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Eve『おとぎ』に感じた歌声の変化と物語性の深化 劇場先行上映会に参加して

2019年01月06日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 Eveが、2月6日のニューアルバム『おとぎ』リリースに先駆けて12月24日に、ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場で、全曲先行上映会を開催した。応募者多数のなか、奇跡的に足を運ぶことのできた約300名が、一足早く『おとぎ』の世界観を堪能することができたのだ。ライブとは違い、Eve本人による登壇はない。それでも、YouTubeなどの動画サイトにてすでに公開されている「アウトサイダー」、「トーキョーゲットー」、「アンビバレント」、3日間で100万再生を記録した「ラストダンス」のミュージックビデオや、この日のために作られた未公開曲の映像など、『おとぎ』の収録曲全てを収録順に観て聴くことができるという豪華な内容。1年に1度しかない12月24日のクリスマス“イブ”だけに、少しでも早くファンに作品を届けたいというEveの気持ちも来場者へのプレゼントとして伝わってくるような上映会だった。今回はその模様に考察も加えてお届けしたい。


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 劇場内では15時の定刻まで「アウトサイダー」「トーキョーゲットー」「アンビバレント」「ラストダンス」など最新曲が再生されていた。定刻を迎えると静かに溶暗し、Eve本人によるアナウンスが流れる。「……映画館は居心地がとても良いので、寝ないよう頑張って最後までお楽しみください」いつものように場を和ませるようなメッセージを残したところで上映会がスタートした。


 映画館ならではの大迫力の音場に包まれる中、巨大スクリーンで観る初めての映像に緊張が走るが、鮮明な音までもが聴こえる壮大な音像によって、来場者の心は満たされていく。2曲目が「トーキョーゲットー」で3曲目が「アウトサイダー」という流れで思い出したのは、2曲間でスクリーン上に亀裂が入るなどの迫力ある演出が施されていた『メリエンダ』公演。同公演に訪れた人であれば、ライブを思い出せるように工夫されているのかもしれない。ちなみに、「トーキョーゲットー」は、先日「ナンセンス文学」、「あの娘シークレット」、「ドラマツルギー」、「お気に召すまま」に続いて、動画再生数1,000万回を突破したばかり。ライブ時には、間違いなく高揚感を高めてくれる同曲は、“変化”について歌われているようだ。しかし、2017年5月20日公開の「ナンセンス文学」を機縁として、楽曲のスタンスを変化させてきたのはEve自身。「ナンセンス文学」以降のEveによる作詞作曲の楽曲が、今までにないほどのスピードで異例の記録を飛ばし続けていることこそが、Eveの“変化”を立証している。


 また、劇場では、Eveの歌声の変化にも気付くことができた。もともとリラックスした優しいボーカルではあるが、優し気な楽曲では以前に増して温かみが出て、「アウトサイダー」など、人の心の奥を刺すような楽曲では、彼のイメージを覆すような刺々しさを帯びた声になりつつあるような印象を受けたのだ。Eveのボーカリストとしての表現力には、まだまだ底知れないポテンシャルがある。


 さらに、映像と歌詞で一貫して見えてきたのは、“炎”による表現。「アンビバレント」の〈熱く燃える炎が心に灯るから〉などからもわかるようにEveの心の奥底にある感情は、勇気の比喩である炎で表現されることがある。幾度となく、彼の心に宿っては消えてしまいそうな僅かな炎を、消さないように、消さないようにと、歌っているのだ。“心の変化に戸惑いながらも、前進していきたい。昔の無垢な気持ちは忘れないように”ーー彼の心の内には、そんなヒューマニティがあり、とても温かなものとして伝わってくる。


 ほかにも、11月に行なわれた東京・新木場STUDIO COAST『メリエンダ』追加公演で初披露された「迷い子」や、Eveにとっては初となるゲーム(アクションRPG『ドラガリアロスト』)への書き下ろし楽曲「楓」のセルフカバーも再生され、Eveの魅力が詰まった全ての映像が公開された後には、再び本人によるアナウンスで終わりを告げた。


 一聴してみて思ったのは、前作『文化』とは異色のアルバムができあがったのではないかということ。サウンド面の深化と共に、物語性が増幅したような内容になっているのはたしかだ。『おとぎ』により、Eveは、またひとつ心のドアを開き、さらに広い世界へと進んでいくこととなるに違いない。そう確信できた上映会だった。(小町 碧音)