIE(unkie、LOSALIOSなど)と、それぞれ幅広いフィールドで活躍する手練れたちが並び、BOBOとのコンビで強力なリズムセクションを構築してきた。


 また、凛として時雨との差異という意味でも重要なピアノは平井真美子、大古晴菜、鎌野愛、ヴァイオリンには佐藤帆乃佳、須原杏、雨宮麻未子、チェロには橋本歩、村中俊之らが参加し、クラシカルな世界観をバックアップしている。


 そして、冒頭でも触れたように、2018年から新たに参加しているのが、ベースの吉田一郎と、ピアノの世武裕子。吉田は日向秀和の後を継ぐ形でZAZEN BOYSに加入し、2017年12月まで約10年に渡って活動。2015年には吉田一郎不可触世界名義でソロ作も発表している。また、かつてnine days wonderのサポートを務めていたことを思えば、元54-71とnine days wonderのリズム隊というのは、2000年前後の国内ハードコアシーンを知る者にとって、なかなかに感慨深い組み合わせだと言えよう。


 一方の世武裕子は、ソロアーティストや映画音楽作曲家として活動しながら、連続テレビ小説『べっぴんさん』(NHK総合)も含むドラマの劇伴、CM曲などを数多く手がけ、今年はMr.Childrenのアルバムやツアーへの参加も話題を集めた才媛。大衆性とオルタナティブな感性をあわせ持ち、クリス・デイヴとも共演した最新作『Raw Scaramanga』も非常に素晴らしい。


 TK、BOBO、吉田一郎、世武裕子、佐藤帆乃佳というラインナップで行われた『error for 0 vol.4』のライブは、あくまでTKを軸としながらも、それぞれのプレイヤーが高い熱量を放ち、高難易度の楽曲を再現していくことによって、研ぎ澄まされた緊張感がやがて圧倒的な高揚感へと移り変わっていくような、ドラマ性の高さを感じさせるものだった。


 また、12月14日にはめぐろパーシモンホール 大ホールで『Acoustic fake show vol.1』が開催され、ここではヴァイオリンの雨宮麻未子、チェロの村中俊之に加え、ちゃんMARI(ゲスの極み乙女。)がピアニストとして参加。ゲスの極み乙女。ではストリングスのアレンジにも携わり、最近ではシンガーソングライター・ロイ-RöE-のサウンドプロデュースを手がけるなど(メジャーデビュー作『ウカ*』には吉田一郎も参加)、彼女もまた才気溢れるアーティストである。先日のライブでは、アコースティックを基調とした優美な雰囲気の中、ときおりTKにも負けないテンションで情熱的なプレイを披露し、場内を大いに沸かせていた。


 こうして歴代のサポートメンバーの名前を並べてみると、単なるサポートというよりも、それぞれが一人のアーティストとして自らの足で立つ、音の求道者のようなミュージシャンばかりが参加していることがよくわかる。ソングライティングの軸はあくまでTKであって、メンバーが変わることによって、その音世界が180度変わるということはないものの、TKの世界に寄り添いつつ、それぞれが最大限のプレイをすることによって、固定メンバーの凛として時雨とは異なる、TKにとっての新たな刺激となっていることは間違いない。


 すでに2月からは『katharsis Tour 2019』の開催が決定。新編成のメンバーがどのようなカタルシスを生み出してくれるのか、今からとても楽しみだ。


■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。